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マイナンバーを出さないフリーランスは悪党か:確定申告で勘違いしていたこと

毎年、確定申告を提出する度に役所で訊かれる「マイナンバーは?」をずっと知りませんで通してきたが、思わぬところに伏兵がいた。確定申告の勘違いと思いがけない懲罰的な措置について書いてみる。

慣例は不文律ではない、という落とし穴

いよいよというか案の定というか、そろそろ家賃にも事欠きそうだし、特別定額給付金の書類も届かない。個人事業主なら最大100万円という持続化給付金を申請するためにも、滞っていた2019年分の確定申告を進めようと思ったら、大口の取引先から支払調書が手元にない。さらに確認すると、昨年は30数社と取引があったのだが、支払調書が届いていない会社が相当数あった。

驚いたのは、取引先に問い合わせたところ、経理からの返事が「マイナンバーを提出してもらっていないので、支払調書は出しません」だったこと。「出せません」ではない。「出しません」なのだ。

実際、事業者には発注先(われわれフリーランス)に対して支払調書を発行する義務はない。支払調書を提出する先は、税務署なのだ。

ただし、発注先にマイナンバーの提供を要請して、支払調書に記載する義務がある。「支払調書が届いていないみたいなんですが……」と取引先に問い合わせたら、先方がそう教えてくれた。(ちなみに取引額が5万円以下であれば、税務署に提出する義務もない)

言われてみれば、われわれ取引先に支払調書を発行するのは事業者の義務でない、ということは知っていたような気もする。だが確定申告は年に一回で(情けない話だが、自分は昔、〆切を守れず3年分まとめてやったこともある)、毎回かなりの記憶がリセットされるし、規定も少しずつ変わっていくので、いちいち調べないといけないことが多いのだ。

ただし、フリーランスのライターになって約四半世紀、基本的に取引先から支払調書をいただいて、その数字を元に確定申告をしてきた。「義務ではないから出しません」というのは初めてのことで、正直当惑した。もちろん先方には先方の理由があるので後述する。

結論を言うと、取引先がわれわれフリーランスに支払調書を送ってくれているのは、慣例でしかない。温情と言ってもいいかも知れない。そんなルールは知っているという人や、経理に詳しい人にこの記事は無意味かも知れません。ただフリーランスのライターが抱える諸問題にも関わると思うので、まだ記憶が新しいうちに、おそらく自分みたいな多くのフリーランスが陥っているであろう勘違いや落とし穴を備忘録としてまとめてみる。

フリーランスはなぜ支払調書が欲しいのか?

※確定申告しているフリーランスの人は読み飛ばしていい項目です

確定申告には青色と白色があり、いずれもその年の収入と所得を報告して、さまざまな控除を申請し、その数字を元にして所得税や住民税、国民健康保険の額が決定される。

青色の方が控除額が大きいが、事前に事業主であることを申告しないといけない。。帳簿なしだと控除額が少なくなるだけである。青色申告だと月ごとの入出金を記録した帳簿が必要だと思われているが、その限りではない。帳簿なしだと控除額が少なくなるだけである。

で、各取引先から送られてくる支払調書には、その年に自分に支払われた金額と、そこから源泉徴収されて引かれた金額が書かれている。源泉徴収された分は、自分の預かり知らないところで税金として取引先から税務署に前払いされている。ただし、それだと税金を払い過ぎるケースが多いので、ちゃんと必要経費を反映させた「課税所得」を自分で計算して届け出る。そうすると、取り過ぎた分の税金が還付金として戻ってくる仕組みだ。

フリーランスにとっての確定申告とは、大抵はこの払い過ぎている税金を還付金として取り戻す作業だと思う。還付金をある種のボーナスのように思っていた時代もあったが、正直、諸税金や国民健康保険、国民年金など、庶民の負担は増える一方であり、還付金はまたたくまに支払いで消えていくのがもう長らくの自分個人の印象だ。(この件は話題が逸れるので、今はこれ以上は触れない)

