月の光
服を貸すのが好きなのは、自分の一部が誰かと共有されるからなのかもしれない。
目の前にいるのが自分なのか、見慣れた服を着た他人なのか。そんな、自分と他者の境界線を曖昧にしてしまう時間が僕は好きだ。
朝の五時。日の出を迎え、酔い覚ましのコーヒーをすすりながら一編の詩を書いてみる。
・ ・ ・ ・ ・
はしごを登れば、そこが世界の頂点だ。
ここが宇宙の中心であることを、僕たちは知っている。
ただ、音もなく叫ぶ。生きているのだと。ここにいるのだと。
空は再び、その碧さを取り戻していく。回り続ける地球のビルの上で、踊る。
盃を交わそう。夜を更かすことに意味なんて無い。朝日は無駄たるものの象徴なのだ。
震えながら息を吐く季節が、終わろうとしている。小刻みに揺れる体が、生きていることを証明しようとする。
人はゆえに、肩を寄せ合うのだろうか。火を囲むのだろうか。
僕は夢を見ているのか?
いや、現実はきちんと太陽を連れてくる。 日々はどこまでも続き、やがて終わる。
時おり夜を過ごすのは、そんな日常に飲み込まれて自分を忘れてしまうのが嫌だからだ。
見失いそうになる何か美しいものを、闇の温かさが思い出させてくれるからだ。
月はどこにも見えない。
けれども、それは優しげな光でこの場所を照らしている。
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