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マイケル・ラドフォード監督の映画「イル・ポスティーノ」レビュー「ブチャラティの愛した映画」

南米チリの詩人パブロ・ネルーダがイタリアのカプリ島に政治亡命してた
史実を題材にイタリアの架空の島で漁師で寡黙な父の跡を継ぐ事を嫌い,
島で唯一字が読める事から郵便配達員(イル・ポスティーノ)になった
若者マリオ(マッシモ・トロイージ)が,
この島に亡命した詩人のネルーダ(フィリップ・ノワレ)に
郵便物を届けに行く口実が出来たのをいい事に彼に師事して詩作を学ぶ話。

僕だってねえ!
たまには「キレイな映画」くらい観ますう~

この映画はね。
鈴木健也先生の「おしえてギャル子ちゃん」って漫画で…
主人公のギャル子がスキな映画なんです。

僕は
スキな漫画の
スキな登場人物の
スキな映画が
スキになりました。

そんなの当たり前でしょ?

マリオが詩を学びたい理由は
島一番の器量良しベアトリーチェ
(ダンテの「神曲」の地獄の案内人の名前ですね!
何故僕の人生と「神曲」は切り離せない!)
に自作の詩を贈り気を引きたいという物。

最初の授業は「隠喩(いんゆ)って何ですか?」

ネルーダが「空が泣いている」とマリオに語りかけ
マリオが「雨が降っている」とネルーダに答える。

何だか…映画「ベスト・キッド」の
パット・モリタの教えを彷彿とさせるね。

実際のネルーダは1953年に「スターリン平和賞」を
1971年には「ノーベル文学賞」をそれぞれ受賞している。

取り分け「スターリン平和賞」は共産主義・社会主義への貢献が
特に認められた人物にソビエト連邦から贈られるもので
彼は決して不偏不党ではなく…
「チリの左派」としてのネルーダを
「チリの右派」連中が目の敵にしており…そうした経緯もあって
彼は1950年代にチリからの亡命を余儀なくされたのである。

荒木飛呂彦先生の漫画「ジョジョの奇妙な冒険」第5部に登場する
ブローノ・ブチャラティは父親が漁師だったが
「抜き差しならぬ状況」が発生し父の跡を継げずギャングになった。

そのブチャラティが…
「オレのスキな映画」として本作を挙げているのだ…。

漁師の父親の跡を継がず郵便配達員となったマリオの人生に
自分の人生を重ねたのだろうか…。

彼が「ポルポの隠し財産」を
カプリ島に隠したのも本作の影響かも知れない…。

本作に於いてネルーダは
マリオとベアトリーチェの仲を取り持ち…
マリオに恋愛指南をし…
ふたりの結婚式の仲人までつとめている…

マリオは「ネルーダの直弟子」との自負から
社会主義運動に傾倒し…
集会に参加する様になる…。

本作の主演を務めたマッシモ・トロイージは
本作が完成して間もなく病で命を落としている。

本作に於けるマリオもまた短命で生涯を閉じている…
久しぶりに島を訪れたネルーダを
今やマリオの嫁となっているベアトリーチェが
彼の子と共に迎え…訃報を伝えるのだ。

島の景観・果物・料理が色とりどりでとても綺麗で観光に訪れたくなるね。
本ブルーレイには吹替が搭載されていてネルーダを久米明氏が演じてる。
僕はアニメファンでもあるのでマリオの父親を演じた槐柳二氏に
マシュウを感じ,もっと声が聴きたかったが…
先に述べた通りマリオの父親は「寡黙」という設定故に生憎だった。

詩人のパブロ・ネルーダに関しては…
長い長い後日談を書くコトをお許し願いたい。

1973年9月11日,米国との合同演習を行う予定だった
南米チリの艦隊が突如バルパライソに帰港した。

それはサルバドール・アジェンデ大統領を倒し,
現行政権「人民連合」を転覆させるクーデターの合図だった。

チリ全土の陸海空軍と国家警察が一斉に行動を開始し,
大統領官邸にも,その報は入った…。
東西冷戦期の1970年代,チリでは選挙によって成立した世界初の
社会主義政権が成立しサルバドール・アジェンデが大統領に就任した。

「反帝国主義」「平和革命」を掲げて世界的な注目を集め,
民衆の支持を集めていたが,その改革政策は国内の保守層,多国籍企業,
そして米国政府との間に激しい軋轢を生み,チリの社会,経済は混乱に陥る。

1973年9月11日陸軍のアウグスト・ピノチェト将軍らが
米国CIAの支援を受け,軍事クーデターを起こす。
アジェンデは自殺(諸説あり)。

以後,チリはピノチェトを中心とした軍事独裁政権下に置かれた。

アジェンデ政権が駐仏大使として指名した
パブロ・ネルーダはノーベル文学賞を受賞した詩人であり
ネルーダがガンに侵され駐仏大使の職を辞してからも
「詩人が社会主義政権を支えた」
という「美しい記憶」はフランス人の記憶に長く残った。

ネルーダは自宅療養中に反動政権軍が彼の自宅に押し入り
蔵書を破り捨て家財を徹底的に破壊した事が
彼の病状が悪化した事と無関係とは誰にも言えないだろう。

彼は危篤状態に陥って病院に搬送される途中で検問を受け
彼の体が救急車から引き摺り出される狼藉を受け
彼が病院に着いたときには既に息を引き取っていた。

チリの人々は
ネルーダは病気で一度死に
クーデターによって魂が殺された
ネルーダは二度死んだのだ
と嘆き悲しんだと言う。

「美しい記憶」をファシストによってブチ壊しにされた
心あるフランス人の怒りたるや凄まじく
1975年に1973年のチリのクーデターを描いた
「サンチャゴに雨が降る」を製作して世に問うた。

多くの俳優たちはこの映画の志に感動して
ノーギャラでの出演を快諾したと言う。

ファシストと戦って来たフランスでなくては決して出来ない行為だ。

「サンチャゴに雨が降る」はネルーダの葬式で幕を閉じる。

同じ連中が私を殺しに来る
そう同じ連中が
我々を焼きに来る
彼等は池をひとつ残した
そこから父・母・子供を捜そう
その池の中から
お前の骨と血を捜せ
多くの骨の中から捜せ
焼かれてしまった今誰の物でもない
皆の物だ
我々の骨だ
お前の死を捜せ
同じ連中がお前を待ち伏せ
あの同じ死へお前を差し向けるのだから

ネルーダの詩を詠んだフランス人特派員のカルベは
「ファシストに詩人などいないッ」
と吐き捨てて映画は閉じる。

そして…この「サンチャゴに雨が降る」が
日本のアニメ創作者に霊感を与え…
「劇場版マクロス 愛・おぼえていますか」を生んだのである…。

「知識」は単品でも勿論役に立ちますが…
「他の知識」と有機的に結び付くと
「思想」となってより貴方の助けとなるでしょう…。

本作もまた不偏不党ではなく…ネルーダへの…社会主義思想への…
シンパシーに溢れており…かと言って「思想がうるさい」映画ではなく
ノンポリの方にもお楽しみいただけるかと思う。

僕はねえ…「イル・ポスティーノ」と出会ったことは偶然なんかではなく…
「神曲」「赤毛のアン」「サンチャゴに雨が降る」「劇場版マクロス」
「ジョジョの奇妙な冒険」「ギャル子」を履修し…
映画「追想」でフィリップ・ノワレを知っていた必然的結果として
この映画に導かれたと思ってるよ…。

「知識」には…
ネットワークの様に網羅し…結び付くって性質があるのですよ…。

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