EBMは漢方や代替医療推しの医学である
西洋医学の要素還元主義にたいして,漢方はひとの身体や病気をそのまま全体として(ホリスティックに)とらえているとのことです.だから漢方家はよく西洋医学から生まれた思想であるEBMに漢方医学はなじまない,ランダム化比較試験(RCT)で漢方薬の有効性を検証することはできないといいます.
たしかに漢方薬も,それを構成する生薬も無数の化学成分をふくみます.しかし治療対象となるひとがいて,そのひとになんらかの介入をするという意味で,有効成分を単離してつくられる西洋薬であろうと,生薬を経験的に組み合わせる漢方薬であろうと,RCTによって有効性の検証が可能です.
RCTとは対象のひとを無作為に2群に分け,一方に実薬,他方に偽薬を与えてその効果を比べる試験です.今日の臨床疫学では薬の効果のメカニズムの説明をいっさい求めません.漢方薬のように無数の化学的成分をふくみ効果の機序が不明なものでも,ただRCTで統計学的に有効性が認められればいいだけです.
EBMをつくりあげたひとりであるコクランの考えかたは非常に急進的であり,従来の医学の権威をいっさい認めませんでした.東洋医学の陰陽だとか気といった理論,カイロプラクティックのサブラクセーション,ホメオパシーの同種の法則や超微量の法則といった,現代科学からみるとトンデモ理論であっても,EBMでは理論や作用機序などはいっさい問いません.
ただエビデンスだけを重要視します.RCT,すなわちランダムに二群にわけて,治療効果に統計学的有意差がでれば医療として認めようとしました.だから代替医療とか民間医療などにたいしてもいっさい差別はありません.漢方でもカイロでもホメオパシーでもRCTで検証すべきであり,それでエビデンスがでれば正式に認められるわけです.
いくつかのRCTによりエビデンスが確立した薬剤や治療法によって現代医学は成り立ちます.その意味で医学は「ひとつ」です.さきに「西洋医学」「東洋医学」ということばを使いましたが,実は医学には西洋も東洋もなく,実はエビデンスによって有効性が認められたひとつの「医学」しか存在しないのです.
おおざっぱな言いかたになりますが,ポストモダニズムの影響下にある医療人類学などは,世界各地に存在する民族医療と同様に,現代医学を一種の呪術的なものとして解釈しようとします.しかしわたしからみれば,単純にそれは勉強不足によるものにすぎず,すなわち「高度に発達した医学は魔法と区別がつかない」というだけです.
もちろん死すべき定めの人間にたいする治療の試みですから,医学は最終的にはいつも敗れざるをえません.現代医学よ,驕るなかれ.しかしだからといって現代医学を相対化することによって,民間医療や呪いと同等のものとすることはできないでしょう.「社会正義はいつも正しい」ならぬ「現代医療はだいたい有効」とでも言えるでしょうか.
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