で、毎月ちゃんと帳簿を付けている人はともかく、支払調書がないと確定申告で途方にくれるフリーランスは多いと思う。これも昔ながらの悪しき慣例で、ひとつひとつの仕事の報酬がいくらなのか知らないまま仕事を引き受けるケースは、中年以上のフリーランスには日常茶飯事だろう。昔と違って発注書と請求書のやりとりが必須になっているはずだが、それでも仕事で得た報酬の明細を常に把握しておくのはかなり手間がかかるし、明細を出してくれない取引先もある。

しかし、クライアントの経理処理に間違いがないという前提に立てば、支払調書さえあれば確定申告にはこと足りるのだ。クライアントにしても、支払調書は税務署に提出するために必ず作らないといけないのだし、フリーランスとしては、そこに記載されている数字をぜひとも教えていただきたい。

確定申告に支払調書は不要

これも大きな勘違いだった。もう長らく、確定申告する際には、支払調書は必須なのだと思いこんでいたのだ。先に書いたように、毎年毎年送っていただいていたこともあるし、確定申告の書類には「支払調書を貼り付けてください」というシートが付いていたからだ。

ところが2019年分から、支払調書の提出は不要になったと聞いた。国税庁のページを検索するのはめんどいので変更されたというお知らせは探さないが、実際、2019年の確定申告の書類に「支払調書を貼り付けてください」というシートはなくなっていた。(そういえば医療費控除のために医療費の領収書を添付するというルールも、去年だか一昨年だかになくなった)

ずっと支払調書を添付するのは、こちらの申告に不正はありませんよと証明するためだと思っていた。しかし税務署は、事前に取引先から支払調書は提出されている。なんならこっちが確定申告を怠っていると、手元に集まった支払調書から(勝手に経費ゼロだと仮定して)課税所得額を算出し、仮の税額や国民健康保険料の金額を決めて請求書を送ってくる。税務署にしてみれば、同じ内容の支払調書を2つ持っていてもムダでしかないだろう。

では、取引先が一種のサービスとしてやっていた、われわれフリーランスへの支払調書の送付をしなければどうすればいいのか? 解決法は面倒だがシンプル極まりない。自分で把握しておけ、である。

どうやら確定申告は性善説をもとにしているのか、われわれ申告側が申告する通りに受け取ってくれるらしい。もちろん不審な点がみつかれば調べられるし、その際に申告額を証明する資料は保管しておかねばならないが。

源泉徴収の計算方法はひとつじゃなかった!

確定申告のために必須なものとして、その年の収入と、源泉徴収で事前に収めた税金の総額がある。何度も言っているように、支払調書さえもらえれば、そこにハッキリと書いてあるので何の苦労もない。

しかし多少面倒だとはいえ、毎月の請求額と、口座に振り込まれた金額の差額がわかれば、源泉徴収の額もわかるのではないか?

取引先から支払調書をもらえなかった自分は、慣れない数字と格闘してみた。合わない、数字が合わない。算数すらおぼつかない経理のド素人には、複雑怪奇な要素が多すぎる……。

(ここからは間違っていたらご指摘いただきたい)まず、1万円の原稿料を請求するとする。消費税を足す場合と足さない場合がある。消費税を足すと請求額は11000円(税込)だし、足さなければ10000円だ。基本的に消費税は乗せていいと思うのだが、一応取引先に「消費税を乗せていいですか?」と聞いてみる。ダメです、と言われることもあってつい引き下がってしまうのだが、その理由はよくわからない。

税込で10000円と言われることもある。基本的に年収1000万円以下の個人事業主は消費税を国に納めなくてもいいはずなので、「どうせあなたは1000万円も稼いでいないのだからそれでいいでしょう?」ということだろうか。

まあ、確かに年収1000万には程遠いが、突然大口の仕事がわんさか舞い込んで1000万円を超えないとは言い切れない。だから報酬を請求する際には、フリーランスは常に別に消費税を請求すべきだと思っている。

ともかく、消費税を足したとして、11000円請求するとしよう。ここに罠がある。本来、源泉徴収は報酬額に対して行われる。つまり10000円から1021円源泉徴収税額が引かれ、手取りは8979円になる。そこに消費税1000円を乗せて、9979円が振り込まれるはずである。

しかし、国税庁によると消費税込みの価格から源泉徴収税額を計算してもいい、ということになっているらしい。そうすると徴収額は1123円。11000円から引かれると9877円。さっきの計算より100円安い。つまり計算の方法が違えば、10000円の仕事につき、われわれフリーランスは約100円損するということになる。これって大変な落とし穴ではないですか!?

