エリック・クラプトン 2024 / To Save a Child (Live Album)
2024年1月にガザの子どもたちへの寄付を目的の有料配信
2023年12月8日 ロンドン、パークロイヤルのRDスタジオで行なわれたチャリティー・ライヴ。2020年以降演奏活動もYOU TUBEでも見れるが、正式リリースされた作品として最新のライブとなり捉え方や聴き方も違ってくる。
バンドのメンバーも旧知のベテラン・メンバーが参加し、盤石な演奏を土台に、昔からのお馴染みのナンバーとブルース・クラシックで構成されている。
アマゾン・ミュージックで視聴可能
メンバー
エリック・クラプトン ギター&ボーカル
ドイル・ブラムホールjr ギター
ネイサン・イースト ベース
ソニー・エモリー ドラム
曲目
1 Voice of a Child
2 Tears In Heaven
3 Layla
4 Nobody Knows You When You're Down and Out
5 Key to the Highway
6 Hoochie Coochie Man
7 River of Tears
8 Got To Get Better In A Little While
9 The Sky Is Crying
10 Crossroads
11 Give Me Love (Give Me Peace on Earth) (feat. Dhani Harrison)
Bonus Track
12 Prayer of a Child
曲目感想
1 Voice of a Child
2 Tears in Heaven
ボーカルの活舌が良く音声もクリアに聴こえて来る。マイクの集音も全体を含めて綺麗に取れている気がする。本人の健在さが一番の要因であるが、マイクの機能性向上は動画配信需要の高まりで向上しているのかもしれない。
1曲目の「Voice of a Child」は今回のテーマに沿った形に見える。このインスト曲は、曲調が叙情的で暗い映画のBGMのようで、ライブで背景のスクリーンで映像が流れていてもおかしくないくらいの質感だ。
長年に渡って弾き込まれたのが分かるマーティンのアコースティック・ギターも孤独に乾いた音を静かに爪弾く。
1曲目終了後、一呼吸置いて「Tears in Heaven」に入る。元々の制作の経緯は他界した実子の安息を願う歌であるが、今回のチャリティのテーマに(残念だが)合致している点で悲しくもハイライトになってしまっている。
冒頭にどうしようもなく悲嘆にしかならない連続した2曲になっている。
03 Layla
1992年のMTVアンプラグドで従来の性急なテンポから大胆にスローに落としたアレンジ以降両方お馴染みのバージョンとして32年経ってしまった。
本作もスローでさらに味わい深い。歌い方で深みを増している。芸が一層枯れて水墨画の様な淡い境地を感じる。
アンプラグドと演奏で違う点としては、装飾的にドイルのエレキのギター・ソロとベースソロに続いてエリックの音数と少な目のコンパクトなアコースティック・ギターのソロが増えている。
04 Nobody Knows You When You're Down and Out
続いて3曲目のMTVアンプラグド収録曲が続く。この曲調に触れると自然に「アンプラグドの作品」が蘇ってしまう。あの和やかな雰囲気が美しく、そしてもうあのきらびやかな良き頃に戻らないであろうと思うと切ない。。現在のバージョンと条件反射的に対比して聴いている。
この曲のアコースティック・ギターのフィンガー・ピッキングは、難易度が高い。さらに歌いながらとなると相当の修練を要することになる。
まだまだチャレンジ精神を持ってアコースティックのナンバーに挑んでファンを魅了して欲しい。
05 Key to the Highway
ここからアコースティック・セットからエレクトリックのセットに変わる。ごく自然に転換してライブの流れが良い。
2002年の「One More Car, One More Rider」のライブ盤の1曲目でアコースティック・ギターのソロの弾き語りは収録されていた。今回はバンド演奏を収録している。
デレク&ザ・ドミノスの頃から半世紀以上経過している。長い期間演奏して洗練され、シンプルなペンタトニック・スケールのソロになっている。
シンプルだからと言ってオーディエンスも飽きているかとそうではなく、行き着いた先のような味わい深さが付加価値になっている。
6 Hoochie Coochie Man
MTVアンプラグドの次の作品が全曲ブルース・クラシックのカバー・アルバムの「From the Cradle」をリリースするが、そこからの収録曲。
