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Burning Tree / バーニング・トゥリー 1990

バーニング・トゥリーはアメリカ、ロサンゼルス出身のバンド。1980年代後半に一世を風靡したLAメタルとは一線を画し、クラシック・ロック、ブルース・ロックに意義を見出した最初で最後のアルバム。
若い3人のイケてる見た目とは裏腹に、装飾の無い筋肉質な演奏を繰り広げる。

「好きなギタリストは、ジミ・ヘンドリックスとスティービー・レイ・ヴォーン」

ギタリストのマーク・フォードはインタビューでこうコメントしている。
メイプル指板のストラト・キャスターにクリーミーなベースヘヴィサステインを加えるファズボックス、ビッグ・マフからのマーシャル・アンプの王道サウンド。敬愛する両名に真っ向勝負を挑んでいる。

作中のそこかしこにリアルなクラシック・ロックのエッセンスが散りばめられている

ずばり本作品はそのジミヘンドリックス&エクスペリエンス、エリック・クラプトンが在籍したクリームのパワーロックトリオの踏襲だ。他にもざっとあげれば、レッド・ツェッペリン、ローリング・ストーンズ、ジェフ・ベック・グループ、マウンテンなど聴けば様々なグループを彷彿させる魅力を持ったバンドだ。

メンバー

マーク・フォード ギター&ボーカル
マーク・ダットン ベース&ボーカル
ドニー・グレイ ドラム

プロデューサー

ティモシー・J・パーマー

曲目

1.Burning Tree
2.Wigs, Blues and High Heeled Shoes
3.Fly On
4.Baker's Song
5.Playing in the Wind
6.Masquerade
7.Crush
8.Last Laugh
9.Mistreated Lover
10.Turtle

曲目感想

1.Burning Tree

「ワン、トゥー、スリー、フォー」の生々しいカウントからE7#9の通称ジミヘン・コードからライブ感満載で始まる。
そのジミ・ヘンドリックスの「ストーン・フリー」が浮かび上がる。
ハード・ドライビングなギター以外にも特にドニー・グレイのドラミングはギタリストとベーシストのお尻を蹴とばすように最後まで煽っていく。つまり3者のせめぎ合いの演奏どこも聴きどころだ。

2.Wigs, Blues and High Heeled Shoes

前曲からの流れが良く、ここも同じテンションでドライビングしていく。強いて言えばレズリー・ウエストのマウンテンやクリームの音楽に似た「圧」が襲い掛かる。スピードの速い前半、中盤の音数が減る緩衝的部分に、ふと
SEが流れる。
どこかで聴いたシンプルな単音フレーズピアノ。。さりげなくニール・ヤングのアフター・ザ・ゴールドラッシュのにある小曲「Till the Morning Comes」をさりげなくサプライズとして挿入されている。

3.Fly On

イントロのビッグマフ=ファズをかけたギターのリフにピアノの力一杯被るフォルテ一発という組み合わせが強烈に耳に残る。
ストラトキャスターとワウ・ペダルとビッグマフをかましたサスティン。無論残響が伸びやかで、ジミヘンもそうだが、スティービー・レイ・ヴォーンの「Say What」のインスト曲のニュアンスに寄せて弾いてるな。など結局
両方に思いを馳せる。クリームの「ホワイト・ルーム」も思い浮かぶかもしれない。

4.Mistreated Lover

ストラトのシングルコイルの良さを活かしたサウンドにハモンド・オルガンが追随してくる。
このギター以外の楽器の組み合わせや配置や残響感が心地良い。
短めの中盤のソロも歪みを抑えたマイルドなソロとベースソロも挿入されるがベースのトーンも心地良いし、つまり全体の音がロックにハマっている。

5.Masquerade

ボーカルはベースのマーク・ダットンだろうか。彼のボーカルもロックしていてカッコいい。
曲中、レッド・ツェッペリンの「移民の歌」らしきリフが盛り込まれているが模倣ではなく、自身が消化されたエッセンスとして上手く取り入れていると言った方が当てはまる。
その移民リフの乗っかるギター・ソロは、ファズ&ワウ・ペダルの高速ストンピングを左右にパンニングさせていく。。
この完全なる時代逆行のアシッド&サイケデリックのアプローチを迷いなく
吹っ切って行く様こそ「ロック」なんだ
と断言できるのだ。

6.Playing in the Wind

この曲は(も)レッド・ツェッペリンの「天国への階段」の特に後半の展開の要素を上手く取り込みドラマティックな構成に仕上げている。
3人の均等な演奏バランスがレベルが高いので、様々な過去ロックのエッセンスを直ぐわかる位にあからさまに取り込んでいても、むしろ取り込むほど逆に好感度を増すという現象になっている。

7.Last Laugh

ギターのフレーズがローリング・ストーンズの「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」が直ぐに浮かぶ。それと全体「ストリート・ファイティングマン」に近い高揚感を感じる。兎に角3人のバランスとライブ感覚はとても生々しい。

9.Same Old Story

ジミ・ヘンドリックス&エクスペリエンスの「紫の煙」を正面から、直球を投げて来る。肉体と魂(ボディ&ソウル)の演奏が輝かしい。むしろ表現力が羨ましい。

10.Baker's Song

終盤のバラード曲。カントリー・タッチのギターのオブリと後ろで鳴る控え目なアコースティック・ギター。
ボーカルのコーラス・ワークや歌い方にもロックなカッコよさがある。

11.Baby Blue

一斉同時のイントロに、抑え気味のクリーミーなワウ・ペダル&ファズのブレンドしたギター。ダウナー気味に歌うマーク・フォードのボーカル。
ベース&ドラムのリズム隊は音の隙間を限りなく埋めていく。
こうして3人が音の隙間を詰め込んでも崩壊するどころか、どこにも見ないオリジナルな3ピースバンドだという認識をさせる曲だ。

12.Turtle

ラストはファズのフィードバック、ビッグマフのロング・サスティーンの魅力や音の美味しさを出し、そこにベースがリフを重ねるサイケデリック、ブルース・ロック曲。
中盤のワウギターのカッティングもクリーミーな音にシャープに切り込んでいる。

総論

均等に演奏配分された3ピースバンド

アメリカ西海岸の3人の若者がいつどこで吸収したのか想像が出来ないが、オールド・スタイルのロックではなくバンド演奏の本来の本質が凝縮されたクラシック・ロックとして本格的にで追求していた。
3人の演奏フィジカルとベクトルが一致しているパワーロックトリオ。
ただ少し現れるのが早かったのかもしれない。

後年、マーク・フォードはブラック・クロウズ、ドニー・グレイはLAガンズのメンバーに加入する。

プロデューサー ティモシー・J・パーマーの手腕

ギタリストでもある彼とバンドの融合はクラシック・ロックのスタイルをいかにモダンに仕上げるかという二律背反を上手くプロデュースしミキシングしまとめ上げている。
後にパール・ジャムのファースト・アルバムのプロデューサーに始まり1990年代の売れっ子プロデューサーに出世の階段を登っていく。
バーニング・トゥリーの作品での試行錯誤は財産になっているはずだ。

時代的にオルタナティブ&グランジロックの陰に隠れたしまったが、クラシック・ロックに本質と意義を見出し、リバイバルさせた名盤。

終わり


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