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ターゲットはマシンガンで狙え

賃貸住宅にかかわらず、なにかの企画をする際には「ターゲット」という言葉をよく使いますよね。

あるいはマーケティング用語的には「ペルソナ」を設定する、という言い方をすることも多いかもしれません。


僕はマーケティングの専門家ではないのでうかつなことは言えませんが、ざっくりとした理解とすれば、ターゲットは性別や年齢、居住エリア、職業などで絞り込んだ想定顧客。

ペルソナは、より具体的な人物の趣味嗜好や日々の購買活動や休日の行動パターンにまで解像度を上げ、ターゲットをさらに絞り込んだ想定顧客です。

では賃貸住宅の企画をする際に、ターゲットやペルソナをどのように想定し、訴求していくべきなのでしょうか?


個別性の高い不動産

賃貸住宅は基本的に一部屋もしくはごく限られた部屋数しか存在せず、車や化粧品などのプロダクトと比べると個別性が高いものです。


プロダクトであれば、例えば化粧品メーカーが40代以上の女性に向けてアンチエイジング訴求の高機能スキンケア用品を作る場合をとっても、それなりの購買人口に向けての商品企画ということになるでしょう。

参考までに、2020年10月現在の日本の総人口のうち40〜65歳の女性の人口は約2,100万人だそうです。


たとえばそこでメーカーが、

「世田谷区に住む40歳、共働きの二児の母。仕事に加えてお弁当作りや子供の習い事の送り迎え、家事に追われる日々。年内数回、家族で行くキャンプが楽しみなアウトドア派。メイクは薄塗り派だけどスキンケアにはこだわりたい。加齢とともにほうれい線が気になり始めた。乾燥肌が気になるのでしっかり保湿ケアしたいけど、ケアにかける時間はないし、毎朝のメイクも時間との戦い。」

と設定したペルソナに向けて、「これ一本でシワも減らせる、美容液成分と紫外線防止効果のあるメイク乗りのいい化粧下地」みたいな商品を企画したとしても、実際にはその商品は世田谷区の40代女性のみならず、全国の何百万人もの女性がターゲットになることでしょう。


一方で賃貸住宅の場合はどうでしょう?

たとえば、駒沢大学駅 徒歩13分。駅からは少し距離はあるけど駒沢公園までは徒歩3分で行ける、閑静な住宅街で賃貸住宅を企画するとします。

ちなみに駒沢大学駅は、駒澤大学のキャンパスがある学生の街としての顔と高級住宅街としての顔を併せ持つ街で、ジョギングコースやサイクリングコース、ドッグランを備えた都内屈指の広さのある駒沢公園を擁する人気のある駅です。


この賃貸企画でペルソナを、

「渋谷駅が最寄りのIT企業に務める35歳独身男性。最新のガジェット情報に目がなくiPhoneは常に最新機種。趣味はロードバイクで、休日には自転車のカスタムや仲間とのツーリングが楽しみ。昼ご飯はコンビニで済ませるが、自炊派で料理は得意。気になるアイテムは徹底的に下調べしてから購入するタイプ。」

と設定するとします。


ここで、

・駅から徒歩だと若干遠い立地
・自転車移動の入居者ならその距離は気にならないかも
・駒沢公園=サイクリングコースがある
・それなら自転車いじりを楽しめる広めの土間付き賃貸だ!
・こだわりのロードバイクは高額だから、室内に置けたら喜ばれるはず

という発想で、

・玄関入ってすぐにロードバイクをフックで吊るせる広めの土間を確保
・カスタム用の工具を見せて収納できる有孔ボードの壁
・愛車を眺めながら暮らせるワンルームの間取り
・しっかり料理ができる広さのキッチン
・バスタブには浸からないのでシャワーブースのみ


みたいな、あるペルソナに刺さると思われる物件を作ったとします。部屋の面積は40㎡としましょうか。


一見、ペルソナマーケティング的にはアリなんじゃない?と思われるかもしれませんが、賃貸住宅の企画の場合、必ずしもそうとは言えません。


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ターゲットを絞りすぎない

ペルソナを絞り込んだとしてもなお、ターゲットが何百万人いるようなプロダクトと比べると不動産はどうしても立地に縛られるため、勤務地が大阪の方がこの物件に住む可能性はないですし、たとえ空間に惚れ込んだとしても、通勤に2時間かかる物件にあえて引っ越すという方は稀でしょう。

