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大家には、共感力が必要だ。

突然ですが、大家業を営むうえで獲得しておいた方がいいスキルってなんだと思いますか?

宅建業や建築、税務や融資など、様々な知識があればあるほど投資の失敗を回避できるのは間違いないと思いますし、知識をつけるために不動産投資関連の本やセミナー、あるいは積極的に情報発信をされている先輩大家さんと人脈を作って学ばれている方は多いかと思います。


そうした知識や人脈も間違いなく必要なのですが、意外と見落とされがちで重要なスキルに「共感力」、すなわち様々な住まい手の気持ちや考え方に共感して、彼・彼女たちがどんな物件を好むのか?を把握する能力があります。

では、この共感力はどのように身につけることができるのか?について今回は書いていきたいと思います。


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成約に至らない内見にこそ、得られるものがある。

26歳でシカゴのマイクロデベロッパーに憧れ、大家を目指すことになった僕は、なんで学生時代に建築について興味を持ち、建築学科を目指さなかったのか?とこの時になって後悔をするわけですが、ないものねだりをしても仕方がありません。

周回遅れのスタートから、いつか大家になった時に役に立つ経験をどのようにして積むか?を考えた際に、僕は、不動産屋になることには成約に至らない内見をたくさん経験できるメリットがあると考えました。


たとえば建築家が、自分の設計した物件に住んでくれている方々から、なぜ気に入ってくれたのか?や、実際に住んでみてどうか?といった意見をヒアリングしようと思うとどんなことが起きるでしょうか?

ほぼ間違いなく、デザイン性への称賛や、住み心地に満足しているという好意的なコメントばかり集まってくると思います。

その理由は、そのヒアリング相手はそもそもその物件を気に入ったから住んでいて、嫌になっていないから退去していない方であるためです。

これもポジティブ側の共感の形なので、とても重要な意見ではありますが、気に入って住んでくれている方がヒアリングの母数になるため、偏った意見だけが集まってしまいます。


一方で不動産屋には、お客さんが現地で悩まれている様子を直接見ることができたり、「ここはいいけど、ここは微妙」といった忌憚のないリアルな意見を聞けるチャンスがあります。

年代や性別、職業や家族構成によって、エリアや間取り、設備スペックや周辺環境に対するニーズが様々であることを学べたり、自分の感覚にはなかった、新たなこだわりポイントを発見できたり。

仲介業、と聞くとどうしても、内見をして仲介が成立したケースのことをイメージしてしまいますが、実際には仲介が成立する内見よりも、ちょっと今回は見送ります、という形で成約に至らない内見の方がおそらく何倍も多いんです。


売上を立てることが正義になりがちな営業職という立場からすると、成約に至った内見の記憶は脳内に高解像度で保存するものの、成約しなかった内見の記憶をとても粗い解像度で保存してしまったり、あるいは記憶から消し去ってしまうことすら多いのではないかと思います。

でも実は、この時に「この物件が選ばれなかった理由」をできるだけ解像度高く脳内に保存しておくことで、選ばなかった方側の意見にも共感できるようにしておくことこそが、選ばれる物件とそうでない物件の違いを後から言語化しようとする際に、非常に重要になってきます。


共感力とは、言い換えれば相手の考え方に憑依する能力です。


僕が建築家の能力に一生憧れと尊敬を持ち続けるのは間違いないですが、「不動産屋は物件を気に入っていただけた方とそうでない方の膨大な意見を聞くことができる」と考えると、不動産屋での日々は、すべてが大家業への学びになることがわかります。


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共感力の鍛え方

では、不動産屋でない大家さんは、どのように共感力を鍛えればよいのでしょうか?

それは、普段の暮らしの中で気持ちのいい空間や雰囲気のいいカフェ、あるいはいい眺めに出会ったときに、自分の心が動いた理由について考えてみることだと思います。


たとえば、このカフェが心地よい理由は、内装がおしゃれだからなのか?隣のテーブルとの感覚なのか?あるいは椅子の座り心地や光の入り方、店内の明るさや店員さんのコミュニケーションなのか?

仮に内装がおしゃれだと感じた場合、具体的にどこがよかったのか?をもう少し深堀りしてみます。

味の出た床材の雰囲気、いい感じのドア、窓枠の素材や細さ、照明の配置や光量、あるいはトイレに行った際にはミラーや洗面台、水栓やゴミ箱などひとつひとつに一瞬でも目を止めて、なにが雰囲気の良さを作っているのか?を分析するイメージです。


僕は普段あまり写真を撮らないのですが、いいなと思った景色はその瞬間に脳内でスクショして、そのイメージにひとこと分析を加えたメモを添えて、脳内の適切なフォルダに高解像度で保存しているようなイメージを持っています(ちゃんと覚えておきたい景色は実際に写真を撮ります)。


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こうしたクセをつけておくと、たとえば窓にウッドブラインドが取り付けられた物件の内見をした際に、ちょっと暗いと感じた場合、すぐに理由を分析するモードに入ることができます。

そこで「ウッドブラインドはフルオープンした状態でも厚みがあるため、常に窓の一定面積を塞いでしまうようだ」というメモとともに脳内保存しておけば、自分で物件づくりをする際に、「日当り良好ではない部屋では、ウッドブラインドはやめておこう」というアウトプットに繋げられたりします。


実は、口には出さなくても物件を見に来た方の脳内では、「なんだか暗く感じる」とか「フローリングと建具がチグハグだ」などという細かな要素の印象が積み重なっていて、その結果、「この物件は見送ります」という回答に繋がっているのです。

つまり、いい印象を持ってもらえる物件をつくるためには、これらの細かな要素一つ一つに対する借り手の反応に共感力を示し、先回りしてネガティブな要素をあらかじめ消しておいた方がよいということになります。


大家さんには意欲が高い方が多く、セミナーで講師の方の発言のメモを熱心に取られる光景をよく見かけますが、セミナーで得た知識は個別の案件に対応できる知識というよりは汎用性の高い知識であることが多いので、いざ個別の物件に応用しようとすると難しい、ということがよく起きます。

普段から目にするものや自分の心の動きにアンテナを張って、「ひと手間考えて、高解像度で脳内に保存する」ことをクセにしておくと、いざというときに使えるテクニックの引き出しが増えることは間違いありません。


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