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The Byrds Live at the Fillmore 1969 / ザ・バーズ ライヴ・アット・ザ・フィルモア 1969

ザ・バーズ&マイケル・ブルームフィールド・バンドという贅沢なブッキングはロックのメッカ、フィルモアならでは!

アメリカのロック・バンド、ザ・バーズが2000年にコロムビア/レガシーからリリースした1969年のライヴ・アルバム。
コロンビア社はマイケルのバンドのライブ録音する為であり、先発のバーズはその日の業務の録音コンディションの確認用で、リリース予定はなかった。しかし、その録音は当時のバンドの全貌が把握できる貴重なライブ音源であった。ここまでの量と質のストリング・ベンダーのギター・プレイが聴けるライブ作品は他に無い。


メンバー

ロジャー・マッギン  ギター ボーカル
クラレンス・ホワイト  ギター
ジョン・ヨーク  ベース
ジーン・パーソンズ  ドラム


The Byrds Live at the Fillmore 1969 SET LIST

Nashville West
You're Still on My Mind
Pretty Boy Floyd
Drug Store Truck Drivin' Man
Medley: Turn! Turn! Turn! / Mr Tambourine Man / Eight Miles High
Close Up the Honky Tonks
Buckaroo
The Christian Life
Time Between
King Apathy III
Bad Night at the Whiskey
This Wheel's on Fire
Sing Me Back Home
So You Want to Be a Rock 'N' Roll Star
He Was a Friend of Mine
Chimes Of Freedom


曲目感想

Nashville West

オープニングのインスト曲からクラレンスのストリング・ベンダーを多用したハード・ドライビンなギター、ジーン・パーソンズのスウィンギン・ドラムがぴったりと追随する。曲名と同じナッシュビル・ウエストというバンドでクラレンス・ホワイトと一心同体でライブを行っていた。
フォーキーなロック・バンドでは無く、力強いカントリー・ロック・バンドへの変貌を冒頭から知らしめている。

You're Still on My Mind

すかさず、ペダル・スティールのフレーズがブレンドされたイントロのギターに突入する。安定した楽器演奏は、ロジャー・マッギンのボーカルも安心感が増す。
バッキングとリードが混在するプレイで、短い尺ながらも渾身のダブル・ベンドのチョ-キングが冒頭からさり気なく炸裂する!

Pretty Boy Floyd

アルバム「ロデオの恋人」のバンジョーが実際に入ったナンバー。ロジャーもこの曲を気に入っているのか歌が溌溂だ。
そして歌の裏でギターはブルー・グラスのフレーズを多用し、様々なフレーズの引き出しを惜しげもなく弾くクラレンスのバッキングも秀逸だ。

Drug Store Truck Drivin' Man

MCが長めに挿入されているが、1か月後にリリースされるニュー・アルバムの説明かと思われる。MC終了直後のストリング・ベンダーの炸裂するイントロのプレイが穏やかなカントリー・ソングなのにとてつもない緊張感が溢れている。

Medley: Turn! Turn! Turn! / Mr Tambourine Man / Eight Miles High

フォーク・ロック・グループであった初期のナンバーのメドレー。
ロジャー・マッギンのリッケンバッカーのコーラスがかったギターが良く聴こえる。

そして歌の隙間を這うようにクラレンスの極限に詰め込められた驚愕のカントリー・リックは、スタジオ盤では到底聴けない。メジャー・ペンタトニックのギター・フレーズがスリリングに炸裂し聴き逃せない。

最後のEight Miles High ではロジャーは幻想的なギター・フレーズをスタジオ盤と同じフレーズを弾くのに対し、クラレンスは音をわざと外したベンディング・フレーズを瞬間的に混ぜながら前衛的に展開。後半のソロはジミ・ヘンドリックスと引けを取らない怪しいトリッキーなプレイも極めて冷静に繰り出す。

Close Up the Honky Tonks

一転、クラシック・カントリーのバック・オーエンスのカバー。
短い尺の中にサイケデリアとカントリー・フレーズが混在する独創的なギター・ソロが炸裂。様々なストリング・ベンダーのフレーズをこれでもかと攻めていく。

Buckaroo

ライブも中盤に入り、流れを変える感じに組まれたインスト曲。インストなので無論クラレンス・ホワイトのギターの独壇場だ。バッキングとリードが混然一体となり、変幻自在に展開されていく。

