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それは、誰かにとっての特別な試合なのだ。【8/22阪神戦●】

連敗でやさぐれていた私に、一本のDMが届いていた。

「実は今日、娘と初めての神宮だったんです。」と。前からnoteを読んでくださっている、読者の方からだった。

たまに、地方開催の試合を見に行くと、ひどい負け方をするそうだ。(例えば鈴木誠也のサヨナラとか。)「でも、なんだかんだ、試合を見られたからいいか、って思って毎回帰るんです笑」と、いつもおっしゃっていた。

その方が、昨日と今日、初めて、神宮でヤクルトの試合を観戦したそうだ。「いつか神宮に行くのが夢です」と、その「夢」が、叶ったのだ。

そしてそれは「また」、負け試合だった。

それでもいただいたメールには、こう記されていた。

「初の神宮に感動。しかし、またまた勝ち試合は見れず...
でも、なんですか!!村上くんといい、キャップといいあのホームランは!!最高じゃないですか!!私からしたら、もう実質勝ち!と言うことで、明日帰ります」

二連敗を見届けて、やさぐれモードに入っていた私は、なんだかハッとする。

そう、昨日と今日が、特別な人だっているのだ。その試合のために、遠くから足を運ぶ人がいる。

だから、たとえそれが負け試合だったとしても、村上くんの一本や、キャップの執念の満塁ホームランは、もちろん、もちろん鮮やかに、誰かの記憶に残る、とても大きな一本だ。

もう今年は試合を見ることもできないんじゃないか、そもそも野球をやることすら難しいんじゃないか、そんな中での開幕だった。だけどこうして、足を運び、神宮の空気の中、目の前で選手たちを見ることができる。野球を、見ることができる。それは、本当に素晴らしいことじゃないか、と、改めて思う。

毎日毎日、試合は続いていく。「シーズン」の順位は、成績は、その日々続いていく試合の、結果だ。でも、その一つ一つの試合に、異なる表情があり、景色がある。そこには毎日毎日、別の人が、足を運ぶ。そこには、いつも、その日ごとに、いろんな人の想いが集う。

だからその一つの試合は、とても大切なんだよな、と思う。もちろんそれはシーズンを通した結果につながる「部分」として重要だ、ということもあるけれど、それだけじゃなくて、いやもしかしたらそれ以上に、「その」試合が、誰かにとって、とても大切な意味を持つからだ。

もちろん、それが勝利につながる1本であってほしいし、村上くんには、そこで笑顔でダイヤモンドを一周してほしい。でも、それがたとえ負け試合だったとしても、そこで見られる1本は、希望のかたまりだ。0-7と大きなビハインドを背負って始まったこの試合で、エイオキの大きな大きな満塁ホームランは、神宮に咲く花火くらい、美しく夜空を彩ったのだ。

100パーセントの結果、というのはなかなか得られない。ヤクルトは、そして人生は、勝つことよりも負けることの方が多い。だけど、「人生は勝ち方によってではなく、その破れ去り方によって最終的な価値を定められる」のだ。

8回裏、もうこんなに点差があって、疲れ果てていたのに、そこに立つ慎吾に、盛大な拍手が送られた。登場曲が流れるだけで、打席に立つ姿が見えるだけで、球場の雰囲気が変わるのがわかる。そんな選手はなかなか、いるものじゃない。

エイオキは満塁ホームランを打つ前に、ファウルフラウを2本連続で撮り損ねていた。レフトの阪神ファンから拍手を送られ、「ナイスファイト青木!青木、阪神来い!」と、叫ばれ(大声を出してはいけません。)、これは絶対メラメラしているな、と、一塁内野席からも、エイオキのメラメラが見て取れた。こういう時のエイオキは、打つのだ、本当に。悔しさは、バットで返す。最高の仕事だ。

たくさんの「負け」を目にし、経験する。でもそこには、村上くんの1本や、エイオキの執念の1本が見える。慎吾が球場の空気を変える瞬間を、肌で感じる。お金を出して買った「負け試合」のチケットも、たくさんの人たちに、そんないろんな瞬間を、届けてくれる。

「また神宮へ来てくださいね」と、私は言う。ここに来て見られるのは勝ち試合じゃないかもしれない。でも、夜空を彩る花火のように、たぶん何年たっても心を彩るような瞬間が、たぶんあるから。そして私も、そういう瞬間を、しっかり見届けていよう、と、改めて思うのだ。



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