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Mike Alway's Diary -Works of Cornelius 006-

1992年末の小山田関連リリースを締めくくるのは、1992年12月21日にCrue-Lから発表されたカヒミ・カリィのEP『Mike Alway's Diary』である。
ここまでのカヒミの作品はコンピレーションへの参加楽曲のみであったため、単独では本作がデビュー作ということになる。

Debut EP

『BLOW-UP』から始まったCrue-Lレーベルの作品は、これで3枚目となった。ちなみに2作目は92年夏にリリースされたFavourite Marineのアナログ・シングル『Flowers Bloom』で、小山田もAB面の両曲でギターを演奏している。

EP『Mike Alway's Diary』については、いくつかの雑誌記事等で「小山田がすべての楽器と打ち込みを担当したシングル」と紹介されており、中には小山田本人がそのように話してぼやいたらしき記事もある。しかしCDのリーフレットには、"The Crue-L Grand Orchestra"として複数名の演奏者がクレジットされている。
誰かが間違っているとか言いたいわけではない。おそらくだが、タイトルチューンの「Mike Alway's Diary」はたしかに小山田が大部分を手がけていて、その他の曲については他の演奏者もきちんと関わっている、というのが実際のところではないかと思う。

リーフレットのクレジット欄
小山田のパートはギター、ベース、プログラミング

Mike Alway's Diary

Mike Alway's Diary / Kahimi Karie
Release: 1992/12/21
EP『Mike Alway's Diary』 (Crue-L Records)
Lyric: Kahimi Karie | Kenji Takimi (Japanese Version)
Music: Keigo Oyamada
Arrangement: Keigo Oyamada

タイトル曲「Mike Alway's Diary」は、無印のオリジナル版と"Japanese Version"の2種類が収録されている。(収録順は日本語の方が先)
オリジナル版はカヒミによる作詞で、フランス語を主体に、所々に英語が混じる。題名のとおり、élレーベル主宰マイク・オールウェイへ捧げる賛歌とでもいうような内容である。これに対し、瀧見憲司による"Japanese Version"の歌詞はもっと詩的かつメルヘンチックな表現で、唄っている内容も異なっている。

両バージョンの違いは歌のみで、バックトラックは同一のようだ。BPM176程度とかなりテンポの速い曲だが、使われている楽器や音色がソフトなので、勢いよりもかわいらしさのほうが目立っている。
まず左右2本のアコースティック・ギターとベースについては、発言及びクレジットの通り、小山田の演奏だろう。2コーラス後のギター・ソロはFlipper's Guitar初期を想起させるフレーズで、とくに駆け上がるメロディーは「Coffee Milk Crazy」を思い出させる。(演奏者はたぶん違うけど作曲者は同じ)
リズムにはRolandのアナログ・リズムマシンの音色を使用している。のちのFantasma期で大きく取り上げられるCR-78〜TR-808系のサウンドである。実機を使用したかどうかはわからないが、このプログラミングも小山田が担当したということだろう。

リズムのうち、タンバリンや他のパーカッションは生楽器の音に聞こえる。サビの裏メロにはチープなピアノ系音色も用いられている。これらは生演奏だとすると他のメンバーが担当した可能性が高くなるが、実は小山田による打ち込みだったりするのだろうか。
イントロや間奏の口笛は、さすがにクレジットの通り4人で吹いていると思う。口笛とユニゾンで鳴っているミューテッド・トランペットも、打ち込みでは再現が難しそうな質感だ。

参照元のひとつは、UKのネオアコ・バンドDislocation Danceの「You'll Never, Never Know」である。全体的な雰囲気やリズムを参照しつつも、展開としては「Mike Alway's Diary」の方が複雑に作られている。

発売からしばらく後になるが、「Mike Alway's Diary」は1995年1月から日産マーチのCMソングとして使用された。このため、歴代のマーチのCMソングをまとめたコンピレーションCD『SOUNDS OF MARCH 〜NISSAN MARCH HISTORICAL COMPILATION〜』にも収録されている。
また、Pizzicato Fiveの小西康陽選曲による"渋谷系"コンピレーション『bossa nova 1991: shibuya scene retrospective』のラインナップにも選ばれている。"渋谷系"を象徴する楽曲のひとつといっても過言ではないだろう。

