話さなくていいから離れないでほしかった。

今日は良い日にしたかった。去年から何も変われていないけれど、疑いようのない素直な日にしたかった。

夜中にドラマの最終回を見て、みんなが前を向くというありがちな終わりだった。毎回泣かせておいて最後は良い顔するなんてひどいけど、民放のドラマだからそのくらい分かりやすいほうが良い。

夜中の3時が朝になっても、行くところなんてないから寝ていた。昼に起きて、パンを焼いて食べた。音楽にひたひたに浸って溺れそうになったから着替えて外出した。

知らない道を進むと神社があった。中には入らずに脇道を進むと登り坂で、小高い住宅街に着いた。家が立ち並び、桜が咲いて、中央に公園がある小さな街だった。囲うように道があって、途中にバス停や郵便局があった。子供達の声と犬の散歩と老人、たくさんの生活が見える場所だった。その中に入れない自分は明らかに異質に思えたから中には入らずに街から降りた。途中ですれ違った猫だけは逃げないでいてくれた。

それからよく行く池を通って、いつものベンチで詩を書いた。言葉なんて出てこなくて詩なんて書けなかった。気持ちも揺れないし、出てきた単語を切って貼ってただのパズルみたいだ。

感覚でこの気持ちを絞り込んでいきたかったのに、ずっとそこに留まって少しも動かないからどうしようもなかった。冗談みたいな馬鹿っぽい言葉を引っ張り出して、やっと少しだけ書けたけど、これはもうただの遊びだ。

切実な気持ちだけが届くのだとしたら到底辿り着かない言葉しか残っていない。落とした量が多すぎて、来た道を戻れば拾えるのかもう危うい。

しょぼくれて帰宅したけど、配信のライブを見て楽しくなった。なんて単純なんだろう。

後ろから照らされて頭が影になる。自分と影の間には、遠い場所の音楽が鳴っていて、それに釘付けになっている。それが漫才だったら笑い転げて、小説だったら読み耽る。なんて単純なんだろう。

今日は洗濯もしたいし、好きなアイスも食べたい。でも面倒なことを後回しするのも、食べすぎるのもやめたい。適度に、が良いのは分かってる。誰だって分かってる。でもそんなものに縛られているからつまらなくなるんだ。

逃げていることから目を逸らしたいからだろうけど、最近は肯定してばかりな気がしてきた。はみ出した部分に気づくほど神経が尖ってないのかもしれない。もっといろんなことをちゃんと見たいし感じたい。もっと噛みついて離さないくらい話したい。

なんだったら話さなくていいから、もう少しここにいてほしかったよ。

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