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クラシック初心者が音楽事務所に勤務して感じた、クラシック音楽を広める「切り口」

わたくし、現在は、ボーカル・ボイストレーニングの教室を運営していますが、実は以前、クラシックの音楽事務所に勤務しておりました。小さい頃から様々な音楽を聴いて育ったものの、当時、クラシック音楽に関しては、全くの初心者。入社前の面接で、「最近行った公演は?」と聞かれた時は、「ドラリオン」と答え(※シルク・ドゥ・ソレイユですね)、入社後、ツアーパンフの翻訳をしている際は、「Queen of the night」がわからず、先輩に質問する始末(※夜の女王:魔笛ですね)。よく採用していただいたものだと、今でも思います。

初心者で入社したものですから、アーティストや、周りの方々に迷惑をかけながらも、必死で勉強をしました。でも、クラシックの初心者だったからこそ、「当たり前」が当たり前でなく、他のジャンルとの違い(面白さ)に敏感になったのかなと、今では思います。


クラシック公演(オペラ・オーケストラなど)に関与していく中で、一番最初に感じたのは、「クラシックファンは、純粋に音楽を聴いているというよりは、「違い」を楽しむ傾向が強いのでは」ということでした。

例えば、「椿姫」が好きだと言っても、「椿姫」だったら何でも良いわけではありません。指揮者、オーケストラ、その日のキャストはもちろん、演者の調子や、お客さんの熱気など、それこそ、無限の要素が奇跡的に組み合わさって、初めて名演というものが生まれる。詳細まではわかりかねますが、イメージとしては、そのような感じで鑑賞しているように思います。「(他と比べて)この部分は良かったけれど、ここはイマイチだった。」。公演後は、そんな感想を持つ人が多いのではないでしょうか。

「同じ楽曲を「違う人」が演奏する」ということが当たり前のクラシックに対して、ポップスは基本的に、アーティストと楽曲が結びついています。もちろん、その日その日で、演奏の良し悪しはあると思いますが、特定のアーティストの公演を観に行く、聴きに行く、それ自体が目的であり、他のアーティストと演奏内容を比べるということは、あまりありません(比べる以前に、別物といった方が良いかも)。その日のコンサートに満足したかどうか。クラシックと比較すると、もう少し、大枠での感想が中心になると思います。


そういうわけで、クラシック初心者が、クラシック公演に行くと、聴き方としては、上記2つのうちでは「ポップス寄り」となるため、その公演「単体」で、楽しめるかどうかという観点で聴くことになります。曲を聴いていくための「切り口」がありませんので、「知らない曲」、かつ、「長い曲」の連続となると、そりゃ、眠くなるわけです。

ところが、(私の例で恐縮ですが)ツアーで各地を回ると、同じ演目の公演を少なくとも、10回以上は聴くことになります。すると、クラシック初心者の私でも、「今日はいいぞ」とか、「ばっちり合った!」と、当初は聴こえなかったものが、聴こえてくるようになるわけです。そうなると、俄然、楽しくなってきます!


「違いがわかる」というのは、受動的だったものが能動的に変わる瞬間です。知的好奇心、探求心をくすぐられますし、違いがわかるようになるからこそ、その先で、「音色が美しい」とか、「みずみずしい」だとか、具体的な音楽表現を楽しむことができるようになるのだと想像します。


誤解を恐れずに言うならば、クラシックは、「敷居が高いのが売り」ということになるのではないでしょうか。深く踏み込めば踏み込むほど、味が出てくると言いますか。だから、いくら初心者向けのコンサートだとしても、どんどんと角を削って、わかりやすい曲、解説付きでとなると、全てが受動的となり、お腹いっぱい。「クラシックコンサートに行った」という事実で満足し、次へと繋がりません。

多少地道になったとしても、「違い」を感じ、他の演奏も聴いて「比べてみたい」と思わせる企画を練ることが、初心者をクラシックの世界に導くカギになるのではないか、というのが私の考えです。


クラシック音楽、今では大好きなジャンルの一つです。


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