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コード・ブレーカーを読んだ話


1953年DNA二重らせん構造の発見から
CRISPR-Cas9開発によるゲノム編集に至る生命科学革命の歩みを
女性科学者ジェニファー・ダウドナを主人公に据えて描かれた物語である。

ビル・ゲイツが「読むべき5冊」に選出したことで話題になったが
専門用語盛りだくさんの本書にしりごみした方も多いのではなかろうか。
私も全容の二割くらいしか理解できなかったのでご安心していただきたい。

まあ、低解像度の読書感想文だと思ってお付き合い願いたい。

CRISPR-Cas9の開発によりゲノム編集は非常に安価かつ安易な時代となった。
(めちゃくちゃざっくりCRISPR-Cas9について説明するとーガイドRNAが標的となるDNAに結合してCas9をガイドしてその部分を断ち切る、断ち切られたDNAを細胞の修復機能が繋ぎなおそうとするが修復エラーを起こすことがあるのでそれを利用してDNAを改変する。ー)

これがなぜIT革命を超えるほどの出来事として捉えられているのか?
それは標的遺伝子に新しい配列を組み込むことができる(ノックイン)からである。

従来までのゲノム編集はDNAの機能欠損(ノックアウト)を利用していた。
予防、診断、治療が主な目的であり、倫理的な問題や哲学的な課題が浮かび上がるのは医学の中だけであった。
(遺伝子組み換え食品は個人に選択の余地があるので省く。勝手に。)

しかし、CRISPR-Cas9開発により特定のDNA情報を書き換えることが可能になった。
それも従来のZFNやTALENといったゲノム編集ツールとは違い安価に短時間で安易にそして正確に、ノックアウトもノックインも思いのままである。

つまるところそれは何を意味するのか。
人間をオーダーメイドで作れるようになるということである。
いわゆるデザイナーズベイビー。
性別、身長、肌の色、運動能力、感受性、芸術的才能
お好みの数値を設定すればあなたの理想的な人間が完成する。
もしくはあなたが理想的な人間になることだって可能なのである。
(もちろん理論上であって、そんなSFみたいに簡単な話ではないが)

現在、人間は神になる過渡期に立たされているのである。
宗教、倫理、哲学の枠を超えるスピードで時代は進んでいく。
ホモサピエンスからホモデウスへ。

まあ大体そんなような内容に、主人公を含め様々な人々の葛藤や競争、人間ドラマを織り交ぜながら進んでいくのが本書である。

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コード・ブレーカーを読みながら似たような事例を最近見るなと思った。

SNSを震源地としたルッキズム(外見至上主義)の台頭である。

美容用品の発展と美容整形が身近になったことにより、理想の容姿を多くの人が安易に手に入れられるようになった。非常にいい時代である。
(そりゃ可愛い子がいっぱいの方がこちらとしてはありがたい話である)

しかしながらそれは、人間の幸福に直結していないように思う。

容姿を理由に差別や偏見、不当な評価を行うルッキズムに苦しむ人が10代~20代の女性を中心に増えている。

理想の容姿なんてものは、雲のようなもので、どこまで行っても決して掴むことはできなし移ろい続けている。身近に手に入れ気軽に発信出来るようになったからこそ嫉妬や妬みといった負の感情が爆発しているように思う。
(LGBTQの問題もこれに近いニュアンスを感じる)

これは科学や医療、ITの進化の速度に人の心がついていけていない証左なのではないか。

仮に人の感情が生化学反応アルゴリズムの老廃物のようなものであるとするならばこの問題もヒトゲノムが全解析されれば解決されるかもしれないが
人の感情や自由意志の解明は学問最深部のテーマでありまだまだ解明しそうにもない。

学者でも有識者でもない一般ピーポーの我々は、どこかでこの文明の進化に折り合いをつけなければならない、文明の利器におんぶにだっこのままでは猛烈なスピードに振り落とされるほどに時代の潮流は速くなっている。

絶え間なく湧き出るに情報の渦に飲み込まれてしまえばせっかくあなたの中に刻まれている4つのヌクレオチドで構成される32億の塩基対が2進数のデータに変わってしまう。

一歩踏みとどまって自分のナチュラルなアイデンティティを見つめなおすことが肝要なのではないだろうか。

おしり。

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