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ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス 1967/Jimi Hendrix Experience Are You Exprienced

ジミ・ヘンドリックス存命中3枚の中のファースト・アルバム

アメリカ人のジミ・ヘンドリックスが渡英し、オーディションで決定したベーシストとドラマーの3ピース・バンドのジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスが1967年に発表したデビュー・アルバム。
ジミの創作性は現在においても刺激に満ちてイマジネーションに富んでいる。

急激な人気上昇で多忙による才能の消耗が無いデビュー作

これまでジミの温存されてきた革新的なサウンドのイメージや曲、詞のアイディアを一気にアウトプットしている。
今まで聴いたことの無いロックが突然出現し、旋風を巻き起こす。頂点に立つのは時間の問題であった。現在進行形で衝撃を与え続ける奇跡の作品。

メンバー

ジミ・ヘンドリックス  ボーカル、ギター
ミッチ・ミッチェル  ドラム
ノエル・レディング  ベース
チャス・チャンドラー プロデューサー

曲目

Purple Haze
Manic Depression
Hey Joe (Billy Roberts)
Love Or Confusion
May This Be Love
I Don't Live Today
The Wind Cries Mary
Fire
Third Stone From the Sun
Foxy Lady
Are You Experienced?

曲目感想

Purple Haze

イントロの6弦と4弦と複数弦をまたぐフレーズは思いつきそうで思いつかない。そして通称ジミヘン・コードと呼ばれるE7#9は汎用性が有り過ぎて、ロックの常套手段化されたコードになっている。

1番目の歌が終わる直後のオクターブのフレーズも複弦でも弾けるが、開発した「オクターバー」「オクタヴィア」のエフェクターを使うことで倍音が生々しい効果を生んでいる。この倍音のアプローチの視点とセンスも独創的で革新的。

作品全体的に通じるが、オーバー・ドライブな歪みを自身のコントール下においてギターを弾きながら歌っていく。例えばグリッサンドを自然に取り入れる箇所を聴いても感じ取れるのが、相当の修練を積んだのが分かる。
歌とギターは身体の一部になっており、聴くにつれてエレクトリック・ギターの可能性を感じさせる。


Manic Depression

ミッチ・ミッチェルのジャズのバックボーンが分かるドラム・タムの連打。脳内をぐるぐる回転するようなドラミングとジミの作る前代未聞なリフとコード進行が化学反応を起こす。
一筆書きのような「その時に感じたビート」、「降臨してきたビート」が聴ける。

ギタリストでもある、ノエル・レディングのベースはジミが歌いながら弾く躍動感あるリフに追随、または相対するかのようだ。ギタリストの思考やフィーリングでプレイしていて、ここでもバンド独自の化学反応が起きている。

マニック(躁鬱状態)を具現化するかのうような半音づつ上がるイントロのフレーズやギターの音が太いダブルチョーキング、スタッカートの空ピッキングにサスティンを効かせた音符化できない音のソロ。

現代においても我々の脳内イマジネーションを存分に刺激してくれている。


Hey Joe 

怪しい解放弦のイントロに、キーがEの循環コード曲で、哀愁と怪しさが漂う。
ボトム弦の循環フレーズのアイディアやジミ独自の手癖フレーズの応酬が強烈で、カバー曲なのに、ジミのオリジナルと思ってしまう

Love or Confusion

東洋音階フレーズにサスティンを持たせたシタールの様な怪しいイントロ。そこからジミのギター・プレイはアンプの音量と骨太なフィンガリング(運指)とが絶妙に合わさり、独自の音の風景が展開していく。
電波の様なフェードバック音は天空と地上を独自言語で交信しているに違いない
聴き手の脳内をとことんコンフュージョンさせ、ジミの術中に引きずられていく。。

May This Be Love

前の曲と似た天空の雲海で戯る幻想風景が浮かぶ。
リバーブをかけた空ピッキングのさりげない曲のアクセント効果、クリーンなシングル・コイルのトーンも魅力的だ。
ジミが放つ超常的な音のインスピレーションを直感的に民族音楽の打楽器のようにドラムは刻んでいく。

I Don't Live Today

「今日を生きられない」という絶望をテーマにしたタイトル曲だ。
イントロのギターは、まさに混沌と絶望を独特の表現で具現化したフレーズだ。
半音ずらしや横展開を混ぜたりとした怪しいギター・フレーズとメインのリフとフィードバック。それに合わせた憂鬱な音作りは独創性を未だに失わずに革新的に感じる。

