牛乳観が一変!放牧中心のミルクスタンドを作りました。
これまでの牛乳の概念を覆した、“放牧”との出会い
こんにちは、「武蔵野デーリー」の木村と申します。「武蔵野デーリー」は、私の父親が代表の会社です。代表と言っても、父親1人の自営業でした。そんな会社に私も参加し、一緒に放牧の牛乳を扱うミルクスタンドを作りました。
「これが、牛乳!?」放牧の牛乳ならでは。あっさりした味わい
いきなりで申し訳ないのですが、もともと私は牛乳が嫌いでした。
小学生の頃、給食で飲むぬるい牛乳のにおいが苦手で、どうしようもありませんでした。
そんな私の牛乳観を一変させる体験をしたのは、今から5年ほど前でした。きっかけは、父にすすめられて読んだ、北海道旭川市にある放牧の「斉藤牧場」を始めた斉藤晶さんの自伝的な本『牛が拓く牧場』(地湧社)でした。
自然に逆らわず、自然や動物に寄り添ったスタイル。しかもそれを自然を見ながら自力で考えたといいます。感動して、すぐに斉藤牧場に向かいました。
牧場は旭川から30分ほど離れたところ。山奥の斜面にありながら、青々とした牧草がきれいに生い茂っています。
美しいとはいえ、ゴツゴツした急斜面。しかし、牛たちは何食わぬ顔をして草をはんでいました。牛といえばのんびりしているイメージですが、斉藤牧場の牛たちは生き生きとしてたくましかったです。
「これが、牛乳!?これなら飲める!」
牧場を案内してもらった後、牛乳を用意していただきました。飲んだ瞬間、そのおいしさに感動しました。 一般的においしい牛乳というと、濃くて甘い印象ですが、「斉藤牧場」の牛乳はサラッとしていました。それでいて、風味豊か。飲んだことのない味でした。
「これが放牧の実力か……」
苦手な牛乳が大好きになるきっかけでした。
東京では買いづらい放牧の牛乳
放牧の牛乳は高級スーパーや百貨店などで一部売られていることはあります。頑張っている牧場は自分のお店を作ったり、ECサイトで販売したりしています。ただ、全国各地の放牧の牛乳を取り揃えているお店はほとんどありませんでした。
それは流通に問題があると言います。大量に生産してまとめて送ればある程度輸送コストを抑えられますが、放牧は少量生産のため、輸送コストが高くなります。個人で宅配すると、一本の牛乳の価格の2倍以上になることもしばしば。加えて、牛乳は賞味期限が短いこともあり、一般的にはなかなか浸透しませんでした。
また、生産された地域のみで流通している放牧の牛乳も少なくありません。もともと牛乳はそれぞれの地域で生産されたものが流通してきた歴史もあり、今でも地元だけでしか販売していない自然放牧の牛乳もあります。
このような背景もあり、全国にはまだ飲んだことのない放牧の牛乳がたくさんあるのです。
北海道でも、たった3割。放牧とは?
ここまでなんとなく話してきましたが、改めて放牧についてご説明します。
放牧とは、牧草などが生えた草地で牛などを飼育することです。テレビコマーシャルやポスターなどでは、草地をのんびりと歩く牛たちの様子が描かれることがありますが、実際には、酪農において放牧は主流ではありません。
北海道では約31%、都府県では4.5%しか放牧されていません。多くの場合、牛舎でつなぎ飼いなどをされています。
※放牧の割合は、(一社)日本草地畜産種子協会調べによる放牧頭数、畜産統計による飼養頭数に基づいています(平成31年2月1日現在)
牛舎の中で暮らす牛と比べ、放牧の牛は牧草地を自由に歩き回ることができます。好きな時に草を食べ、そのまま排泄し、その糞から草が生え、またそれが餌の草となる。自然が循環する仕組みから、最近では温暖化対策、SDGsとしてよく取り上げられます。
牛にとっても健康的に生きられるため、動物にとって可能な限りストレスない暮らしを目指す飼育方法「アニマルウェルフェア」としても注目されています。
もちろん、放牧じゃなきゃだめということではありません。牛舎でも牛や自然、地域のことを考えた素敵な牧場はたくさんあります。
ただ、私は牛が草地の中を自由に歩き回る放牧の虜になりました。
牛乳嫌いも好きになる!? 季節で味変する自然放牧の牛乳
放牧の牛乳はサラっとして臭みもほとんどないため、私だけでなく、牛乳嫌いの多くの人たちも好きになる可能性があります。事実、このページの写真を撮ってくれたカメラマンも小学校のころからずっと牛乳嫌いだったのですが、撮影中に放牧の牛乳を飲んだら、ゴクゴク飲めてしまいました。
牛乳が飲めない子どもはもちろん、学校給食で苦手意識が生まれた大人も含めて、牛乳嫌いな人たちにこそ飲んでもらいたいのが放牧の牛乳なのです。
