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【7/17横浜戦●7/18巨人戦●】それでも戦うヤクルトの姿を、息子と見られること

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私はまた、大好きなムーンライト・シャドウの一節を思い出す。

「風邪はね。」「今がいちばんつらいんだよ。死ぬよりつらいかもね。でも、これ以上のつらさは多分ないんだよ。その人の限界は変わらないからよ。またくりかえして風邪ひいて、今と同じことがおそってくることはあるかもしんないけど、本人さえしっかりしてれば生涯ね、ない。そういうしくみだから。」

そういえば前にこの一節を書いたのも、巨人戦だった。2019年、それは、16連敗があった年だ。

あれからヤクルトにはほんとうに、いろんなことがあり、優勝し、日本一にもなり、最速のマジックが点灯し、…そしてそれはあっというまに消滅し、そして今チーム最大のピンチを迎え、またこの一節をかみしめている。

二ヶ月ほど前に取ったハマスタのその席は、目の前を選手が通る楽しい席だった。私からの息子への誕生日プレゼント、「横浜を遊び倒す」の一環である。もう最近息子は「ほしい物」とかほとんどなくて、だいたい「おいしいものを食べたい」か「どこかへ行きたい」か「野球を思いっきり見たい」なのである。「ママと二人でハマスタ行って、中華街で小籠包食べたい!!」と言うので、はりきってハマスタのエキサイティングシートと中華街の「萬珍樓 點心舗」のランチを予約した。なんせ多忙な小6なので、こういうときは思いっきり満喫するのだ。

早めに球場につき、席に座ると、ヤクルトたちがバッティング練習をしていた。「ママ見て!!並木くんの腕の筋肉すごいよ!!」と息子が言うのでそちらの方を見ると、捲り上げた練習着から、いやもうそれはほんとうに、すばらしい腕の筋肉がのぞいていた。

「ひょーーーほんまや、並木くんってあんなムキムキなんやな!!」と、私はびっくりして言う。筋トレを始めてから人の筋肉ばかり見ているわけですが、並木くんの筋肉はほんとうに立派だった。「なんかさ、あんな足が速いと、上半身の筋肉ももっと細そうやのに、やっぱりちゃんと腕も鍛えてるんやなあ…!当たり前かもしれんけど。ちゃんと野球選手の筋肉やなあ。すごいわ。プロやな。」と、私は早口で息子に話した。「ねー!!すごいね!!かっこいいね!!!!」と、息子はうれしそうに言った。

それは、並木くんの努力の結晶なんだよな、と、そう思った。並木くんは陸上選手じゃなくて、野球選手なのだ。当たり前だけれども、でもそう改めて思った。速く走ることは並木くんの武器だけれど、それはそうとして打つことをもちろん求められる。あれだけのスピードで走りながら、並木くんは日々腕を鍛え、バッティング練習に励んでいる。

その席はそういう、みんなの努力が垣間見える、そんな席だった。

君の努力の結晶、今咲き誇れ。と、私は思った。(雄平は元気かな。)そろそろ、勝たせてあげたい。二軍で汗を流し続けたみんなの努力が報われるところが見たいと、そう思った。

でも、だけど。ヤクルトは今日も勝てなかった。試合開始直後に、必死に、必死に取った2点、大事な大事な2点は、あっという間に返され、追いつかれ、そして逆転された。なんだかもう、心が音を立てて折れていく気がした。そうだったな、勝つのってこんなにも、こんなにも難しいことだった。「ヤクルトファン泣いちゃうんじゃないかな…」という声が聞こえた。ほんとうに、泣いちゃうよ。と、私は思った。終わってみれば、2-10でヤクルトは、負けていた。

「僕が引っ張る」と言い切った村上くんは今どんな気持ちでいるのだろう、と思った。ほんとうに、ほんとうに打撃で引っ張ってくれているのだけれど、それでも勝てないことに、どんな思いを抱えているだろう、と。その心のうちを思うと、なんだかいたたまれない気持ちになってしまう。