小さいようだが、10000円の仕事で100円損するのは厳しい。もしこちらから計算方法を決められるのであれば、絶対に前者の計算にしてもらうべきだ。そもそも前者の方が正確な数字であり、後ろ暗いことは何もない。年収1000万を超えた暁には、ちゃんと溜まった消費税も納付いたしますよ。さすがに年収1000万あったら税理士さんにお願いしたいところだけど。

逆算して、源泉徴収の総額を割り出せ!

ここまではなんとか理解したので、自分が支払調書をくれない某社との仕事で、どれだけ源泉徴収されているのかを割り出すことにした。

請求金額にこの2つの計算を当てはめて逆算すれば、どちらかの数字が銀行口座の通帳に記載されている振込金額と一致するはずだ。そうすれば某社の経理がどっちの計算法を採用しているのかがわかる。いや、一致しない。どの月の振込額も一致しない。なんでだよ!

いや、わかった、わかったぞ! 某社はわれわれに振り込む際に、振込手数料を一律440円引いていたのだ(振込額は3万円以下ならおそらく220円)。2019年は消費税額が10月から上がったので、9月までは一律432円。つまり報酬額から源泉徴収が引かれた上で、さらに振込手数料を引いた金額が振り込まれていたのだ。

振込手数料をフリーランスに負担させる取引先は決して多くない。2019年の30数社の中では、この会社だけである。しかもこの会社は源泉徴収額を税込の金額で計算しているので、一万円につきこちらの手取り金額は100円少なくいことになる。その月の取引額が3万円だと300円、さらに振込手数料で440円。先方の都合で770円が消えていく……。弱小フリーランスにはつらい。

振込手数料をフリーランスに負担させることが、正当なのかはこれから調べる。ただ、こういう要求に対してフリーランス側が交渉できる余地はほぼない。あと、個人であればネットバンキングを使って手数料ゼロにできたりすると思うのだが、企業だとどうなのか。まあ、これもおいおい調べる。

あとちゃんと記憶してないだけで、振込料の負担は実は書面で認めたことになっているのかも知れない。いずれにせよフリーランスの立場から大会社に対して「振込手数料は負担したくありませんし、源泉徴収は税別の状態で計算してください」と主張できる人は少ないだろう。「当社の規定ですから」と言われて契約してもらえなければ、仕事そのものを失ってしまうのだ。

納得いかないことがいくつも出てきたが、とにかく源泉徴収された総額を逆算することはできた。支払調書をもらえなかったので正確さには自信がないが、数字的には辻褄が合っている。確定申告が自己申告である以上、この数字でやらせていただきます!

なぜ某社は支払調書をくれないのか?

さて、そもそもの問題に戻りたい。なぜ某社は、義務ではないにせよ、これまで発行してくれていた支払調書を自分に出してくれないのか、である。

某社の経理の説明はこうだった。「自分たちは、支払調書にマイナンバーを記載して税務署に提出する義務がある、マイナンバーの提出を求める義務もある、そちらのせいでこちらは義務違反を強いられているのだから、あなたには支払調書は出しません

要するに、マイナンバーを教えてくださいと再三お願いしてきたにも関わらず協力しなかった。だったらこちらも温情で支払調書を出したりはしない。どうぞご自身で計算して、確定申告をしてください、ということだ。

