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フィンランドの予習 - 本、映画、日本のサウナ

……旅までの前置き長いね? まあ、前回のはフィンランドにまるで関係ないので飛ばして読んでよしです。ちょっとした過去の吐露、エッセイですので。

さて、決まったサウナ旅。今回は、とりあえず夫からサウナ漫画を読まされたり、連れて行かれたりするなどの予習をさせられたレポです。

【漫画】 多分サウナーのバイブル  『サ道』

タナカカツキかあ……(文句が多い)としぶしぶ読んだら、これがとてもよかった。今年の夏、「孤独のグルメ」の二匹目のどじょうを全力でつかまえにいくようなドラマになっていたもの。
サウナ→水風呂→外気浴を繰り返すと、やがて「ととのう(※1)」? 合法ドラッグ? 幻覚? ほんと? という眉唾な論説が繰り広げられていて、サウナに興味あろうがなかろうが、嫌が応にも気にさせられるマンガ。なお、夫はこれを読んで「あれって『ととのう』ことだったんだ!」となったらしい。まじか。わからん。

【漫画】まんしゅうきつこもサウナー 『湯遊ワンダーランド』

まんしゅうさん、こんなの描いてたんですね。女性視点な分、私は彼女の漫画の方が身近だった。サウナへの偏見も少なく、何よりサウナマニアの暑苦しい(イメージの)立ち位置じゃないため、ごく初心者向けとも言える。暑く苦しくなってはじめて水風呂に入ることができた、という話も大変共感しやすい。『アル中ワンダーランド』より内容もすきかな。

【スパ施設サウナ】意識してからの初サウナ 『なごみの湯』

これらを踏まえた上で、荻窪駅前徒歩1分のところにあるお手軽なスパ施設、なごみの湯へ夫に連れていかれた。サウナ心ついてからは、多分はじめてのサウナ体験である。スパ施設自体滅多にこないので、案の定オロオロする。

女湯の前で「じゃ、あとで」と別れ、急に心細くなる。平日の夜なのに人が多い。

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昔はここ「湯〜とぴあ」って名前が全面に出てた記憶が

身体を洗い、いざ向かったサウナ室は、婚活だイケメンだといったバラエティ番組が流れる下世話な空気で淀み、12分計の刻む5分間は永遠のように思えた。

こもる蒸気のなか、ひたすら自分のことに集中しようとする。スハー。あ、口で息をすれば少しラクかも。スハー。ええと、さっき時計が3のところで、今4で、うわまだ1分か、今入ってきたのにもう出たい。スハー。でも、今出たらすぐ出ちゃう慣れないダサい人だと思われるし。すると突然、熱せられた石めがけ天井から水が発射された(※2)。ジュ、ジュバァァー。パチパチパチ……。音とともに蒸気が舞い、湿度がぐんぐん上がる。あ、うん、無理だ。出よう。出ます。

ああ、息ができる。サウナの外、最高。さて、あとは漫画で予習したとおり、ほてった身体を休ませるべく、水風呂へ行くんだったな。桶で冷水を足元にかけてみる。ぱちゃ。うん、心臓止まるね。人もたくさん見てる(←別に誰も見ちゃないのにそう感じる)ところで、「ヒーーー」って顔こわばらせて入るなんて、とてもじゃないけど無理。自意識に殺され、心停止で死ぬ。

結局、涼しいミストシャワーで冷却を済ませる。そこから露天風呂への導線が微妙に遠く、え、こっち裸で行って大丈夫? とまたしても不安になる。どうも風呂は自意識が高ぶりがちだ。

リクライニングチェアで外気浴をした。夜風が気持ちいい。うん、これはいいな。と思ったので、サウナ→外気浴を繰り返した。水風呂は何度チャレンジしても、足にかけるだけで心臓がバクつくため諦めた。外気浴だけで十分だ。うん。そう思っていたのに……。

「水風呂がないと意味ないよね」

ふと、サウナーたちの言葉がよぎる。ですよね。うん、やっぱり私には向いてないよ。皮膚も肉も薄いし……。酸っぱいブドウを抱えながら、女湯を後にした。

休憩室はかなりの大部屋で、テレビがひとつひとつご丁寧についているリクライニングチェアがズラリ並んでいた。棚には少年少女青年漫画がズラリ。「え? 仕切りのない漫画喫茶? ナニコレ文化が違う……こんなところでリラックスとか……」しょんぼり通り越して、なんかだんだんグロッキーになってきた。

一方、すっかりととのった夫は、なにやら笑顔がすごかった。よかったね、君はととのって。ややうなだれている私に、興奮気味の夫は言った。

「男湯にッ……原○泰造がいたッ……!」

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リアル『サ道』じゃん。プライベートでこんなところ来るくらい本当にサウナーなのか、泰造。で、泰造と『サ道』したの?

