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第二部 ぢいさんばあさん

昨日の仲蔵の余韻が覚めません。
その仲蔵を演じていた勘九郎さんは、現在、歌舞伎座第二部に出演中です。

「ぢいさんばあさん」は、森鷗外の短編小説を原作に、宇野信夫が作・演出を手がけ、昭和26年に初演された新歌舞伎です。

新歌舞伎は、明治中期以降に劇場の座付作者ではなく、独立した作者が書いた作品のこと。ちなみに座付作者とは、昨晩の仲蔵のドラマで段田安則さんが演じていた金井三笑みたいな人です。

ある事件がきっかけで離れ離れになった夫婦が、37年の時を経て再会を果たす物語。美濃部伊織を勘九郎さん、妻るんを菊之助さんが演じています。ともに初役です。

勘九郎さんが登場した時のスッキリした姿が仲蔵を思うのだけど、それはすぐに吹き飛びました。華やかで男気があり、幸せに満ちていました。

菊之助さんの美しさと品も眩しいくらい素敵。若い夫婦がいちゃいちゃするのは微笑ましくて、こちらも思わず笑顔になりました。

何度か拝見している話です。ストーリーを知っているからこの一幕目が切なく思えます。二幕目は3ヶ月後、単身赴任先の京都で事件が起こります。そして、そこから37年間会えなくなる。

事件のキーパーソン、伊織の友人、下嶋は彦三郎さん。これが絶妙なキャラクターで好きでした。憎めるような憎めないような。伊織のことをきっと好きだと思う、私は。

事件とは、伊織が下嶋を斬ってしまうのです。勘九郎さんは思わず斬ってしまったという感じで、私にはこのあとの37年の待遇が納得できてしっくりきました。

歌舞伎座さよなら公演の時、仁左衛門さんの伊織、玉三郎さんのるん、勘三郎さんの下嶋で拝見しました。仁左衛門さんを慕う勘三郎さんが重なったのを覚えています。

三幕目は37年後。ともに白髪になり、お互いに気づきません。勘九郎さんの伊織が無邪気に帰宅を喜んでいる姿は可愛らしくて(笑)菊之助さんのるんは凛としてゆったり。心が華やいでいるのと覚悟みたいな雰囲気が印象的でした。

お互いに気づいた時の様子に号泣。ぢいさんばあさんになっているから、駆け寄るわけでもなく、でも心はタイムスリップしたかのように一気に若返る。人生、辛いことばかり続くのではなく、こうしてご褒美がちゃんとあるのだと。ひとえに二人が過ごしてきた日々の心がけへのご褒美だと思う。

恨みつらみが一切ないのもいい。そういうものを超越しているのがいい。シンプルに、会えたことへの喜びでいっぱい。こうして会って喜びを分かち合いたい。何がきっかけで愛する人に会えなくなるかわからないのです。身に沁みました。

若夫婦を演じる右近さん鶴松さんがよかった。言葉の一つ一つが丁寧で、聞いていて涙がこぼれました。最初のシーンがフラッシュバックしました。

過去、伊織は仁左衛門さんだけでなく、三津五郎さん中車さんでも拝見しました。

中車さんが演じた時、離れていた父、三代目猿之助のことが重なったという話が印象的で覚えています。また、三代目も伊織を演じていて、澤瀉屋の伊織は前半は’気障に甘く’、後半は’わかりやすく派手にやれ’と言われたとか。派手って。。このニュアンスが澤瀉屋っぽい(笑)

いつか猿之助さんの伊織を観たいです。るんより伊織が観たい。

そんな妄想もしながら、わかっていても泣きながら観てしまうお話でした。
またいつか菊之助さん勘九郎さんで演じてほしいです。

aya

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