確か事業者には支払先のマイナンバーを提出する義務がある。一方で、フリーランスにはマイナンバーを提出せずとも罰則がない。自分はマイナンバー制度に対しては強い不信感を持っており、可能な限り関わり合いにならずにいたいと思っている。実際番号も知らない。食いっぱぐれるわけにも行かないので、法的にマイナンバーなしではあらゆる取引ができなくなったら、その時には再考せざるを得ないですが。

取引先の経理の方々には、お手間と面倒をかけて本当に申し訳ないと思っている。ただ、個人情報をどう取り扱うかは当人の自由の範囲内だと考えていて、少なくとも現行の法律で罰せられる犯罪ではない。

国税庁もこういったトラブルについてはガイドラインを公表している。マイナンバーの普及率や理解が不足している現状を鑑みて、事業者はマイナンバーが空欄のまま税務署に支払調書を提出しても構わない、と公式ページで言っているのだ。

もちろん某社の経理も、そんなことは重々わかっているのだが、義務である以上催促もしないといけないし、毎年マイナンバー提出用の書類を送って手間も費用もムダにされているという。怒っている。おこなのだ。

もちろんお気持ちはわかります。ご面倒おかけして本当に恐縮です。社の方針として「どうせ義務じゃないからお前に支払調書はやらん」と言われれば、そりゃ絶対にくださいとは申せません。

でも、どうしても納得しづらい、いや、哀しい気持ちにならざるを得ない。マイナンバーという制度のせいで、長年お世話になってきた取引先との間に(直接の編集担当の方々とではないにせよ)分断が生まれてしまっている。そして先方の理屈ではほぼ懲罰的な理由であり、これまでとは違う扱いをさせてもらいますと宣言されてしまったことだ。果たしてこれは懲罰も当然の、社会的に許容されないことなのか?

またこれは決して個人レベルの問題ではないと思っている。フリーランスという立場が、ギャラ交渉にせよ、先程の源泉徴収の計算法や振込手数料の件にせよ、強い態度に出るのが難しい立場であることは間違いないからだ。だからこそ、個人の権利としてマイナンバー提出を拒否することに対してペナルティを課すというやり方には違和感を覚える。

重ねて言うと、支払調書の件について某社を非難したいわけではないのです。人情で「感じ悪いな」と思ってはしまうが、経理の人にすればこっちが感じの悪い取引相手だろうし、そもそも発行義務がないことに文句を言ってもしょうがない。ただ、マイナンバーに関してはこういうリスクがあることは知っておいて損はないし、もっと広範なフリーランス全体の待遇問題としても考えたいところではある。

最後に要点を整理

ずいぶん長くなってしまいました。今回の要点だけ整理して締めます。

取引先から支払調書をもらえるとは限らないし、なくても確定申告はできる。実際、負担減のために支払調書を発行しない事業者は増えている。

支払調書がもらえないなら、源泉徴収税額を自分で計算しないといけない。もちろん面倒でも帳簿を作って常に自分で把握しておくことが最善。

源泉徴収の計算方法には二種類あって、フリーランスは10000円につき100円ほど損をしている可能性がある

・報酬を受けとる際の振込手数料の負担については、もやもやするので引き続き調べます。

マイナンバーは、現状では提出しなくても手続き上の問題はない。ただし事業者や税務署から提出するように催促はされる

フリーランスであれば、死活問題にも繋がるので、できる限り取引先とはモメたくないし、大抵のことは呑んでしまうと思います。自分も曖昧なまま放置してきたことが多く、今回、たまたま支払調書がもらえない事態に陥ったことで、初めて向き合って学んだことが多かったです。

もし似た状況のお仲間の参考になれば幸いです。間違っている点などあれば、ご指摘いただけるのも大変ありがたいです。


※6月26日追記:先日、消費税込みで請求書を出していたある取引先に、消費税と源泉を分けて別々に記載した請求書を提出してみました。担当編集の方からは「いつもどおりにして欲しい」と一度戻されましたが、「経理上、源泉額をちゃんと把握したい」と伝えたところ、経理に確認後、「源泉と消費税は別」という計算法でも処理していただけることになりました。個別のケースとして報告いたします。











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