涙になるまでもない、紙が鉛色になるまで。

蝉が鳴いている。起きた時は気にも留めなかったのに、窓を開けたあと意識が全て持っていかれるくらい気になった。

いつ鳴き出したんだろう。窓を開ける直前まで雨が降っていて鳴いていなかった可能性もあるし、ただ気にならなかっただけかもしれない。意識が向いていない状態では現実なんて曖昧で、今となっては真実は分からない。

昨夜、半袖で外に出たら虫に刺された。きっと蚊なんだけど、痒い。やっぱり長袖を着ていけば良かった。それか虫除けのスプレーを使っていくべきだ。そのために買ったのにすっかり忘れていた。

そして今日起きるとなぜか足も痒い。長ズボンを履いていたのに、結局刺されるならやっぱり虫除けスプレーをするべきだったんだ。痒みを感じる度に些細な後悔が赤くなる。

やっぱり蝉がうるさいな。窓を開けたときはこんなに鳴いてなかったはずだ。そう思い込めば過去は簡単に捻じ曲げてしまえる。それが凄いし、怖いし、不思議だ。今以外信じられないと薄く実感する。

昼にご飯を作って食べた。好きな番組を見て今を忘れて笑っていた。

それから音楽にひたひたに溺れて夕方へ。窓の向こうの音で雨に気づく。でも気にせず風呂に入った。

また音楽を聴きながらカーテン越しに外を見ると、白かった。青白い、まるで雪景色みたいな、早朝みたいな景色だった。

今日は景色と記憶のことを少しだけ考えていた。情景を覚えている人がいい。そんな人が好きだと不意に感じた。空気感ごと包んでおけるのは素敵なことだと思った。

その度合いによって抽象的なものを感じ取れるかどうかが決まるのではないだろうか。言葉でも色でも音でも、過去を重ねられる可能性があると思った。

でもいつかの自分が書いた詩や文章を今の自分が完璧に感じ取れるかどうかも怪しい。そうなればやっぱり今以外自分じゃないみたいだ。結局こうやって、昨日と同じようなことを考えている。

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