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№3.卒業生の声 木下悦子さん

多様なバックグラウンドをもつ本コース卒業生へのインタビュー
 
木下さんは、10年以上の社会人経験を経て、言語聴覚士へキャリアチェンジをしました。昨年から、就職説明会の一環として、在校生へ卒後のご経験について、ざっくばらんにお話いただいています。


PROFILE

専攻科(言語聴覚士養成課程)2020年卒業(5期生)
四年制大学卒 複数の民間企業勤務を経て、本学入学
医療法人社団KNI 北原リハビリテーション病院勤務

●現在の仕事内容(や活動)を教えて下さい

 回復期のリハビリテーション病院で働いて四年⽬になります。失語症や⾼次脳機能障害、嚥下障害、構音障害のある患者様の臨床業務が主ですが、それに付随して認知症・⾼次脳機能障害のケアチームを担当しています。 また、医療外事業として、退院した患者様に弁当をお届けする宅⾷事業の企画をしています。

-認知症・高次脳機能障害ケアチームとは?
 2021年から始まったチームで、⽴ち上げから関わっており、STの先輩から運営を引き継いで⼀年経ったところです。
 看護師やケアスタッフの⽅で、もともと認知症に関⼼がある、例えば抑制帯など⼈間の活動の制約になるものを極力減らして活動を増やすためにはどうしたら良いかを考えたい方々と連携しています。認知症や高次脳機能障害のある方の周辺症状や問題⾏動⾃体の改善にとらわれず、病前の趣味や仕事など生活の様子や、退院後の生活像にも⽬を向けて対策を検討すると、患者さんご⾃⾝の情動や症状も落ち着いてくることが多いですし、働くスタッフも気持ちが穏やかになるし、結果、みんなにとってストレスフリーになるというのは悪いことはないと思います。
 医師の先⽣も⼀緒にケアチームに関わってくださっているので、とても動きやすいです。脳画像や症状の理解、対応策の相談・検討や、内服の調整なども対応くださいます。例えば、もしかしたら薬がせん妄を誘発しているかもしれないなど、⾃分で調べて相談に⾏った際、先生から、看護師さんや薬剤師さんとも話して下さるなど、とても心強いです。

-やはりチームでないと成⽴しませんか︖
 そうですね。リハビリスタッフは夜間の患者さんの状態をなかなか把握できないので、そうした情報を得て初めてわかることがあったりもします。それぞれの専門領域や持ち場の視点を持ちながら、チームで検討したり、関わったりすることがとても大切だと思っています。

-院外活動についても教えて下さい
 院外活動として、⼀つは南多摩⾼次脳機能障害⽀援センターの施設連絡会に参加させていただき、南多摩地域で暮らす⾼次脳機能障害の⽅の地域⽣活をどうサポートするかを検討したり、行政・福祉・医療の地域資源の皆さんとのネットワーク作りなどをしています。 私も症例検討会で症例を出させていただいたことがありました。
 もう⼀つは、東京都⾔語聴覚⼠協会の事業の⼀つである失語症者向け意思疎通⽀援者養成事業に携わらせていただいていています。具体的には⼋王⼦市で⾏っている失語症のある⽅向けのサロン(ペチカ)で⽀援をしています。⽉に⼀回、第4⽇曜⽇に失語症のある⽅が集まってお話をしたり、お話だけではなくて、その⽅がやってみたいこと、チャレンジしたいことをサポートする場です。 来年度から⼋王⼦市で失語症者向け意思疎通⽀援者の派遣が始まるので、今はその準備段階として意思疎通⽀援者の養成実習の受け⼊れなどを、他施設の⾔語聴覚⼠の皆さんと⼀緒に行っています。ペチカは、失語症者の⽅が横でつながるネットワークとコミュニケーションや活動をサポートする⽀援者とを結ぶ場になっています。

