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100年続く牛乳屋が日本一小さなマイクロ乳業メーカーに挑戦

吉祥寺の牛乳屋である武蔵野デーリーが CRAFT MILK STAND を立ち上げてから約2年。

今までは「牛乳屋」として完成した牛乳を販売することに専念してきましたが、このたび自分たちで牛乳が製造できる工房を立ち上げ、「乳業メーカー」としても活動していくことを決意しました。

牛乳の〝シングルオリジン〟「CRAFT MILK」

 武蔵野デーリーは祖父が100年前に吉祥寺で始めた牛乳屋がルーツです。その後、現代表の父・木村義之の代となり40年以上牛乳販売を続けてきましたが、一昨年、息子の私が参加し、CRAFT MILK STANDに生まれ変わりました。


そして、CRAFT MILK STANDとして全国150箇所以上の牧場を巡り、こだわりをもつ牧場の牛乳をセレクトして販売してきました。

牧場の牛乳と言われても、「スーパーで売っているパックの牛乳と何が違うの?」と思う方も多いとかと思います。
もちろん、どの牛乳も牧場で搾られたものですが、スーパーマーケットなどで販売されているほとんどは多くの牧場の牛乳がまぜられてできています。でも、実際は牧場ごとに育て方、エサ、品種が違い、本当はそれぞれ牛乳の味は異なります。こだわりの多い牧場ならなおさら味は違います。

しかし、「⚫️⚫️牧場」と名のつく牧場単位の牛乳はなかなか販売されていません。なぜなら牧場ごとに牛乳を製造、販売するのは簡単ではないからです。


ミルクスタンドでも販売させてもらっている神奈川・山北にある「薫る野牧場」の牛乳。 春は青草の風味を感じ、冬はクリーミー。季節ごとに変わる味にお客さんも驚きます。

販売される牛乳は殺菌して容器に積めなければいけませんが、その作業を行う設備には数千万円にも及ぶ設備投資が必要です。
さらに販売するには販路開拓のために営業しなければいけません。365日生き物と向き合う酪農において製造から販売まで行うのは容易なことではありません。
そのため牧場単位の牛乳を販売しているのは全国の牧場の中でもごくわずかです。私たちはそんな牧場単位の〝シングルオリジン〟の牛乳を「CRAFT MILK」と称して販売してきました。
今まで私たちが売っていたCRAFT MILKはそうした様々な試練を潜り抜けた希少な牛乳なのです。

ミルクスタンドでは牧場から直送してもらった牛乳を一杯一杯注いで提供します。

まだ見ぬCRAFT MILKをもっと世に出したい

 そんな牛乳の〝シングルオリジン〟ともいえるCRAFT MILKを求めて全国各地の牧場を巡りましたが、自社で牛乳の製造をしている牧場はごくわずかでした。
一般的な牧場の牛乳は乳業メーカーによって集められ、多くの牧場の牛乳がまぜられて製造、販売されていきます。牧場単位の牛乳は全国的にも少ないので、ほとんどの牧場の牛乳がミックスされて販売されていると言えます。
ミックスされた牛乳や乳製品が良くないということではありません。まとめて大量に製造、流通させることで、価格を安くできます。味も均質化されて安定しますし、料理などにも使いやすいです。
一方で、こだわりをもってつくった牛乳が他の牛乳と混ぜられて販売されることを残念に思っている牧場主も少なからずいました。
そういった牧場にいくと、「うちのミルクを飲んでみるか?」と自慢の牛乳を振る舞ってくれることがよくあります。飲んだらびっくり、とっても美味しいんです。牛乳観が一変します。しかも、牧場ごとに味が違います。牛乳ってこんなに多様なんだと気付かされます。
CRAFT MILK STANDでも、全国の様々な牛乳を取り寄せて3種飲み比べとして提供していますが、「牛の種類・餌・育て方などで、こんなに味が変わるのか」と驚く人がたくさんいます。
今は限られた一部の牧場の牛乳しか提供できていませんが、ミックスされてしまう中でもこだわりある牧場の牛乳をCRAFT MILKにできないかと思うようになりました。

CRAFT MILK STANDでも一番人気の飲み比べセット

「CRAFT MILK'S PROJECT 」2024年8月スタート


 「まだ世に出ていないCRAFT MILKをつくる」。私たちはそんな思いを抱き、「CRAFT MILK’S PROJECT」をはじめるべく、一年前より動き始めました。