ロジャー・マッギンは「ぼんやりとした弱々しいところが一切ない」とコメントしているが、ギターがバンドを牽引している象徴的なナンバーだ。
フィルモアのロックが大好物なオーディエンスは拍手喝采だ。

The Christian Life

アルバム「ロデオの恋人」収録のピュア・カントリーのナンバー。整頓されたスタジオ・バージョンよりこちらはライブも佳境に突入したのもあるが、ロジャーもクラレンスのギター・プレイに触発され熱唱している。

Time Between

オリジナルのカントリー・ナンバー。短いソロ尺にもかかわらず、限りなく昇天していく炎のギター・ソロが炸裂している。クラレンスの全力のプレイはオーディエンスを完全に魅了し、ロジャーも珍しく終了後嬌声を挙げる。

King Apathy III
Bad Night at the Whiskey
This Wheel's on Fire

「Dr. Byrd & Mr. Hyde」に収録されたナンバーは1か月後にリリースされる新作だ。ここまで会場が熱気を帯びていれば、曲を知ってるか知らないかとかは最早関係無い状況だ。
カントリーとサイケデリアとブルースが絶妙に入り交じる。3曲の独創性は会場の手応えも抜群だ。

Sing Me Back Home

新曲と初期ナンバーというセットリストの合間にマール・ハガートの1967年のカバーを挟む。
クラレンス・ホワイトとジーン・パーソンズが直近で在籍した「ナッシュビル・ウエスト」のライブ盤でも演奏している。慣れたセットリストを盛り込むが、エキサイティングでスイングしている。

セットリストのチョイスを見ても新加入のギタリストとドラマーの演奏の牽引力を尊重している。リーダーのロジャー・マッギンの民主的な運営が伺える。

So You Want to Be a Rock 'N' Roll Star

初期のナンバーがラストまで3曲続く。ロジャーのリッケンバッカーのイントロのフレーズがスタジオ盤よりもかなり躍動感がある。
クラレンスは歌のバッキングでもストリング・ベンダーのトリッキーなフレーズを織り交ぜ、終盤では2音ダブル・ベンド・フレーズをさりげなく盛り込むなど変幻自在。どんな曲が来ようが、クラレンスのギター・プレイは独自で圧倒的な存在感を放つ。

He Was a Friend of Mine
Chimes Of Freedom

スタジオ盤に忠実なフォーク・ナンバー2曲で終了。
クラレンスは有能なスタジオミュージシャンであり、多様なキャリアを展開できることも簡単なはずだ。しかし、リーダーのロジャーの歌やギターの演奏を称え、そこから新しい生命を吹き込むんでいく事こそが自らの使命であるのだと最後まで聴いて認識を深めた。


総論

ギターがバンドのサウンドとグルーブの磁場の中心で渦のように引きこまれていく。スタジオ盤に無いドライブ感が味わえる。他には無いユニークなバンドの音の聴こえ方になっている。

歌が埋没しないギリギリの音量と表現でプレイするクラレンス・ホワイト。そこに一心同体に本能的にキャッチアップするドラマーのジーン・パーソンズ。この2人の絶対的なコンビネーションでバーズというバンドが一気に蘇る。

クラレンス・ホワイトはスタジオ・ミュージシャンでキャリアを築くのではなく「どうしてもバーズというバンドのメンバーになりたかった」この思いが第一優先であった。それに賛同するように行動を共にするジーン・パーソンズ。それが本作品の生演奏を聴いて確信に至る。

デビュー当初からのメンバーはロジャー・マッギンしかいない中、バンド名の変更も考えたかもしれないが、2人の献身的な音楽とバンド愛によってバーズ存続へと踏ん切りがついたと推測する。
以降、解散までに作られていく充実したスタジオ盤とエキサイティングなライブとメンバーの安定化が図れられる。

このライブ盤の生々しいプレイを聴くと謎が解ける。


カントリー・ロックという概念を超えた1960年代の屈指のライブ盤。


終わり


追記
ストリング・ベンダー・テレキャスターは、クラレンス・ホワイトとジーン・パーソンズの共同開発で登録商標されている。
ギターの背面を削ってスプリングや工業工具を埋め込む大がかりな改造が必要。ジーン・パーソンズもバーズのメンバーに加入しないとメンテナンスなど不安要因が触れるのでライブのツアーにも支障をきたす。

その他にも、これだけ開発能力があれば、2人が常に現場で演奏して、色々な発想や構想が生まれるはずで、独創的な周辺機器なのかサウンドをエフェクトするものなのか何かしら誕生していた可能性も有ったかもしれない。


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