長年に渡りライブで演奏され尽くした3コードのブルース・ナンバーは、揺るがなく完成された演奏だ。
予想可能なシンプルなペンタトニック・スケールのギター・ソロ。フロント・ピックアップの甘めにしミッド・ブーストで歪ませている。「From the Cradle」の頃のギブソンのES-335の音を彷彿させる。
7 River of Tears
1998年リリースの曲は今回のために存在していたのではないかと思う位に伏線を回収している。
クラプトンも本人の心の中に巡る様々な思いを噛みしめて歌っている。そしてギターが泣いている。バックの演奏も終盤に来てじわじわと熱い。終了後のオーディエンスの拍手もひと際多い。ここも本作の聴きどころになっている。
8 Got to Get Better in a Little While
デレク&ザ・ドミノスの幻のセカンド・アルバムに収録予定だったナンバーで2000年代に入り演奏される機会が多い。1988年のアンソロジーで発表されている。
レイドバックしたスタジオ・バージョンからアレンジが大幅に変わり、ファンキーなジャム・セッション的要素を盛り込みフリースタイルで各メンバーがソロを取る。特にソニー・エモリーのドラム・ソロがこれまでの空気を換えて全体をぐっと盛り上げる。
ところで冒頭に聴こえるエリックのエフェクターは、ほぼこの曲だけと言っていいジム・ダンロップのGCB95のワウ・ペダルが使用されている。
ところが最近このワウ・ペダルのフロント部分には「cry baby」と書かれたプレートが付着しているが、下部に小文字で「CLAPTON」と追加で書かれたプレートをネットの足元の拡大写真から分析されている。
聴いた感じでは従来とワウ・ペダルの音との変化は分からないが、ワウ・ペダルも踏み込み加減や周波数など商品によって微細に違うので今後シグネチャー・モデルの可能性もあるので新しい情報が出てくるかもしれない。
9 The Sky Is Crying
キーがCのスロー・ブルースだと、全く同じテンポと構成でデレク&ザ・ドミノス時代に収録されている「Have You Ever Loved Womann」の方が演奏頻度が高い。
ただ今回の趣旨だとこちらのタイトル曲の方が相応しいと思われるので互換している。
メイプル指板のストラトキャスターはブライトな音がスローのギター・ソロだと一層際立つ。
10 Crossroads
1968年の「クリームの素晴らしき世界」のライブ・バージョン以降56年ぶりという半世紀以上をまたいで演奏しているということになる。
この曲と「レイラ」がセット・リストから外れるというのはファンにとって有り得ない。
抑制された曲が多かったが、ここにきてパワフルでカロリーも高く満腹感のあるナンバーで終盤で盛り上げる。
11 Give Me Love (Give Me Peace on Earth) (feat. Dhani Harrison)
平和を願う今回の趣旨に合致したジョージ・ハリスンのソロ時代の曲のカバーでライブを締めくくる。他界した父ジョージ・ハリスンに代わり息子のダニー・ハリスンが参加している。
気になるスライド・ギターはドイル・ブラムホールjrが弾いている。同じフレーズとタイム感を弾いてるのにジョージ・ハリスンのトーンと異なる。
スライド・ギターは通常の奏法よりも、人柄や個性の違いが如実に表れるのを認識した。
Bonus Track
12 Prayer of a Child
YOU TUBEの映像もあるように救いようのない地獄に悲嘆に暮れたエリック・クラプトンの歌。マーティンのアコースティック・ギターを音数少なく爪弾く。淡く枯れ果てた世界を平坦に暗く締めくくる。
総論
今後もライブを続ける活動宣言とも取れるライブ・アルバム
以前よりもギター・ソロの音数も少なく徐々に枯れているが、それでもギターもボーカルに関してもまだまだ現役最前線で続行していく様が伝わる。
サウンド・セッティング
ワウペダルと空間系の音はレズリー・スピーカーのスイッチで変換される2つのエフェクターだけで歪み系が一切無い。
ミッド・ブーストを内蔵させたギターであればギターの手元のノブで調整してミドルのピックアップにチェンジすれば、ギター・ソロもサスティンが得られた従来のパワフルなソロが実現できる。
ただ、ミッド・ブーストも独特の音なのもわかるのでこの出音に合わせてフレーズを弾く=エリック・クラプトンの独特のフレーズも今回ライブ・アルバムを聴いて再認識できた。
昨今多くの他界した著名アーティストの分まで今後も活動を継続してファンを魅了して欲しいと願うライブ・アルバム。
終わり
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