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「荒川十太夫」の進化

歌舞伎座「芸術祭十月大歌舞伎」第一部を初日から、連続ではありませんが、今日で7回観ました。

今回は「荒川十太夫」のお話。

講談をもとにした新作歌舞伎が誕生しました。歌舞伎を観るようになってから、忠臣蔵は知っているけど、知らない「外伝」がたくさんあるのがわかりました。今回は、外伝の外伝と言っていい人物のストーリー。赤穂義士、四十七人の一人、堀部安兵衛が切腹したの時の介錯人、荒川十太夫が主役です。

十太夫は身分が低いながら剣の腕が買われて介錯人に抜擢。それなりに身分の高い者が決まっている中、メンバーが足りなくてお声がかかったとか。十太夫と安兵衛の出会いが発端になり、物語が展開されます。

十太夫は松緑さん。
講談と歌舞伎のコラボは松緑さんが神田伯山さんのファンだったことから始まりました。新作とあり、いつもの歌舞伎より少し稽古期間があったとはいえ、初日の完成度は高く、松緑さんの想いが溢れた十太夫に胸が熱くなりました。

松緑さんと「新作」というのは、あくまでも私の感覚ですが、縁遠い気がしていましたが、何だか懐かしく、歌舞伎座に違和感なくフィットして驚きました。

堀部安兵衛は猿之助さん。
舞台の時代は赤穂義士の切腹から七回忌の年。十太夫が語る話の中に安兵衛は登場します。これが不思議な感覚。松緑さんの語りから安兵衛と大石主税が、まるで甦ったように登場しました。歌舞伎座の舞台機構を使って、なるほどな演出です。

中山安兵衛(堀部安兵衛)は、新潟県新発田市出身。若くして両親を亡くします。元浪人。19才で江戸へ上ります。剣術が優れていることが評判になり、生活は成り立っていたようです。有名な「高田馬場の決闘」は、助太刀に入った際に活躍した武勇伝。これがきっかけで赤穂藩の堀部家の養子になりました。養子にならなければ、敵討ちに参加することもなく、切腹することもなかったのです。

猿之助さんの安兵衛は、剣豪という言葉がぴったりで、無骨で目が鋭い。いつも目は鋭いけど(笑)只者ではない感じが漂っています。


松緑さんと猿之助さんのシーンが先週からだんだんと濃密になっていると感じています。しかも猿之助さんの安兵衛は無骨さとワイルドさが増しているかと。

切腹の場で、介錯人である十太夫の役職を聞き、高い身分だとわかって発する安兵衛の「有難い」という言葉が猿之助さんの真骨頂だと改めてグッときています。その言葉から十太夫のほうに体を向けて頭を下げるまでの所作に安兵衛という人の本質が出ていると思うのです。

だからその後の十太夫の「しまった!」という後悔が納得なのです。偽りの身分を告げてしまった後悔。安兵衛の幸せそうな顔を見て激しく動揺する松緑さんの演技も素晴らしい。このお二人だからこそのやり取りだと思いました。

今日は二階の東桟敷の舞台近くから見ていました。すると、切腹した猿之助さんがセリで下がっていく直前、微笑んだ後、救われたような、幸せなような表情をしているのに気が付きました。演技は変化するので、たまたまかもしれませんが。

その’悔い無し’という表情に感じるお顔は是非、皆様にもみていただきたいです。


また、過去と現在を歌舞伎座の機構を上手く使っているのが演出のすごいところと書きました。今週に入り、松緑さんの語りも巧みなことにも感動しています。自分の過去の気持ち、現在の気持ち。語りの’間’だけでなく、心も切り替えて時空を超えているのです。

全員の役者さん方が、お役と重なってきているのを感じます。すごい進化です。何回見ても飽きない。


そして、ラストシーン。猿弥さんの和尚が最後、安兵衛の墓石に向かって声をかける。すると、そこに微笑む猿之助さんの安兵衛が浮かんでくるのです。さらに他の赤穂義士の姿も。安兵衛は十太夫の出世を喜び、許してくれている。。義士たちも微笑んでいる、と思えるのです。

全員の芝居が、私の妄想をそこまで連れていってくれます。いい芝居だな、本当に。


猿之助さんが演じていることもあり、堀部安兵衛に興味が湧いてきたところです。なので20日から始まる公演「新説 堀部安兵衛」が楽しみでなりません。安兵衛役はアクションのプロ、下川真矢さんだそう。剣豪なので説得力ある殺陣が見られそうです。千穐楽以外はまだチケットがあるそうです。是非。

aya

猿之助と愉快な仲間たち第2.5回公演


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