この体に触れないのなら、嫌なことは全部漫画の一コマになる。

昨日は良い時間からちょっと嫌な時間に転落した。

電話の向こうで激しい声が聞こえて、緊張感で体が硬くなる。笑顔がだんだん嘘になって、言葉が出てこなくなる。

切って、別の電話を待つ間、嫌な妄想に支配されるようで、それがいちばん嫌だった。底抜けに明るい人を思い出す。きっとその人はこんなに深刻に想わせない考え方を知っている。

彼になりきって、凄く遠くから自分を見てみることにした。電話口で何か言われても、目の前で怒鳴られたって、漫画みたいに浮かび上がった。

スピーカーが大きくなって、顔を遠のけ苦い顔になる。唾が飛んできて、顔にかかる。そんな描写にしてしまえば何も恐れることはないし、そんな人もいるよな、と思えた。

実際の電話は励ましの言葉だった。でも見えない情緒を想像してしまって、やっぱりちょっと疲れた。

その後、いちばん嫌な展開まで想像すれば少しだけ緊張も解けて、またテレビ画面に視線を戻した。

理屈抜きに面白いから笑えるし、楽しませたいという純粋な気持ちだけで十分だと思った。

朝方に寝て、少し経ったら昨日とは別の電話がかかってきてぼんやりしたまま会話を繋いだ。何を言ったのか、ちゃんと伝わったのか、もうほとんど覚えていない。電話を切ってから、また寝た。

そして起きたら夕方で、部屋は暗かった。半日寝ていた。歩きすぎた疲れのせいか、久しぶりに飲んだ酒のせいか、凄く寝ていた。

起きてから聞いた、昨日想像の中にいた彼らの会話でもまた笑った。何も評価されなくて、明るい良い子だけだったという彼は、大人になってもちゃんと子供だ。

自分も、明るい良い子だけになってみたかった。勉強も賢さも真面目さも全部捨てて、ただ楽しくて優しい子供になれれば良かった。

今からでも少しずつ純粋な楽しさになりたいから、何も繋がってないままの面白さをただ感じている。街中で間抜けな人を見つけたように、生き物の滑稽さにはちゃんと面白みを感じたいし、皮肉も憎悪も真っ直ぐな気持ちで反発したい。

昨日から引き伸ばしたちょっと嫌な気持ちを薄めるために、散歩に出るか迷っている。寒いけど、寒いだろうななんて考えずに思った瞬間に動き出したかったなんてまた考えてしまった。

何も考えない純粋な欲で今動き出せる人になりたい。

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