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同期たちはにこにこと、ヤクルトの試合を見ていた【9/5広島戦●】

二ヶ月前に取るそのチケットが、どういった試合になるのかは、もちろん全くわからない。勝つのか、負けるのか、暑いのか、寒いのか、雨なのか、晴れなのか。

それは劇的な勝利を見せてくれるチケットかもしれない。とんでもない逆転負けのチケットかもしれない。そもそも試合が中止になってしまうかもしれない。それは終わるまで、全くわからない。

それでも二ヶ月前から私たちは、その試合を楽しみに待つ。良い試合になればいいな、と思いながら。

今回は、大阪の同期が出張で東京へやってくるのに合わせて、張り切って取っていたマイナビシートのチケットだった。

さてそのチケットの試合は、どんなものだったのか。

ヤクルトは今日も、負けた。1-8。完敗である。まったく、まったくもう、である。

だけど私は同期たちと、マイナビシートでずっとにこにこしていた。「俺スポーツ観戦でこんないい席初めて座ったわ!」と同期は言ってくれた。みんなとても楽しそうに(ぼろ負けの)試合を見ていた。

もう10年以上の付き合いになるけれども、初めて一緒に野球を見た。みんなそれぞれが野球を通したエピソードを持っていて、それを聞いているのはなんだか新鮮だった。

仕事の話を少しして、ビールを飲んだ。みんな頑張ってるなあ、と、私はしみじみと思った。私が会社を辞めた後だって、変わらずみんなは自分の仕事をしっかりしている。頼もしいなあ、と、思った。たくましいなあ、と、思った。そしてなんとなく、ありがとう、と思った。

社会人1年目で母が亡くなった時、同期がみんなで送ってくれた弔電を今でも覚えている。

「どこにいてもまいちゃんを思っています。東京でも、大阪でも、名古屋でも、福岡でも」

その言葉は、それからのサラリーマン生活をずっと支えてくれた。本当はサラリーマンになんて全然向いていない私が、13年もサラリーマンを続けてこられたのは、同期たちがいたからだ。

なんというか昔からいつも、心優しい同期たちなのだ。とにかく今よりずっと「男性社会」だった会社で、まあそれなりに大変な思いもして、それでもこの人たちに助けられたことは数え切れない。

心優しき同期は、ぼろぼろに打たれまくるヤクルトを見ながら言う。「でもあんな野球に興味なかったまいちゃんがこんなに好きになったんやもんなあ。ヤクルトそのうち優勝してほしいなあ。」

「ほんまやわ」と、私は笑う。神宮には、秋の風が吹き抜けていった。

***

私が買ったそのチケットは、またもや負ける試合のチケットだった。でも、天気は良く、風は気持ち良かった。私は大好きな同期たちと、にこにこと試合を見ていた。(しかもファールボールまで足元に飛んできた。)それはなんか少しだけ、ごほうびみたいな時間だった。あの頃しんどい仕事の後にみんなで飲んだ、一杯のビールみたいに。

帰り道、たくさんのヤクルトファンとすれちがいながら、同期は言った。「そやけどヤクルトあんな負けたのに、ヤクルトのファンはみんな楽しそうな顔してるなあ。いい顔してるわ」

「ほんまやわ」と、私はまた笑う。まあ私も、負けたけど楽しかったしな、と思いながら。

野球が、ヤクルトの試合が、自分がずっと大切に思ってきた時間を、さらに彩ってくれる。ヤクルトを好きになってよかったな、と、私はまた思う。負けたのに、それでもにこにこ笑いながら神宮を後にする人たちもまた、それぞれの物語を抱えているのだな、と思いながら。

これからもヤクルトとともにある日々が、楽しいものでありますように。そしてそのうちヤクルトが優勝しますように、そのうち!


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