こだわりをもって牛を育てている唯一無二の価値がある牧場。そんな牧場の中でも、まだ牧場単位では販売されていない牛乳を今春からつくっていきます。

日本一小さなマイクロ乳業メーカーへ

 自社で牛乳や乳製品をつくるためには、乳処理業、乳製品製造業と呼ばれる厳格な基準を持つ保健所の営業許可が必要です。
牛乳や乳製品は痛みやすく許可を得るのはとても大変なのですが、色々な牧場の人たちのアドバイスも受けながら、自分たちで牛乳や乳製品をつくることができる工房「CRAFT MILK LAB」を立ち上げ、保健所の許可も取得しました。

牛乳や乳製品製造ができる工房「CRAFT MILK LAB」


CRAFT MILK STANDがある建物の地下にあります。今までは完成した牛乳を販売する「牛乳屋」の一面だけでしたが、自分たちで牛乳が製造できる「乳業メーカー」としても活動していきます。
元々倉庫だった地下を活用した小さな小さな製造工房です。たぶん日本で一番小さい「マイクロ乳業メーカー」になります(※私が調べる限り)。
でも、小さいことに意味があるんです。
大手メーカーはたくさんの従業員がいて、たくさんの牛乳を作ります。だからこそ、色々な牧場の牛乳を混ぜて効率的に製造、流通させなければいけません。結果、商品ラインナップは限られてしまい、牧場単独の牛乳はほぼできません。
他方で、私たちは家族を中心とした小さな乳業メーカーです。だからこそ、量の少ない牧場単位のCRAFT MILKを自由につくることができます。今まで世に出ていない希少なCRAFT MILKをこれから色々と作っていきます。

改装前の地下の倉庫

みんなの力を合わせたシェア型の牛乳づくり

 私たちは小さいからこそ、開発段階から色々な仲間に関わってもらい、すでに流通している牛乳を買うだけではない、自分たちがほしい牛乳、乳製品を一緒に作れるんじゃないかと思っています。
「この牧場の牛乳が飲みたい」「牛を大切に育てている牧場の牛乳が飲みたい」「この牛乳と茶葉でチャイを作ったら美味しいんじゃないか」「牛乳を使ったこんな商品ができるんじゃないか」…。みんなの声を聞きながら、今までにない多様な牛乳、乳製品を作りたいと思っています。
さらに、顔の見える牛乳づくりをすることで、牧場や牛たちと関係を強めていきたいと思っています。切り離されがちな酪農や農業が日常生活に入りこみ、もっと応援できるような環境になるのではないかなと思っています。
たとえば、自分が好きな牛や、名前をつけた牛から搾られた牛乳が飲めたとしたら。ただの牛乳じゃなくなりますよね。牛乳だけでなく、牧場、牧場主、牛たちとのつながりをうむ牛乳づくりを目指します。

酪農の社会課題にも向き合いたい

 牛のエサである穀物や燃料の高騰や、生乳の破棄問題、後継問題、牛のゲップによる気候変動問題。問題山積みの酪農業界ですが、CRAFT MILK’S PROJECTを通じて、さまざまな課題にも積極的に関わっていきたいと思っています。

私は広告会社に勤務しながら、復興支援や防災コミュニケーション、気候変動対策の啓蒙や、企業のサステナビリティなどいわゆるソーシャルビジネスに関わってきました。様々な企業や行政、研究機関、NPOの人たちと連携しながら色々なプロジェクトを立ち上げました。

こうしたスキルやネットワークも生かしながら、牛乳や乳製品の販売だけでなく、業界全体にも目を向けて、酪農業界を少しでも良くする取り組みを行うサステナブルな乳業メーカーとしても活動していきたいなと思います。

特に、牧場の復興支援や、酪農の気候変動対策には積極的に関わっていきたいと思っています。
災害時の牧場の状況の発信はもちろん、その後必要な支援を行なっていきます。酪農の気候変動対策についても今後勉強を進めながら必要な情報の発信を行なっていきます。
また、気候変動対策については自社としても、CO2排出量の低減、プラスチックなどの利用削減など積極的に取り組んでいき、様々な領域からサステナビリティを推進していきたいと思います。
産業としての課題が多い酪農業界ですが、色々な仲間とともに少しでもよい方向になるきっかけを作っていければと思います。

CRAFT MILK LAB MEMBERS 〜 継続寄付のコミュニティ 〜

 武蔵野デーリーが提唱する〝CRAFT MILK〟を応援し、一緒に盛り上げていく仲間があつまるコミュニティーです。
さまざまな活動をしていく武蔵野デーリーへの継続的な寄付がベースですが、オンラインを軸に色々な取り組みを行っていく予定なので、会員のみなさまはそれらにも参加できます。

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