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「わたしのお気にいり」に憧れる

サウンドオブミュージックの劇中歌に「My Favorite Things(わたしのお気にいり)」という曲がある。

正直言ってこの歌詞で歌われているのがどういう事象なのか、あんまり想像できないものが多いのだけど、それでも好きなものを並べた詞と心踊るようなリズムには思わず浮き立つ感じがする。

わたしには昔から「あんまり気に入ってないものをなんとなく長く使ってしまう」癖がある。

年長さんの時に着ていたお下がりのトレーナー、小学生の時に使っていた缶ペンケース、キャラもののシャーペン、紐の切れかかったストラップ、実家の部屋の黄色いカーテン、ピンクで水玉のベッドカバー、瞬足のスニーカー、小4からかけていた赤いめがね、なぜか中学の通学鞄にしていた登山用の重たいリュック、ユニクロの安い制服カーディガン、大学のときの色落ちした茶髪、最寄り駅から遠く離れたところでやっていた家庭教師のバイト。

ものにこだわりがある方ではないのだけれど、どれも全然好きじゃなかった。全然好きじゃないな、と思いながら使い続けた。

学生時代はずっと忘れられない人がいて、でも時々他の人と付き合っては秒で居心地の悪さを感じて逃げ出したくなっていた。恋人のことを一番好きだったことがなかった。

本当は歌の仕事をしたかったのに、就活の波に揉まれて正社員の仕事を選んだ。「本当にやりたいこと」に真っ直ぐ向き合うのが怖かった。

わたしは、いろいろなものを「とりあえず」で選んでしまう。
大体いつも、今を(仮)のつもりで生きている。
「本当のわたし」にはいつなるつもりなのだろう。「いつか」はいつ来るのだろう。
そんなに好きではないものに囲まれて、なんとなくいつも息苦しくて、未来への期待でしか自分を愛せない。そういう自分がずっと苦しかった。


今年の3月に一人暮らしを始めた。
条件にこだわって一生懸命探して選んだ部屋で、決まった時には本当に嬉しかった。すごく久しぶりに「お気に入りを身につけている」と思った。

夏に「この人すごく好きだな」と思った人が恋人になった。
好きな人と一緒にいるとこんなに楽しいんだということを初めて知った。


今、一生懸命毎日にお気に入りを増やしている。
「とりあえず」を選ばないで、見つかるまでちょっとだけ粘っている。
心が淡く湧き立つような、そういうもので日々の暮らしを満たしていきたい。「わたしのお気にいり」でいっぱいの、柔らかな日々を生きてみたい。
わたしはそれに憧れている。



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