人生というのは夜の9時半に浴室の髪の毛を掃除機で回収する行為の蓄積にすぎないと私は思う。
白。頭の中は白。
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帰り道に高校のとき以来会っていないあいつの姿を見かけた。
みんなどこかへ向かっていく。交わることもなく。永遠にすれ違いながら。
街路樹の根っこに置き去られたチェスの駒。誰かがゲームを楽しんでいる。
小さなあの子のビスケットは、道の真ん中で粉々に砕け散ってしまった。潰れて平ぺったくなったアルミ缶がそばに転がっている。
怒りだ。もどかしい。私の心の中で声が弾ける。ここから出してくれと叫ぶ。
それは哀しみに変わる。底の無い暗闇の中で誰かが泣いている。
目の前には現実がある。今日も夜の9時半ごろになれば、私は浴室で掃除機をかける。落ちた髪の毛を吸収させながら、終わっていく一日に思いを馳せる。
そして思う。明日も明後日も私は同じように掃除機をかけるだろうと。人生というのはある意味でその行為の連続にほかならないのだと。
地球は回り続ける。早送りも逆再生も、一時停止もなく。
朝目覚めてしばらくすると、世界は昼になっている。そのまま夕方を迎え、徐々に夜を取り戻していく。
私はベッドに入り、そこにある温もりを確かめる。それから朝が来て、私はこんな言葉をつぶやく。
「朝だ」
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黒。頭の中は黒。
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