つまりこのケースの場合、駒沢大学駅からせいぜい1時間圏内くらいで通勤できる方が、まずは想定される入居者となります。


自転車通勤のペルソナの話をしたばかりなので、すっかり自転車通勤を前提で考えてしまうかもしれませんが、冷静に考えると、駅徒歩13分ってまだまだ徒歩圏内です。

駒沢大学駅から渋谷駅まで電車に乗ってしまえば10分もかからないので、あえて自転車にフォーカスする程の距離でもないかもしれません。

また、駒沢公園まで徒歩3分は魅力的ですが、誰しも日常的に公園に足を運ぶとは限りません。公園にはまったく興味がない方が住む可能性もあるでしょう。


一方、自転車のメンテナンスができる広さのある土間をやめて普通に居室にしていれば、間仕切られた寝室のある1LDKにできたかもしれません。

今の時代であれば、その一部屋によってカップルがお互いのZOOM会議の音が被らず在宅ワークできる、なんてニーズにも対応できたかもしれません。

また女性だと特に、広々としたキッチンは魅力的でもバスタブがない部屋にはどうしても住めない、なんてケースもあり得るでしょう。


つまり、ペルソナを絞ってもなお購買人口の多いプロダクトと違って、不動産であまり絞りすぎてしまうと、ある層をバッサリ切りすぎてしまい想定外にターゲットを狭めてしまうことがある、という点に要注意です。


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ターゲットはマシンガンで狙え

では逆に、ターゲットを幅広くするために、大体の人からニーズがありそうな、ごく平均的な物件をつくった方が安全パイなのでしょうか?

答えはもちろんNOです。誰にも嫌われないことを目指した無個性な物件には、ここに住みたい!と思わせる動機を持たせるだけの競争力がありません。


じゃあ一体どうすればいいのでしょうか?

結論を述べる前に最初にお断りしておきますが、設定したペルソナのハートを射抜いて「この物件しかない!」と惚れ込ませるような強さを持つ物件も実際には存在し、その方向性を目指すのも正解のひとつです。

ただ、センスやニュアンス、マーケットに対する高度な理解や、デザインのスキルがないと難しい選択肢であり、失敗すると取り返しがつかないリスクもあるため、あえてここでは再現性の観点からその選択肢を除外してお伝えします。

僕の提案は、

「ある1人のペルソナをライフル銃で射抜こうとするのではなく、ペルソナを最低10人並べたターゲットをマシンガンで狙え」

です。


すみません、、、文字にするとなんだか物騒ですが、夜店の射的ゲームで標的に向けておもちゃのマシンガンを構えている、かわいらしい自分を想像してください。


万人受けを狙っているつもりが、実は具体的な住人を誰も想像できていない雑なターゲットから一歩解像度を上げるために、さっきの自転車男子と同様に、他のペルソナも何パターンか想像してみましょう。


ファッション好きで洋服や靴の量が多い人ならば男女を問わず、収納力が豊富だと喜ばれるかもしれません。

Netflix三昧の人ならばインターネット代が無料だと嬉しいかもしれません。

帰りの遅い彼氏と朝早い彼女のカップルならば、お互いの生活音が気にならない区画された寝室が必須かもしれません。

自宅で仕事をする人には、デスクを置けるスペースがあって、複合機を置くためのモジュラージャックも必要かもしれません。

植物が好きな人は、バルコニーに水栓があることに感動してくれることでしょう。


こんな風に”40代単身男性”程度のざっくりしたターゲットから少し解像度を上げたターゲット像を複数想像してみると、彼らのニーズがそれぞれに異なることに気付くかと思います。

もちろん、ニーズを全て満たすプランは実際には難しいことも多く、最後はエイッ!と取捨選択するしかありませんが、ぼやけすぎず絞りすぎず、ピントの合った複数のターゲットをマシンガンで狙うイメージで企画をすることで、幅広い方の心にちゃんと刺さり、決まりやすい物件ができるかと思います。


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