「いや、それが俺もうととのっちゃってたからさ、原田○造がサウナ入るところ見ずに出てきちゃったんだよね……」

そうですか。

【銭湯サウナ】 ご近所でリベンジ

それにしてももっと静かなサウナはないものか。サービス控えめでいいから、過剰な光とか音がないところ。独りで静かで豊かで……。

すると、家から少し歩いたところにある銭湯が、外気浴もあって結構いいよ、と夫が勧めるので、2人で散歩がてら行くことにした。

受付で、不慣れな私にいろいろ夫が教えてくれる。銭湯のサウナの鍵ってのは、ロッカーの鍵に半分の雲型定規みたいなのがくっついていて、それをノブのない扉にひっかけて開ける、かなりアナログなものだった。

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拾い物の画像だけど、こんなやつ。

前回同様、サウナからの外気浴、と水風呂を諦めてすっとばしつつ、3ターン目にサウナに入ると、1人のおばさんがいた。明らかに主(ヌシ)っぽい雰囲気。2人きりのサウナ室。頼む、こんな初心者に話しかけないでくれ。そう願うも虚しく、主はこちらを向いた。

「ねえ……アンタ、見ない顔だね。

ふつうに生活していたら、まず出てこない台詞だ。すごいな。ここは漫画かドラマの世界か。さすが、サウナである。

「あ、えっと、夫がサウナすきで、その魅力を知ってみろと連れてこられまして……けどまだちょっと水風呂には入れなくて……」

咄嗟に、自発的な意思を隠すような物言いをし、極端に初心者ぶってしまった。ましてフィンランド前の予行演習で来てます、なんてことは絶対言わないでおこう。なんか、面倒くさそうだし。

「フフッ、水風呂ね……私も最初はそうだったわ。

主の言い回しは完璧だった。

「ここにはよくいらっしゃるんですか?」

毎日よ。

「毎日」

「サウナはね、毎日入らないと落ち着かなくなるのよ、クセになるの。水風呂もそうよ。最初は冷たいけれど入るとね、だんだん暖かくなってくるのよ。不思議なものでね。サウナはね……私はね……」

「へぇ……」

主の語りを聞いているうちに、意識が朦朧としてきた。やばい。これは水を浴びないと倒れるのではないか。水。水をくれ。できればうんと冷たいやつを。

「あ、すみません私、出ますね……」

そして私は、はじめて水風呂に肩まで浸かることができたのである。およそ8分はサウナにいただろうか。自己記録更新だった。余計なおしゃべりで引き止めてくれた、主のおかげかもしれない。

水風呂って、そういうことだったのか

(まんしゅうきつこの漫画にあったやつは、これかぁ……)

全身の皮膚が、水のしゃぼんだまに包まれているような、ぽわ〜とふしぎな感覚になった。冷たい水の中なのに温もりを感じる。えーなにこれ、変な感じ。動くと弾ける気がするから動きたくないぞ。あっ、やめて。子供たち。水風呂ではしゃがないでッ。あっ、あっ。

その後、外に出て椅子に腰かけていると、鼻がすーっと通っていくのがわかった。脚は少しピリピリする。風が気持ちいい。なんか全ての嫌なことがどーでもよくなっていくような……ん? これがもしかして「ととのう」? なのか? な? よくわからないけれど、気持ちがいいことだけは確かだ。

爽快な気分で戻ると、主の周りには常連のおばさん、主ーズ(ヌシーズ)が集っていた。無視するのもよくないのかな……などと思い、

「あっ、えっと、さっき水風呂、はじめて肩まで入れました……」

と報告すると、主ーズは豪快に、

「アハハハッ! 」

「そうよねえ水風呂は入らないとねぇ!」

と笑いあった。どこまでも漫画っぽかった。

それにしても、主は私より前にサウナにいて、私より後に出てるんだよな。さすがだなあ、主。私もああなりた……くは別にないな。うん。まあ、ほどほどでいいよ。毎日とか無理すぎるし。

【映画】 『サウナのあるところ』も観た

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ちょうど吉祥寺アップリンクで上映していた。めちゃくちゃ気になるビジュアルだし、と夫と観に行った。

内容は、サウナの中でふつうのおっさんたちが淡々とおしゃべりしているのを映像化したドキュメンタリーというか、記録映画。ポスターから割とポップなものを想像していたので……えっと、眠いな?  と思って隣を見たら、夫はすでにスヤスヤと気持ちよさそうに寝ていた。私も目を閉じた。映画館に響きわたるロウリュの音がとても心地よかった。

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同時にやってた、かくたみほさんのサウナ写真展がよかったです

こんなだけど、フィンランド行きます

これが私のフィンランド前までに得たサウナ経験値。サウナどころか公衆浴場への苦手意識も持ちあわせていた、初心者中の初心者である。こんな、ようやくゴブリン倒せたようなやつを、いきなりゼロムスと戦わせて大丈夫なのか。

次回、ようやく旅立ち。私はサウナの旅に出る。

※1「ととのう」:サウナーの間では、高温のサウナと水風呂に交互に入って体験するなんとも言えない「悦に入る状態」を「ととのう」と言うらしくて、「恍惚」や「トランス」状態に例える人もいます。[新R25]
※2「ロウリュ」:熱したサウナストーンに水をかけて水蒸気を発生させることにより、体感温度を上げて発汗作用を促進する効果がある。 [Wikipedia]  ここで私が見たのは自動ロウリュ。フィンランドでは手動でかけるセルフロウリュが主流。なお、「なごみの湯」の男湯には、自動ロウリュはなかったとか。





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