だけど、大きなため息をつきそうになった時、息子がこちらを向いて言った。「あーーーー楽しかった!!!!!ほんといい席だった!!!ママありがとう!!!!!」ほんとうに、ほんとうにうれしそうな顔をして、そう言った。

「息子がそう言ってくれたらめっちゃうれしいよ、こちらこそありがとう」と、私は言った。「たしかに、ほんとに楽しかったね。ビールもカレーもおいしかったし、みんなすっごい近かったね!」そう言うと、息子は「うん!もう僕、この席立つのがめっちゃ惜しくて、ごはん買いにいく時間ももったいなかったもん!なんか、こんなじっくり野球みたの久しぶりで楽しかった!!」と、にこにこと言った。

たしかになあ、と、私は思う。もう目を背けてしまいたくなる場面もある。こんな高い席で、何を見ているんだろうか…と、思ってしまうこともある。「負け」がある趣味って、なんてつらいんだろう、と、思うこともある。でも、やっぱり、一つの「勝ち」をとりにいくために、それがどれだけ難しくても、日々努力し続けて、体を鍛え続け(それは私のランニングなんかとは比べものにならないくらい、ハードなものだ)、そしてその一瞬に力を込める選手たちを、こんなに近くで見られる時間は、そしてそれを息子と二人で共有できる時間は、やっぱりなにものにも代え難い。

息子はぐんぐん成長し、もう知識という意味では私よりもたくさんのことを知っている分野もいっぱいある。一人で人生を歩き始めるまでは、もうあと少しなのだろう。だから今この瞬間を、私と同じものを息子がこんなにも好きでいてくれること、それはもう、奇跡みたいなものなのだ。その時間があることは、ほんとうに、ほんとうに、素晴らしいことなのだ。

その共有する時間で見るものは、なかなかハードな試合だ。今ヤクルトが立たされているのは紛れもなくピンチの場面だ。

27人ものメンバーが離脱し、それでも勝ち続けていけるほど、現実は甘くはなかった。いつもいつだってピンチをチャンスに変えていけるほど、誰もが強くはなかった。うまくいかない瞬間を山のように目にした。でもそのどれもが、この先の息子の人生でもきっと、起こることなのだ。うまくいく日もいかない日も、きっとある。それでもまた明日がやってくることを、明日また、戦っていくことを、それを息子がヤクルトを見ながら学んでいってくれ
るといいなと思う。

負けたとしても、努力し続ける姿を見せてくれること、負けたことで「悔しい」と思う、その表情を見せてくれること、絶望も希望もひっくるめた現実がそこにあり、それでもまた明日と切り替えて走り続けるところを見せてくれることが、息子にきっと、いろんなことを教えてくれる。私はその瞬間に立ち会えることを、うれしく思う。

それがこの先の、息子の人生の小さな力になるといいなと思う。私は隣をずっと歩いてはいけないから、一人で走るときにそれを思い出してくれるといいなと思う。

ヤクルトは、サンタナが戻ってきて、長岡くんや内山くんが戻ってきて、少しずつ、少しずつ、「良く」なってきている。18日の試合は、取って取られて取られて取って…取られて負けたけど、でも、取って取られてができるところまではきている。あと一歩、あともう少しなのだと思う。連敗中に見えるこの、「あと少し」という感じを私はまた、思い出す。

それは、もしかしたら幻かもしれない。「そんな気がする」だけと言われればそうかもしれない。でも間違いなく、それは「光」なのだ。しんどいときは、そういうのをがんばって探しながら、拾い集めながら、前を見てみんな歩いていく。今までだってそうやって乗り越えてきたのだ。なにくそ、と思いながら、この苦境に立ち向かっていくしかない。

風邪は、今がいちばんつらいのだ。またくりかえし風邪ひいて、今と同じことがおそってくることはきっとある。でも、それ以上のつらさはない。ここをなんとか、みんなで乗り切って、また最高の笑顔が見られますように。がんばれがんばれ、道はまだまだ、続いていくのだ。

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