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映画「美少女戦士セーラームーンR THE MOVIE」レビュー「作られた感動」。

TVアニメシリーズ第1期の「美少女戦士セーラームーン」のクライマックスの放送前に月野うさぎ役の三石琴乃さんが緊急入院され,声の出演は荒木香恵さんが代役を務められました。
荒木さんが大熱演された事が疑い様もありませんし,ラスト2話はVHSビデオの録画データが擦り切れる程,繰り返し観て,その都度泣けましたが不完全燃焼感は残りました。
僕は三石さんのうさぎによるラスト2話が観たかったのです。

後に復帰された三石さんはカセットテープによるセーラームーンのドラマにメインキャスト一同と共に出演され,ラスト2話の1部を再現されたのですが,地場衛役を演じられた古谷徹さんの「(ドラマの中で)琴乃は本当に泣いてました」って言葉が忘れられません。キャスト一同にとってもアニメスタッフ一同にとっても月野うさぎ役は三石琴乃さんなのです。

TVアニメシリーズ第1期の「美少女戦士セーラームーン」が大人気で,続編の「美少女戦士セーラームーン R」が製作されたのですが,武内直子先生の原作漫画にアニメが追いついてしまった為,話のストックが無く,止む無くアニメシリーズオリジナルの「魔界樹」編が放送されました。
エイル役の緑川光さん,アン役の冬馬由美さんの熱演もまた疑い様がありませんが,取って付けた様な視聴感覚は捨て難く,消化不良感が残りました。

本作の製作過程を監督を務められた幾原邦彦氏は「セーラームーン」の劇場版ブルーレイBOXのブックレットの中で次の様に語る。

(プロデューサーの東伊里弥氏が脚本の富田祐弘氏の第一稿に対し「主人公であるうさぎの比重をもっと高めて欲しい」と注文した事を受けて)
「東さんの意見を受けて最初に漠然と思ったのは『あ,これは<エイルとアン(魔界樹)編>のリニューアルになるんだろうな』と。
その瞬間,僕なりに物語の芯が掴めた様な気がしました。
フィオレ役にエイル役の緑川光さん,キセニアン役にアン役の冬馬由美さんをキャスティングしたのも,実はそういう経緯からなんです。

今や本作の製作意図は明確になった。
1.三石うさぎによる1期ラストを上回る映像を構築する事。
2.不完全燃焼に終わった「魔界樹」編をリニューアルする事。
コレである。
1期ラストでうさぎ役を大熱演された荒木香恵さんは未来のうさぎの娘・ちびうさ役をTVシリーズに引き続き継投。
荒木さんを決して軽んじる事は無いのだ。

期待値最大で池袋の映画館に観に行ったのだが…周囲は小さな女の子連れの若い保護者の方々ばかり。
キモオタの僕は肩身が狭かった。
この小さな女の子達が「セーラームーン」人気を支えてるんだなあ。
併映は永松潔氏の同名原作漫画のアニメ映画化「ツヨシしっかりしなさい」。
ツヨシが過去に戻って個人的な歴史を修正する,まあ要するに「バック・トゥ・ザ・フューチャー」である。
映画体験って「映画館であった事」全てを覚えてるのが痛し痒しですね。
続いてアニメ版「セーラームーン」の総集編的な15分位の「メイクアップ!セーラー戦士」の上映。
いよいよお目当ての「美少女戦士セーラームーン R THE MOVIE」の上映となって,最初は笑い声が聞こえたのだが,クライマックスに差し掛かると,映画館のあちこちから小さな女の子,引率の若い保護者の方々のすすり泣く声が聞こえ,まるでお通夜会場の様相を呈し始める。
僕もなあ…キセイニアンに寄生されたフィオレに変身を解除され,リボンに包まれた全裸の月野うさぎがグルグル回転しながらセレニティ形態に変化して銀水晶の力で隕石の軌道を変えようとする場面で信じられん程的確な同期で劇場版主題歌「MOON REVENGE」が流れ始めるとスクリーンが涙で歪み,正視する事が出来なくなった。

僕は映画は1度観れば沢山だと思ってるけど「美少女戦士セーラームーンR THE MOVIE」は何度も何度も観に行って,VHSビデオを買い,DVDを買い,ブルーレイを買った数少ない作品となりました。

作品冒頭,衛がフィオレに渡す薔薇はつぼみだったのが,その衛にうさぎが薔薇を渡した時は花が咲いている描写は「セーラームーン」ファンの間でも取沙汰されました。
セレニティが銀水晶の力でフィオレの記憶を改竄した際の「記憶の改竄ミス」という同人作家の門井亜矢氏の意見に僕は同意します。
セレニティは未来の地球に千年王国を打ち立てる魔女なんです。
「記憶の改竄」位平気でやる女だと僕は思ってます。
と言う事は,水野亜美,火野レイ,木野まこと,愛野美奈子の記憶も自分に都合がいい様に改竄して「ずっと昔からのいい友達」と設定したと考えるべきでしょう。
4人やフィオレがうさぎの存在に「救われた」と感じてるのは「作られた感動」かも知れないんです。
僕や小さな女の子達は「作られた感動」に泣かされているんですよ。
セレニティは「ここまでやる女」なんですよ。
セレニティの設定に因ると「セーラームーンは皆のママ」だとちびうさは語る。
例え「作られた感動」に泣かされたとしても僕の本作への好意は微塵も揺るがない。
三石さんの無念を晴らし,緑川さんと冬馬さんの無念を晴らしてくれた作品をどうして憎むことが出来ようか。
本作はアニメ史上に残る「大輪の花」を咲かせた傑作である事もまた疑い様の無い事実なのです。

三石さんは「今でも」月野うさぎ役を演じておられて「銀水晶の呪いかな」と思う事もあるのだけれど三石さんにエヴァの葛城ミサト役って「もうひとつの代表作」が生まれた事を本当に嬉しく思うのですよ。

僕は「古い人間」なので地場衛(古谷徹さん)とキセニアン(冬馬由美さん)が共演してるのを見ると「ガンダム」どころか「巨人の星」を連想するのですよ。


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