全体に言えるが、プレイを聴くにつれジミに1ミリでも接近して演奏してみたくなってしまう不思議な魅力と磁場を持っている。


The Wind Cries Mary

ストラトキャスターのシングル・コイルを活かしたクリーンなサウンドも魅力的で存在感を放っている。
ソウル風のバッキングのギターとオブリガードのフレーズが一体となっているコード・トーンも有効的だ。

またベース・ラインは曲のイメージに直接的に聴こえる。怪しい天幕を覆うような発想力からもノエル・レディングもジミに現在進行形でインスパイアされているに違いない。

Fire

身体に馴染み込んだソリッドなオクターブ(複弦)のギターのイントロのフレーズ。そこからベースとドラムがなだれ込んでいき、メンバー横一線のバンド・サウンドのカッコ良さ。ここでようやくノエル・レディングとミッチ・ミッチェルのコーラスが聴ける。

ノエルのベースもギタリストの思考でベースをプレイしている。2人の双璧のフロント・マンに触発されている。ミッチはジャズ・スイングをパワフルに解釈したドラミングが相乗効果を生み、最強の3ピース・バンドの音が聴ける。

Third Stone from the Sun

ミッチ・ミッチェルの血肉化されたスイングしたドラムを土台に、アシッド&フリー・ジャズへと接近していく。

メロディのテーマのオクターブ(複弦)フレーズもクリーン・トーンが聴ける。前半は純正のジャズだが、後半はジミのフリー・スタイルでハードコアなギターを弾き倒していく。

ギターのアーミングやペグを緩めたドローンとしたフレーズ、エフェクターを踏んで凶暴に歪むファズをかけたフィードバック音など、固定観念を打破し、一歩踏み込んだ表現をしている。

Foxy Lady

怪しさ満載のサスティンをかけたロング・ビブラートのイントロだ。
6弦2フレットから1弦と2弦5フレットにスキップした誰も思いつかない、ジミらしさ全開の変則Eマイナー・コードに「そんな表現があったのか」と衝撃が走る。

ハラハラするバッキングのコードとファズで歪ませたフィードバックとアーミングは我々の脳内を刺激する。

Are You Experienced?

ギターのストラトキャスターのシングル・コイルのギターの単音が太い。
しっかりしたピッキングによってギターが鳴っている。
例えば開放弦が入ったAのコードの箇所は、エフェクターに頼らずとも太く鳴らすことが出来ることを証明している。

中盤以降の逆回転のギター・ソロ音はカオスだ。迷宮に入ってしまったような「怪しい音の万華鏡」と言った音のコンセプトは以後ジミのアイディアの源泉となっている。

総論

ジミの存在に世間が気づくのも時間の問題であった

ジミを見出したプロデューサーのチャスチャンドラーは、「これほどの才能に誰もまだ気がついていなかったなんて、何か裏があるのではないかと不安になるほどだった。」とのコメントがある。

ジミの脳内にあるファンタジーと狂気を彼が具体化し、一般の音楽ファンに
届くように噛み砕いて1枚の作品を仕上げた功績は計り知れない。

エフェクターや機材の飽くなき探究心

ジミはアメリカ軍隊の空挺師団の経歴がある。空挺の轟音のジェット機や
軍事兵器の爆音や電波ノイズは、職業上身体の一部になっていたと思われる。

渡英後に英国海軍本部の水中探索プロジェクトの音響エンジニアの一員
として働いていたロジャー・メイヤーと接触している。
イギリスの大型のマーシャル・アンプをよりパワー・アップさせたものを追求していた。
ディストーション(歪み)、オクターブ(倍音)をエフェクターとしてコントロールできるものを作ってもらうように誰よりも具体的なイメージを伝えていたのではないだろうか。
そこで元軍人同士の戦闘機の爆音イメージなど共有出来ていたのではないだろうか?

ギターのフィードバックはノイズではなくサウンド

ジミはギターを猛練習している。寸暇を惜しんで取り組んでいる。一体どのようトレーニングや上達するための情報をしていたのだろうか。

ジミの演奏は楽器と肉体が一心同体化している。作品の中でも何回も繰り返して手癖になるまで習得したフレーズが散見するし、太い単音フレーズを聴くとピッキングの基礎練習も相当積んでいたと思われる。

一方で上記の現実的な理屈を飛び越えた、ミステリアスな部分も感じる。
スケールをなぞってソロを弾くのでは無く、天啓のように降臨したようなオーラ的なものも感じる。

天空から受信した、もしくは今その場で交信しているかのようなギター。。4年間という限られた地上の時間の中でこそ奇跡を起こせたのでないかというような、ファンタジーをも妄想してしまう。

ロックという概念が具体化され、ある意味完成してしまった作品。


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