●言語聴覚士を目指したきっかけ

 ⼤学を出る時に、⼈の可能性を引き出せるような仕事がしたいなっていうのは、ぼんやりとあったので、⾊々な職業を経験したのですけれど。2⼈との出会いというか、2⼈の病気のきっかけが⼤きいです。
 1人は、私の祖⽗で、脳梗塞のあと、誤嚥性肺炎を繰り返して亡くなりまして、看取りまで⼀緒に過ごしたので、その祖⽗の人生終盤を身近に見ていたことが⼀つのきっかけになりました。
 もう1人は、職場の元後輩だった⽅が、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症されて、もともとお出かけしたり、⾞を運転したり、お仕事もできるぐらいお元気だった⽅が、⾞椅⼦⽣活になり、気管切開になり、胃ろうになり、眼球でコミュニケーション取るようになり、ということがありました。お若かったので、進⾏も結構早くて、その段階、段階で⾊々な⼿段でお話をさせていただいたりという機会をもらい、⾷べるとか、⼈とやり取りしたり、お話しするっていうこと⾃体が、本当に⼈間のすごく根源的な欲求だと思いました。そういうニーズをいろんな制約やできないこともあるかもしれないですけど、できることや可能性に⽬を向けた仕事である⾔語聴覚⼠(以下︓ST)はすごく素敵な仕事だなと思って⽬指すことにしました。

-武蔵野大学を選んだ理由は?
 養成校を探していた時に、⾔語⽣活サポートセンターの失語症カフェやTKK(東京高次脳機能障害協議会)の研修会に参加してみたりしたんです。 
 失語症や高次脳機能障害のある⽅にそれまでお会いしたことがなかったので、どういう症状なんだろうとか、何に困っているんだろうとか、どういう⾵に⽣活してるんだろうとかを知りたかったので。そこで当事者の⽅やご家族、⽀援をしているSTや医療・福祉職の⽅にお会いしました。それで、⾔葉などの制約を受けることで受ける、⽣活の制約という⾯を⾒せていただき、失語症や高次脳機能障害のことをもっと深く勉強したいなと思いました。
 武蔵野大学の言語聴覚コースには⼩嶋(知幸)先⽣がいらっしゃったということと、⾔語聴覚コースが⼈間科学部の中にあり、⼈間や⼈という存在を真ん中に置いて、医療の⼀部としての⾔語聴覚⼠ではなく、⼈を⼈たらしめていることの中にコミュニケーションも含めて学べるST課程であるというのが、すごく魅⼒的だと感じました。
 それから、学ぶ環境として、⾃然もすごくいっぱいありますし、図書館もとても充実していたの で、 煮詰まらないで勉強できそうだと思いました。勉強がつらくなっても上⼿にいろんなものに助けられそうだなと思いました。

●学生時代について教えてください

 専⾨⽤語が多いので、入学当初は⾔葉を理解したり、医療知識を得たりするのに苦労しました。ですが、グループワークが結構ありましたので、クラスメイトの横のつながりにはとても助けてもらいました
 ⾃分が不得意なところがあったとしても、そこを得意な⼈がいて教えてもらったり、どうすれば良いかお互いノウハウを共有できたりする⽅が揃っていたので、それはすごくありがたかったですね。半分くらいは社会⼈経験があり、セカンドキャリア的な感じで来ていた⼈がたまたま多かったです。⼈数が少ないので、こじんまりというか、相談したり一緒に考えたりできました。今思えば、多分あの時、苦労したり悩んだり、⾊々あったからこそ身になって覚えていることもたくさんあると思います。