もう一つ、時期によって変わる味も特徴です。穀物を食べさせることが多い牛舎飼いとは異なり、放牧の牛は自然に生えている草を中心に食べることが多いです。そのため、牛乳も四季折々の草の変化をダイレクトに受けて味が変わります。
青々した草が生えそろう春ごろの牛乳は黄色く、味も風味もとても豊か。夏は牛が水をたくさん飲むこともあり、徐々に味はあっさり。秋から冬にかけて、草は枯れてしまうので、干し草や穀物などを食べさせ、牛乳はどんどん濃くなっていきます。
同じ牛乳とは思えないほど味が変わっていき、一年を通して味の違いを楽しめるのも放牧の牛乳の特徴と言えます。牛乳好きな人でも、牛乳観が変わる可能性がたっぷりあります。
こだわり溢れる、放牧の牧場。
訪れて知った放牧への想いと意義。
放牧の虜になった私は、全国の様々な牧場を見学しました。牧場は日本の津々浦々さまざまな場所にあり、時には山奥にもありましたが、仕事の合間合間で時間を見つけながら2年がかりで30箇所以上お邪魔しました。
実際に現地を回りながら放牧の多様性も感じました。
伺った牧場は、それぞれの哲学を持ち、独自の放牧を行っていました。そして、その牛乳はどれ一つとっても同じ味がありませんでした。
その中でも、私が感動した牧場のひとつ、北海道・道東にある足寄の「ありがとう牧場」があります。今後別の記事でご紹介しますね。
地元の東京・吉祥寺で、放牧に特化した拠点を
これほど多様で、面白く、牛乳観を一変させるほど美味しいのに、全国の放牧の牛乳を楽しめるお店がほとんどないのです。
最近では牛乳の供給過多問題がニュースでもよく紹介されます。この問題は一時的ではなく、今後も続くと言われています。だからこそ、「飲もう!」という掛け声だけでなく、好きになったり、いろいろな牛乳を飲むようになったり、もっと生活に溶け込んでいく必要があると思います。
作り手の思い、育て方、そして、味の違いがある放牧の魅力を知ることで、もっと牛乳の文化が深く広がり、牛乳の供給過多の問題解決にもつながるんじゃないかと思います。
「よし、それならば放牧の拠点となる店を作ろう!」
放牧の牛乳を集めたミルクスタンドを父と作ることにしました。
牛乳屋だった父親と、10年越しの夢を親子で叶えたい。
父は牛乳屋に生まれました。父親はサラリーマンを経て、祖父の会社に入りましたが、当時の会社は配達や業務用の卸しがほとんどでした。
もっと多くの人に気軽に牛乳を楽しんでもらいたいと考え、当時ほとんどなかった自販機で牛乳の販売を始めました。しかしながら、自販機では賞味期限の長いジュースやお茶などの清涼飲料水が主流となっていき、父も清涼飲料水の販売に軸足を移していくことになりました。
今年76歳になる父。自販機での販売のためにトラック運転をしていますが、年齢的にもそろそろ限界があります。昨年大きな被害はなかったものの、交通事故を起こしてしまいました。
そんな中、父といろいろ話す中で、父のルーツである牛乳をもう一度やるのがいいのではと考えました。何より、父は放牧の牛乳が大好きでした。放牧について熱く私の思いを綴ってきましたが、それは父から借りた本がきっかけでした。
私が生まれる前からずっと放牧の牛乳が好きだった父は、10年前に私に夢を語ってくれたことがあります。
「放牧の牛乳を集めたセレクトショップをやりたい」
放牧のミルクスタンドは、もともと父のアイディアでもありました。
それが今につながり、親子で店をやろうということになりました。
全国を巡って出会った牛乳が集まるクラフトミルクスタンド。
これだけのラインナップが揃うのは、ここだけ!?
お店で提供するのは、牧場単体のこだわりのある牛乳です。こだわりの牛乳を「クラフトミルク」として打ち出し、今までにない牛乳として多くの人においしさを味わってもらいたいと思っております。
東京初進出の牛乳も。全国30箇所以上の牧場の牛乳から厳選したラインナップ
父と私は実際に牧場を訪問し、牧場主とお話し、牧場や搾乳、製造の様子を見させていただいています。その上で、厳選した全国30カ所以上の牧場から、時期に合わせて随時3種類程度の牛乳をご用意しています。
全国に流通していない牛乳を含め、普段は飲めない多種多様な放牧の牛乳を中心に用意します。1ヶ月に一回程度ラインナップを変更して、来るたびに違う牛乳が飲めるようにしています。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?