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【4/27、28広島戦◯◯】 熊本とヤクルトと私の二日間

もう5年ぶりくらいに、熊本行きの飛行機に乗った。夫は学生の頃「熊本はあったかいからコートを買ったことがない」と言っていたのに、結婚して初めて行ったお正月の熊本は雪が積もっていて、「いやうそやん東京より寒いやん!!!」と、私は空港で叫んだ。以来、熊本は私の中で「めっちゃ寒い場所」と認識されている。

ところが4月の晴れた日の熊本は、驚くほどに暖かかった。いや、暑かった。空は高く、太陽ががつんと降り注ぐ。火の国だ、と、思う。

父の取引先の、熊本のハウスメーカーの社長さんが私のおじいちゃんのことを書いたnoteを読んで、「ぜひ娘さんに仕事をお願いしたい」と、父に言って下さり、熊本まで呼んで下さった。

「父の会社の人」に会うのは子どもの頃から何度かあったけれど、「父の取引先の会社の方」に会うなんて、それはさすがに初めてのことである。

空港まで迎えに来て下さった社長と社員さんたち。私のスーツケースを見て、「グローブ・トロッターですか?かわいい!!!」と、言って下さった。もうそれで私は一気に、この会社を好きになってしまったのである。早い。

駐車場では、制作会社の社長さんが待ってくれていた。彼は私のスニーカーを見て、「ヴァージルですか?」と言った。このスニーカーにつっこんでくれたのは、おいでやすこがのこがけんさんと、この社長、木下さんだけである。もう一気に、この人たちをまとめて好きになってしまった。早い。

その日は、その会社が持つ山奥の製材工場に連れて行っていただいた。その小さな工場で働く75歳のおばあちゃんが、「あー社長!!」と、うれしそうに出てきてくださる。社長がまたうれしそうに、「元気にやっとる?」と、にこにこ話しこむ。あとから「ほんとうにうれしいんですよ、あんなふうにいつも話してくれることが」と、社長は言う。

熊本の太陽に照らされたその情景が、なんだかまっすぐに私の心の奥まで突き刺さってきた。一日かけて、私はこの会社のことが大好きになりそして、そんな会社と一緒に父が仕事をさせてもらっていることをが心底うれしいと思った。人生、どんな出会いがあるかわからない。

さてそんな土地で育った村上くんは、二日連続で打点をあげた。会合でいただいたおいしい熊本ワイン(菊鹿メルロという赤ワインで、びっくりするくらいおいしかった)でごきげんに酔ってホテルに戻り、へろへろになりながら追っかけ再生で試合を追うと、熊本の至宝はホームランを打っていたのだ。

なんだもう、こんなに良い夜でいいんだろうか。ばちがあたるんじゃないだろうか。ものすごいオチが待っているんじゃないか。でもとにかく、熊本に足を向けて寝られない、と、私は思った。いや足を向けるもなにも、ここは熊本なのだけれど。

そういえば会合のとき、社長は幼い頃からの仲良しだという女将と、お互いの家族の話題を交えて楽しそうに話し込んでいた。地域に根ざした企業というのは、ほんとうに、こういうところがすごくいいなと思う。私はもう、なんというか根無し草みたいな生き方をするようになってしまったので、こういう関係はもう、結ぶことってないんだろうなと思う。私にはそれが合っていると思ってそういう生き方を選んだのだけれど(というか自然にそうなっていったのだけれど)、こういう関わりを見ると素直に、ああいいなあ、と思う。そして、村上くんにとっての「帰る場所」がこういう場所であることを、なんだかとてもうれしく思う。

結局この二日間、ヤクルトは連勝し、村上くんはたくさん打ち、私は熊本のとんでもなくあたたかい人たちと、空気と、おいしいものに触れた。

もちろん、人生は良いことばかりじゃない。ヤクルトがいつだって、連勝し続けるわけじゃない。仕事は、楽しいことばかりじゃない。なんだって常にうまくいくわけじゃない。

だけど、たとえばしんどいときにぐっと踏ん張ったことや、悲しみをじっと心に携えて歩いてきた経験は、どこかで報われる瞬間がきっとあるのだと、そうしみじみと思った。例えば、大きな地震をなんとか乗り越えようと、痛みを抱えながら歩こうとする熊本の人たちが、それを教えてくれる。

よくしてもらったことや、助けてもらったことは、次はちゃんと自分が返していこう、と、改めて思う。熊本で出会った人たちの顔を思い浮かべながら、私に何が返していけるだろうと、帰りの飛行機の中で考える。

ヤクルトに出会って、私の人生は少し、(もしかすると大きく)変わったと思う。そして一人で働きはじめて、仕事のやり方もお付き合いをする方も大きく変わったと思う。今、自分がいる場所が、私は好きだ。今の生き方をしながら出会った人が、私はすごくすごく好きだ。

村上くんという偉大なる選手を生み出してくれた熊本に、そして私にもすてきな出会いをもたらしてくれたこの土地に、感謝しながら、東京に戻ります。

村上くんが言うように、ここでプロ野球の、願わくばヤクルトの試合が行われる日がきますように。そのときはきっとまたここへ来ようと思う。結局、根無し草の生き方を選んだ私にとって、好きな土地が増えていくことほど、幸せなことはないのだ。

ありがとう熊本、ありがとうヤクルト。ありがとう出会ってくれた人たち。

さあ東京に戻ってまたがんばろう。ヤクルトも神宮にもどってまたがんばってくれますように!

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