-実習はどうでしたか?
 成⼈の脳卒中領域で働きたいと思っていたので、そこを汲んでいただいて、実習先をアサインしていただいたので、勉強になることばかりでした。 
 それぞれの実習で学ばせていただいたことは、働き出して役に⽴っていることばかりで、実習先のSTの先⽣⽅からのご指導や、症例の⽅の症状など、覚えていることはたくさんあります。直接、今に役⽴っているというか繋がっているという感じです。
 どちらの病院も⽣活期も含めてサポートをしていて、病院病院というよりは、その⼈の⼈⽣や生活を⽀えるためにSTは何ができるかということを考えている⽅がいらっしゃる場にいられて、すごくありがたかったなと思います。
 とても勉強になりましたし、全然わかっていないんだなということもよくわかりました。失語症のメカニズム、その⽅の⾔語症状のどこが中核障害かというのが、どんなに考えても全然わからないということがありました。でも、STとして現場に出る前に、時間をかけてでもいいから、⾃分の頭で考えた⽅がいいと中川良尚先⽣(江⼾川病院)に⾔っていただいたことは、今もすごくありがたかったと思いますね。
 武蔵野⼤学の養成課程でも、レポートが多かったですし、臨床実習に出てもやっぱりレポートを沢⼭書きました。STとして働き出して、まだまだ勉強すべきことは沢山ありますが、患者さんの症状に対して何が中核の問題で、まず何から手を付ければ良いか少しずつでも考えられるのは、この経験が今につながっているからだと思います。その時はつらく、⼤変でしたが、今になってみるとありがたかったと思います。

-国家試験の勉強はいかがでしたか?
 
⼤学内で模試が定期的にあるので、そこは⼀つ⽬標というか意識しつつ、あとはアプリやインターネット上のWebサイトなども使っていました。⾃分が苦⼿なところをとにかく繰り返しやるしかなかったですね。過去問題の対策などもしていましたが、同級⽣のみんなと、情報交換をし、知識を再整理するためにまとめの表や問題を作って出し合ったり、みんなで協⼒し合いました。一緒に受かったという感じです。

●言語聴覚士の仕事の魅力は何ですか?

 障害構造などもそうですし、その⽅の⽣活背景や精神⾯など、いろんなものが合わさって表⾯化しているものが症状なので、そしてそれは、その⽅⾃⾝でもないというか、あくまで症状だと思うんです。表面にとらわれずに、なぜそうなっているのかを考えたり、どうしたらよりご本⼈も周りの⼈もストレスなく⽣きていけるのかっていうのを考えられるのは、すごく魅⼒ある楽しい仕事だなと思いますね。
 ⾒えていない⽔⾯下というか、そういったことを考えることができるのは⼤変ですけれど、⾯⽩いなと思います。
 当事者の⽅が⾃分では表現しづらかったり、実際に⾔葉としては表出しなかったとしても、意思を汲み取る方法を検討したり、ご家族や支援関係者と関わって生活を検討する上でも、とても⼤事な役割を担う仕事だと思います。
 それから、いろんなことを患者さんと⼀緒に経験できるのもすごくありがたいです。⼀緒にお出かけしたりとかもそうですし、⾔葉がもしでなかったとしても、絵を残してくださった患者さんがいらしたり、コーヒーを⼊れてくださる患者さんがいらしたり、パーソナルな空間でお話をしたり向き合ったりする仕事なので、お一人おひとりと出会うことができるというか、⾯⽩く魅⼒的な仕事だなと思います。

●後輩へのメッセージ

 S Tの仲間を増やしたいなと思っています。働く先やフィールドが違っていても、S Tを志す⼈が⼀⼈でも多く増えていくことが楽しみです。⽬の前のつらいことで⼼が折れそうなことはたくさんあると思うのですが、その先に待っている⼈がいて、作っていける未来など、可能性はいくらでもあると思うので、それぞれのフィールドで活躍できる仕事だなと思います。
 STだけで解決できることもありますが、みんなと⼀緒に解決できることもあるので、S Tの⽬線や技術、視点などが、他の職種や患者様やご家族などに与えられる影響は少なくないと思います。その⾃負を思って私⾃⾝も仕事をしたいです。

以上、ご協力をありがとうございました!