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医学書はなるべくその場で買おう

医者ならばみなその所属診療科の学会(たとえば日本産科婦人科学会)と,自分の専門領域の学会(たとえば日本母体胎児医学会)の会員になっているでしょう.コロナが落ちついてきた今年あたりから,現地参加の学術集会が一般的になり,開催地への旅もまた楽しめそうです.

学会参加の楽しみのひとつに,医学書の展示販売をみることがあります.でたばかりの新刊を手にとって確かめ,実際に購入することもよくあります.アマゾンなどで中身をみずに注文し,届いてみたら失敗だったということはよくあります.また書籍展示で意外な掘り出しものを発見することもしばしばです.

こういった書籍展示がいま危機にあることを,自分が学会を主催してはじめて知りました.ぜひ自分の学会でも書籍展示をと思って,医学書をとりあつかう近隣の専門書店に依頼したのですが,すべて断られました.コロナ禍のためというより,最近はよほど大きな学会でなければ採算があわないというのです.

本が売れない時代です.医学書もその例外ではなく,出版社はもとより末端の書店の疲弊は想像を絶するものがあるようです.書籍展示は見本市ではありません.書店の立場からいえば,学会といったイベントに出展しても,そこで本が売れなければ運賃,人件費,交通費といった経費もでてこないわけです.

最近は書籍展示で本をみて,ネットに注文するひとがいます.そんなことをされると書店には一円もお金が落ちないことになります.「選書から搬入まで大きな労力を掛けて準備していますので,写メを撮ったり,現場でアマゾンに頼んだりするのをみていて悲しくなる状況は日常茶飯事です」とのことでした.

どうしようか思いあぐねていましたが,たまたま名古屋での学会で書籍展示をみつけました.思いきってその場で責任者と交渉したところ,東海地方に本店があるというその医学書専門店が引きうけてくれました.「うちは東海道線沿線のところしか出張しないんですけど,仙台は北限の地ですね」といいながら.

正直こういった立場になるまで,書店さんのそうした苦労にまったく思いがいたりませんでした.すこしでも学会場で本を買っていただけるよう「本はなるべく買うように.ネット注文厳禁」と呼びかけたうえで,学術集会長みずからパトロール(笑)をした効果もあって,「黒字になりました」とのことでした.

コロナの最中は,各地で予定されていた学術集会のほとんどが延期やウェブ開催となり,書籍展示も中止になりました.しかしコロナが収束したあとも書籍展示がもとにもどるかは心もとない状況です.ネット購入の便利さに惑わされると,書店が支えてきた医学書の出版文化を破壊することになりかねません.

学会に参加されたら,医学書の展示はぜひのぞいてみてください.本のタイトルだけ確認して,あとからネットで注文したりすることは絶対にしないで、ぜひともその場で購入してあげてください.書店さんのためにも,医学書出版文化をまもるためにもぜひよろしくお願いいたします.

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