仕方がないから聞いたことのない曲で永遠を知ろう。

まだ起きたくなくて急いで布団に入った。そしてまた眠った。目が覚めた記憶は確かにあって、水を飲んだかどうかは覚えていない。

昼前まで寝ていた。ほぼ半日潰した。昨日は疲れることを何もしていないのにこれだけ眠れた。もうこんなに眠れないのかと思っていたから少し安心した。

残っていたパンを食べて、着替えて、外へ出た。数日間見なかっただけで街はすっかり秋めいていた。

微かではなくはっきりと秋だった。日の色が暖かかった。金木犀がそこらじゅうに咲いて、匂っていたし、いつのまにか稲が刈り取られていた。

年中着ているシャツの色の違和感がなくなっていた。このチェックは秋色なんだと改めて思う。

昨夜、寝る前に読み終えた小説のことを考えていた。その人の他の小説が読みたくて、古本屋に行った。なかった。

残念だったけれど、あの感じの話が手軽に読めたら分かったようなふりをする人が溢れて嫌になるだろうと思った。もっと奥の痛みや切なさは言葉になっていなかったからそれを読みたいのかもしれない。

きっと抉られたいんだ。ふりじゃなくて本物の感情で埋めて欲しい穴が空いているんだ。それを誤魔化すように別のところにも穴を開けてしまいたいような気がした。虚構でもいいから誰が自分のものか見分けがつかないくらいにしてほしいんだろう。

仕方がないから買い溜めている本を読むことにした。

仕方がないから聞いたことのない曲で永遠を知ろう。

帰り道、母親の名前の話をしている小学生の横を通り過ぎた。その先では服を着た犬と散歩する老人がいて、何年経っても自分は部外者だと思った。この町には馴染めない。故郷なら馴染めるかと考えたってそうではないし、どこなら溶け込めるだろう。

果たして自分はどこかに溶け込みたいと思っているのだろうか。

得てして自分はどこでも溶け込もうとなどしていないような気がした。

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