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【3/25阪神戦◯】満員の球場、ファンとの交流、息子の成長

「京セラ、オールスターで来たとき以来じゃない!?」と、前を歩いていた息子がこちらを振り返り、にこにこと言う。「あーーーーーーほんと楽しみ!!!!!」と、何度も何度も言う。

あっちいったりこっちいったりの日程で、子どもたちは疲れているはずなのに、スーツケースをころころ転がしながら、しっかり私についてきてくれる。いや、地図を確認して「ママすぐ道間違うから!」とか言いながら、私の前を歩いている。ほんとうに、ほんとうに大きくなったな、と、改めて思う。

先月亡くなったおじいちゃんのおつとめがあって、実家に一泊し、翌日京都のホテルに一泊し、そして大阪にやってきた。実家に帰るならそのついでに開幕戦見に行っちゃおう!と、思いついたパターンである。そういうことはすぐに思いつく。

新今宮でおいしいたこやきをほおばり、ホテルにチェックインして荷物を整理し、急いでタクシーで京セラに向かう。親切なタクシーの運転手さんは、私たちが今日観戦する座席を確認し、その入口に一番近いところで降ろしててくれた。(あまりに親切にしてもらったからヤクルトファンって言えなくなってしまった。)

レストランになっているその席は、とにかく阪神ファンでいっぱいだった。もちろんわかっていたけれど、自然と私たちは声が小さくなる。

レストランエリアとバルコニーが別れていて、みんな思い思いの過ごし方をしていた。バルコニーから見下ろすとすぐそこにサンタナがいて、「サンタナこっち向いてくれないかな…!」と、息子が笑って言う。

先制点を取ったサンタナは、次の打席、二死1,3塁のチャンスで見逃し三振に倒れた。その直後、阪神5番の糸原は、二死2,3塁のチャンスでタイムリースリーベースを放つ。

「こちらにできなかったことが、あちらにはできる、って感じやな…」と、私はため息をつく。「同じようなチャンスで、向こうは5番が打ったんやもんね。こちらは三振やったのに。」もうおなかはいっぱいだったのに、意味もなく私は、ビュッフェのフライドポテトをつまむ。

ドリンクを注文したり、ビュッフェを取りにいったりしているすきに、信じれられないくらい積み重なっていく失点を横目に、私はレストランエリアに座ってまた、フライドポテトをつまむ。

でもその間じゅうずっと、息子はバルコニーエリアで試合を見ていた。どんどん積み重なる失点に、そこから目をそらさず、動くことなく。バルコニーは飲食できなくなっていたので、息子が座った席のフライドポテトはどんどん冷めていく。私はまたそれを、つい、つまむ。

いつのまにか息子は、隣にいたグループと一緒にバルコニーで観戦していた。となりに行くと、「怪しい者じゃないんで!めずらしいな、ヤクルトファンがいるわ思て。僕もなんです。こっちは阪神ファン。」と言って、その男性は隣にいる友達を紹介しながら、笑ってあいさつしてくれた。「せっかく東京から来たのに、こんな試合やったらかわいそうやわなあ、ちょっとくらい点とってほしいなあ。」と、言いながら。

でもそのあとヤクルトは、若き長岡くんのタイムリーと、濱田くんのホームランで2点を返した。

と、私は思った。

もう充分、「東京から見に来た甲斐」は、あったな、と、私はワインを飲む。

隣で息子はなんどもなんども、「ああーーー野球楽しい!!」と、にこにこ言っている。そうなのだ、野球は負けることだってたくさんある。だけど、いやたぶん、だからこそ、楽しいものなのだ。これだけ多くの人を熱狂させるのはそれは、やっぱり勝ち負けがあるものだからなのだろう。

と、そんなことを言っていたら8回表、ヤクルトはなんと、サンタナの2ランと、内山くんのタイムリーと、そして塩見のタイムリーで一気に4点を奪い取る。控えめに応援していた息子が思わず、私とハイタッチをする。ヤクルトファンの男性がこっちを見て、小さくガッツポーズをする。「勝ちパターンをひっぱりだしてきたのだけでもおっきいよね!」と、息子はにこにこ言う。

そのあとを、うめちゃんはあっというまに、私がトイレに行って帰ってくる間に、さくさくと抑えていた。「うめちゃんもう終わったの!?」と言うと、息子はまたにこにこと、「うん!あっというまだった!」と言った。

それは、後半の投手陣によるところもとても、大きかったと思う。8回表の勢いを、うめちゃんは止めなかった。その勢いのまま、「今日は打たないねー」なんて言っていたてっぱちは、9回表の先頭打者としてそこに立ち、初対戦の相手クローザーが投げた二球目を、あっというまにスタンドに運んだ。外野席にあるそのバルコニーからは、てっぱちの打球の軌道がとても、とても美しく見えた。ヤクルトファンの男性はまたこちらを見てガッツポーズをし、となりの阪神ファンのお友達は一度ブーーーとブーイングの仕草を見せ、そのあと「良かったな」と、口を動かして、空グータッチをしてくれた。

「こちらにできないことがあちらにはできる。」私はそう思ってふてくされてフライドポテトをつまんでいたけれど、一番悔しかったのはきっと、張本人のサンタナなのだ。チャンスの三振を取り返すかのように、サンタナはそのあと、打ちまくった。

そうなのだ、いつだってサンタナは、こうして悔しさを、静かに自分のバットで取り返していく。

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