そのまま欲に溺れて、その手を消滅させてしまえばいいさ。

読書は夜への冒涜かもしれない、と本に書いていた。夜はその暗さや寂しさをちゃんと感じる時間だからと、少女はそんな感覚で生きていた。

真夜中、部屋の電気をつけてそんな小説に耽る自分を客観的に見ると滑稽だった。

知らない言葉がたくさんあったけれど、ひとつも溢したくなくて調べながら読み進めていた。いつもはなんとなく分かるからと読み飛ばすような言葉も、調べてみたら曖昧さが抜け落ちて心地良かった。

そんな言葉を書き留めて繋げて詩にしてみた。音と空気だけの詩になった。読み返した時に、夜の涼しくて静かなあの感じを思い出せればいいと思った。

今日は何回も目覚ましを指先で止めて昼ごろまで寝ていた。でも昼前には起きた。食事を済ませて、音楽を聴いて、ギターを手に取るとまた時間は溶けていた。

ひとりでいると全てが溶けてしまう。輪郭が曖昧で、時間の区切りもなくて、心の形も見えない。自分は目に見えない物に気付けないから今のままでは全てが溶けてしまいそう。そして失ってからでは、もうないことにさえ気付けない。

清潔とか潔癖とかそういうものは、そのものがあるから意識できるんだって青年は少女に言っていた。

孤独や寂しさだって誰かがいた時を知っているから感じられるんだ。周りから押されることで自分の形を知れるし、曲げたくない芯も見つかる。

最近は寝る前にそんなことをぶつぶつと呟いている。それが子守唄のようにまだ眠くない頭を落ち着かせていく。半分夢みたいな感覚で、意識ははっきりあって、それでも起きたらほとんど忘れている。

寝ている間より思考を整理できているような気もする。そのまま残しておきたいとか言葉にしておきたいとか無粋な欲が出てきたら終わりだ。だいたい欲には従ってしまうし、思考や感覚を文字にする行為は眠りから遠ざけていくから目が冴えていく。

溶けた時間に線を引きたくて外に出ようと計画する。着替えればいつでも出られるのに天気予報は雨だった。さっきまでは夕方から雨だったじゃないかと文句を垂れて、また先延ばした。

このままずるずると次に次にと待っていては溶けたまま繋がってしまいそうだ。どうにか断ち切ってここに線を引いてしまいたい。

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