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#49 ランシド『トゥモロウ・ネヴァー・カムズ』
服部さんへ
お、ジャネール・モネイ様ですね。実はこのアルバム、時々聴いておりまして、タイトルも意味深で自らお脱ぎになっている「Lipstick Lover」のMVには、「恐れ入りました」というほかありませんでした。「Water Slide」のMVも、攻めていますね〜。
おっしゃるようにラップが心地よくて、無国籍でポップなトラックと相まって、聴いているととてもリラックスできるんですよね。彼女もそうですが、ここ数年で、ラップとヴォーカル・メロディの境界線がなくなってきたというか、両方を操るアクトが増えて、今ではもう普通ですよね。初めは「中途半端〜」などと思ったりしたのですが、気づけば好きなスタイルになっていました。
パンセクシュアルのジャネール・モネイの表現それ自体が、ステイトメントになっているのはわかります。そこも掘り下げてみたいけど、それを置いておいても、ポップ・ミュージック、ダンス・ミュージックとして圧巻の完成度を誇っているアルバムであるところが、今作のすごさだと思います。
ランシド『トゥモロウ・ネヴァー・カムズ』
18年暮らした故郷は(今は)好きだし、悪く言いたくはないが、親兄弟しかり、友人しかり、人生の最優先事項は「安定」であり、それは今もさして変わっていない。おのずと人気の職業は、公務員。教師は一目置かれる。だからいまだに親からは、定職に就かない残念な中高年息子と思われているし、友人からは、フリーランスとやらになった変わり者と思われている。
当時は、わけのわからない違和感に苛まれていた感じで、うまく言葉にはできなかったのだが、今はわかる。そうした価値観の中で生きるのは無理だと肌で感じていたから、僕は高校卒業後、上京したのだ。そしてこれは完全な後付けであり、カッコつけて言うのだけど、そんな僕が「自分らしく」を体現するパンク・ロックに惹かれたのは必然、運命だったのだ。イエイ、カッコつけてやった。
前置きが長い! ゴタクはいいから歌え! と、ランシドの兄貴たちに突っ込まれそうだ。今回のニュー・アルバムはなんと、全16曲でトータル28分強。もちろん、過去最短だ。しかも、ポップでメロディックでスピーディな、痛快さを極めた楽曲がズラリと並び、何よりコーラスに顕著な一体感、連帯感がハンパじゃない。
このアルバムを何度も繰り返し聴いては、泣きそうになっている。ああそうさ、残念な変わり者のあたしゃ、パンクで泣いちゃうんだよ。ゴメンね母ちゃん、公務員にならなくて。でも、こんなふうにしか生きられないのですよ、はい。
鈴木宏和
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