Get Out Of Your Lazy Bed

Get Out Of Your Lazy Bed / Kahimi Karie
Release: 1992/12/21
EP『Mike Alway's Diary』 (Crue-L Records)
Lyric: Mark Vincent Reilly/Danny White
Music: Mark Vincent Reilly/Danny White
Arrangement: Keigo Oyamada

3曲目に収録されているのはMatt Bianco「Get Out Of Your Lazy Bed」のカバーである。曲の構成としてはほぼ忠実に原曲をなぞっているが(キーも同じ)、楽器の使い方が異なる。原曲が80'sらしいシンセサイザー中心のアレンジになっているのに対し、本作ではそれを生の管楽器やバイオリン、ハモンド・オルガンなどに置き換えている。和気あいあいと合奏している雰囲気が伝わってきて微笑ましい。
演奏するThe Crue-L Grand Orchestraの名義は『BLOW-UP』と共通するが、メンバーは同一ではなく、流動的のようだ。

Shower To Shower

Shower To Shower / Kahimi Karie
Release: 1992/12/21
EP『Mike Alway's Diary』 (Crue-L Records)
Music: Keigo Oyamada
Arrangement: Keigo Oyamada

4曲目の「Shower To Shower」は1分足らずの小曲である。タイトルの通り、やさしい雨とか やわらかい光のシャワーを感じさせるような、愛らしい作品だ。
作風としては「Bonjour Line」から連なるミュゼット調で、アコースティック・ギターとアコーディオンを中心としたアレンジである。ヴィブラフォンのような音色も所々に聞こえる。
不思議なのは、このアコーディオンやヴィブラフォンの演奏者についてはクレジットがないことだ。ヴィブラフォンは打ち込みやキーボードによる演奏の可能性もあるが、アコーディオンに関してはきちんと弾ける人の演奏ではないかと思う。

Vinyl

『Mike Alway's Diary』には7インチのアナログ盤も存在する。おそらくCDと同時発売で、A面にはオリジナル版(フランス語+英語版)、B面には「Get Out Of Your Lazy Bed」が収録されている。ぼくは未所有なので詳細不明だが、少なくとも「Get Out Of Your Lazy Bed」は別バージョンらしい(モノラル・ミックス?)。CD盤はわりと入手しやすいのだが、アナログ盤はやや高値が付いていることが多い。

Covers

最後に、他アーティストによる「Mike Alway's Diary」のカバー版についてまとめておく。流通しているものとしては、少なくとも2種類の存在を確認できる。
Aira Mitsukiによるカバーは2008年のコンピレーション『Teardrop』および2009年『Airaの科学CD』に収録されている。" テクノポップ第二世代"を称するだけに、アナログ・シンセサイザー系の音色を中心に、アコースティック・ギターも交えながらまとめられている。良作だと思う。

インディーズで発売された2012年のコンピレーション『渋谷系リスペクトVol.1』でも取り上げられている。こちらの作風も電子音で、歌詞は"Japanese Version"を採用している。演者の"SAYURI & Mikio Nakashima"はこの楽曲以外に情報が見当たらず、詳細はよくわからない。

参考記事・書籍等
川崎大助, ロング・インタビュー 小山田圭吾 フリッパーズ解散から一年, 宝島 1992年12月9日号 No.261, JICC, 1992.
ばるぼら, Cornelius × Idea Mellow Waves —コーネリアスの音楽とデザイン—, 誠文堂新光社, 2017.
山崎二郎, The Scientific Encyclopedia Of Cornelius - 1996 Edition, Bar-f-Out! Volume 012, TCRC Ltd, 1995.
川勝正幸, 総力特集cornelius 5つめのシーズン 全仕事解説, 月刊カドカワ Vol.13 No.12, 角川書店, 1995.
bounce.com編集部, 本人の解説付き! Airaの2年間を作品とアートワークで再確認!!, bounce.com, 2009.

 


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