借り物の言葉と仮りで埋めた夜。
早起きすることばかり考えてしまって眠れないまま夜中になった。もう数時間、時折ごろごろと周りながらラジオを聴いている。
別にそんなに緊張することじゃない。友人と会うだけだからどうしても駄目ならずらせるはずだ。そのくらいの気持ちでいいのに、早起きとなると緊張感が止まない。
しばらく音を消してみたけれど、余計に焦ってしまって目が覚めた。今考える必要のない来るかも分からない未来のことも頭で渦を巻く。どうしようもないから再びラジオを流してやり過ごした。
もう何度も繰り返し聞いた話をまた聞いている。展開も反応も分かっている。好きな落語や漫才みたいな感覚かもしれない。分かりきった次が欲しい。予想できない面白さはもちろん楽しいけれど、予想通り進んでくれる安心だってあるんだ。そんな小さな安心感をひとつずつ丁寧に追っていた。
それから寝て起きて朝だった。録画していた番組を見て笑いながら支度をして部屋を出た。
電車から桜が見えた。橋の上から大きい川を眺めた。その近くで釣りをする人が何人かいた。電車の中は小さな子供がいる家族や、若者や老人で混み合っていて休日を感じた。
初めての場所に初めての電車で行く。回り道をするように何度も乗り換えて、初めての場所を巡るようだった。
電車を待つ間は本を読んでいた。新しい本を持ってきてみたんだ。旅をする話だった。主人公はまだ旅先に着いたばかりだけど体調が優れないみたいで心配になった。
昼前に目的地に着いて、友人と会った。
花を見て、初めての街を歩き回った。知らない街が知っている街になっていく。夕暮れ時の空を眺めながら歩く時間が良かった。疲れ果てていたけれど、疲れられる喜びがあった。夕方になって一緒にドラマを見て、夜に帰った。
車窓から見える外はもう暗くて、水が抜けていくような気持ちだった。
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