そのまま吹き飛ばして、いつかまで連れて行って。
何度も目覚ましを止めて、起きたのは昼過ぎだった。風が吹く音が聞こえていた。いろんなものを吹き飛ばすような、勢いでいろんなことを誤魔化すような、そんな音だった。
起きた勢いで風呂に入る。風呂から出て、カーテンを開けて外を見る。木々が揺れる様子はないけれど、風が吹く音だけ残っていた。
カーテンを開けたまま、しばらくして部屋が黄色くなっていく。黄昏だと思った。夏の午後みたいな冬の午後だ。冷気じゃなくて毛布を求める、それだけの違いだった。
みかんを食べながら、夏によく買っていた果物のことを思い出していた。でも思い出せないでいた。夏にみかんは買わないけれど、夏にスイカを買った覚えもない。ただ、果物を買っていた記憶は確かにあって、それが何か覚えていない。
今年最後の、を意識したってどうせ数日で忘れてしまうんだから、それなら使うたび触れるたび感謝する方が優しいって去年書いた文章は覚えていても、昨日書いた詩は覚えていない。そんなものだ。
部屋に流れ込んだ黄色は白っぽくなってしまった。現実に戻されたような気持ちだけど、風はまだ吹いているし、風邪はまだ引いている。
遊びの誘いを断って正解だったと思う。会いたい人に会いたい時に会えないのが大人なら、大人でいる価値はそんなにない気がした。会いたくないときも会ってしまうくらい狭い世界でいるのも窮屈だけど、たった数時間を惜しんで会えないくらい遠くなってしまうのはあまりに寂しい。
もっとちゃんと人と会いたいし、もっとちゃんとやりたいことをやりたい。日が変わったくらいで人は変わらないから、今夜は早く寝るんだ。
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