この部屋に住んでる人と仲良くなりたいと思った。

昼前に目が覚めた。起きて、食事をしたら昼が過ぎた。

それから片付けをする。用があって棚をずらす必要があった。棚に入っていた本を取り出しては並べ、部屋の反対側へ移動させた。こんなところ引っ越してきたぶりに見るよ、と思いながら日に焼けていない部分のカーペットを見た。

掃除機をかけて、取れないところは拭いて、すっかり部屋の比重が変わっていた。軽くなったであろう広い部分に座って、なんとなくレコードを回してみた。カーペットに直置きで聞き慣れないアルバムを流す。

違う部屋みたいな光景を見ながら音楽を聴いていた。だんだん自分の部屋じゃないみたいに思えてきたけれど、詰み重ねられた本やCDを見るとこの部屋に住んでいる人と仲良くなりたいと思った。

好きなミュージシャンが今度出すレコードをこの部屋に入れてやりたいし、その音をこの部屋で暮らす人に聞かせてやりたいと思った。数千円のプレゼントを気安い感じでできる人はそれはそれは格好良いだろう。

この開けた心でならなんでもできそうだったから、バイトに申し込んだ。返事が来るかどうかも分からないけれど、一応答えるべきことは答えて送った。もう紙に書いて写真を貼るなどしなくていい時代なのだろうか。もう古臭くて薄汚い古書店みたいなところはバイトなど募集していないのだろうか。

終えると、体が緊張していた。心だって強がっていただけで嫌になる。何にそんなに不安がっているんだろう。この部屋に住んでる人には、この部屋にいる時くらい気楽にいて欲しいよ。

これは頑張ったと言ってやりたい。現実は何も変わっていないけれど、上手くいけば未来が変わるんだ。レコードもファンクラブもライブの申し込みも全部やろうかな。この部屋に住んでる人とは趣味が合いそうだから、全部聞かせたいし見せたいし読ませてやりたいよ。

窓を開けていれば子供達の声が入ってくる。鳥の鳴き声も響き渡る。

風よりも声が凄かった。

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