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映画「スターフィッシュ」レビュー「肉欲に迷う段階から最終解脱への過程を描いた宗教・哲学映画と僕は受け取りました。」

主人公オーブリー(ヴァージニア・ガードナー)は親友グレースと死別した
ショックから立ち直れず, グレースの自宅に侵入し,
悲しみに暮れる日々を送っていた。

何故親友は死ななければならなかったのか,
自分は彼女の為にもっともっとしてやれる事があったのではないか…。
親友のいない世界など,いっそ消え去ってしまえばいいのに!
願いが通じたのか世界から人の姿が消え, 彼女ひとりが取り残され,
代わりに異形の魑魅魍魎共が跳梁跋扈を始める。
彼女は近所のスーパーで食糧を集め,籠城する事に決める。
だが山の様にあった食糧も底を尽き追い詰められる彼女。

そんな時,トランシーバーが作動し聞き慣れぬ男の声が
彼女に向かって次の様に呼びかけ始める。

「オーブリー,世界の各地に隠された7つのカセットテープを集めるんだ。
カセットには異形が嫌う信号(シグナル)が部分的に録音されている。
全て集めて信号を完成させるんだ」と。

彼女は謎の「天の声」の導きに従って信号を完成させるべく外に出る。
それは彼女の内面を,自我境界線を揺るがす心の旅の始まりだった…。

初見。
オーブリーがカセットテープを集める度に座禅を組む…のは
西洋人には難しいから胡坐をかいて瞑想しながら録音内容を聴き,
彼女の魂が世界各地に自由自在に飛び回り,自我境界線が変質を始め,
日本の手塚プロダクション協力のもと,
一時的に彼女がアニメキャラにクラスチェンジする描写がある。
日本のアニメーションの大ファンだと言うA.T.ホワイト監督が
絶対この場面を入れたかったとメイキングで語る。

極東のアニメファンの僕は,この場面で思わず膝を叩いて叫んだ。

「全てのアニメファンの夢である『アニメの世界に入る』のに,
その手があったかァァァー!」と。

まあ僕の与太話はさておき,本作は,それだけに留まらず,
オーブリーが瞑想中に自慰行為に及んだり,グレース(死者)と対話したり,
主演のヴァージニア・ガードナーが本作(映画「スターフィッシュ」)で,
オーブリー役を演じてる場面に迷い込む
「第4の壁」を突破する描写も登場する。

そう考えると「7つのカセットテープ」とは,
人体に7つあるとされるチャクラに対応した瞑想の深度を,
肉欲に迷う段階から死を受け入れ精神的存在に至る7段階で表現していて,
本作は自我を超越する過程を,「解脱の過程」を描いているのだと分かる。
魑魅魍魎の正体は勿論瞑想を妨げる雑念が具現化されたもの。

瞑想の最終段階では自我境界線はおろか世界全体の輪郭が揺らぎ始め,
何もかもがドロドロに溶けて融解し
宇宙意識(巨大な黒い泡で表現される)と一体化する直前まで描かれるのだ。

監督の初期の構想では
オーブリーは世界に絶望して自死を選ぶ展開もあった様だ。
しかしですね監督,最終解脱して宇宙意識と一体化するって際に,
もう用が無くなって脱ぎ捨てた
古き肉体の心配をする人なんて居るんですかい?
僕は現行のオチが最適解だと思う。

本作を観た僕の感想は,意識をグルングルンに振り回されて
酷い酷い船酔いをした気分。
見慣れた世界が急に輪郭を喪失して
得体の知れないドロドロした塊に変容して見えたとき,
サルトルが「嘔吐」で,そう感じた様に,
旧エヴァ映画で自我の境界線が喪失した
人類補完計画の行末を見届けたアスカが,そう感じた様に,
僕もまた「気持ち悪い」と感じ,吐き気を催したのである。


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