涙なんて出ないから、君は雨を降らせるんだ。

今日は昼起きて、凄い人が凄い料理をする番組を見ながらパンを食べた。

知っていたけれど聞かなかったバンドの、知らなかった曲を聴いて夕方になった。自分ならこの素晴らしい曲になんて名前を付けるだろうと考えてみたけれど、どこかで聞いたタイトルしか浮かばなくて、言葉を扱う人の凄さを感じた。

いくつかの意味を含ませて、受け取り方次第で答えがたくさんあるような絶妙な組み合わせができる。自分もそんなふうに言葉を嵌め込みたい。

夕方になって外に出て、西陽を浴びながら自転車を漕いだ。入道雲を見て、写真を撮った。入り口で夏へ導くから入導雲なのかなと考えていたけれど、導くじゃなくて道だった。

何軒か店を回って、必要なものを買う。頬が赤くなっているのが分かる。汗が浮かんでいるのが分かる。どうしようもない暑さを冷ますように店を回っていた。

帰り道、柴犬と散歩をするおばあちゃんがいて、凄く詩情を感じた。写真を撮りたかったけれど、瞬間が合わなくて撮れなかった。じりつく熱と、夕方の眩しさを含んだあの情景を覚えていたい。

帰り着く直前、救急車が停まっていた。扉が開いて救命士が動いていた。数分前、畦道の柴犬を追っていたとき、この中にいる人は危なかったんだと思ったら途端に死を感じた。

エレベーターを待ちながら、窓の外で反射し続ける赤い光を見ていた。

帰宅して風呂に入って、冷蔵庫に入れておいた水を取り出す。コップいっぱいに入れていたみたいで少し溢した。拭かずにそのまま扉を閉めて、ミュージシャンのインタビューを聴いていた。

昼の暑さも死の気配もすっかり薄れて、アーティストの思考を覗いていた。人間なんて、少なくとも自分の動揺なんてその程度なんだ。

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