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映画「リズと青い鳥」レビュー「ワタシのノゾミは希美(ノゾミ)と一緒に過ごすコトなんだッ…!」

ユーフォ映画第1作のレビューはコチラです。

ユーフォ映画第2作のレビューはコチラです。

「リズと青い鳥」はユーフォ映画の第3作目に当たり,
黄前久美子が北宇治高校吹奏楽部2年に進級し,吉川優子新部長のもと
今年こそ
吹奏楽コンクールの全国大会で金賞を取るべく練習に励む話…ではない。

本作品の主役は
3年生の傘木希美(フルート担当)と鎧塚みぞれ(オーボエ担当)のふたりで
久美子が主役ではない。
久美子は「3年生から見た下級生のひとり」に過ぎず
「主人公補正がかかってない」。
主人公補正って魔法がかかってない久美子は何処までも
「普通」であって全く目立たず,久美子のモノローグも一切ないのだ。

吹奏楽コンクールは課題曲と自由曲を演奏して
参加各校との優劣を競うものだが
滝教諭が選んだ自由曲が「リズと青い鳥」なのだ。

「リズと青い鳥」は童話を原作とした曲で
ひとりぼっちの少女リズが青い鳥の負傷を治療して空に放ったところ
青い鳥が正体を隠して人間の少女の姿になって現れ,
ひとりぼっちで可哀想なリズと同居生活を始める内容で
童話の常として「めでたしめでたし」で終わらず,
ふたりの共同生活が破綻して終わる。
リズは鳥籠から青い鳥を解き放った様に
ドアを開けて少女に広い世界に羽ばたく様に促すのだ。

楽曲「リズと青い鳥」はオーボエとフルートを
「ふたりの少女」に見立てた楽章があり
オーボエとフルートの掛け合いが命。

なれど傘木希美と鎧塚みぞれの呼吸が合わず演奏は難航する。

中学時代のみぞれの内面は「虚無」であって
予定は常に空白で友達も無くただ何となく生きていた。
ただ呼吸するだけの人生。
そこに突然希美が現れ「虚無」だったみぞれの心に
初めて「他者」が出現し「虚無」に光が差し天地が創造され
世界に色が付いたのだ。

希美はみぞれの「全て」であって「希美の望みが私の望み」なのだ。

みぞれが北宇治高校吹奏楽部1年だったとき,
やる気のない上級生とやる気のある下級生との間で激しい対立があり
部員が大量に辞める出来事があった。
その「やる気のある下級生」のひとりが希美であり
希美の退部によって再びみぞれの心は「虚無」となる。

当時ののぞみの演奏を聞いた滝教諭の縁故の指導員・橋本は
彼女の演奏を次の様に評価する

「ぶっちゃけつまらん!」
「まるでロボットが演奏してるみたいなんだよ」
「確かに演奏技術は高いけど」
「もっと感情込められない?」

「感情」は希美によって与えられたもので
希美のいない今のみぞれを「ロボットみたい」と評する
橋本の残酷な迄に的確な観察眼が憎い。

その希美が部活に復帰し,再びみぞれに「心」が宿る。
みぞれには好きな人を手放すリズの気持ちが到底理解出来ない。

「私だったら一生青い鳥を籠に閉じ込めておく…!」

希美とみぞれの演奏を聞いていた高坂麗奈はみぞれにこう言う。

「みぞれ先輩…本気を出してませんよねえ?」
「手加減してますよねえ?」
「それは何故ですか?」
「私だったら…全力を出します…!」
「私はみぞれ先輩の…「本気」が見たいんですッ!」

「「本気」を出してしまったら…。
…希美との関係がぶち壊しになるからに決まってる…!」

血を吐く様なみぞれの真情が心中を駆け巡る。

滝教諭が招聘したもうひとりの指導教官・新山は
みぞれに次の様に助言する。

「鎧塚さんは…自分の事をリズだと思ってる様だけど…」
「自分の事を「青い鳥」と思ってみたらどうかしら…?」

ここで僕も考えました。

ディズニーアニメ「アラジン」で最も尊ばれるのは「自由」であって
無限の究極の宇宙のパワーを持っている
ランプの精ジーニーにも「悩み」があり
家(魔法のランプ)が狭く窮屈であり
「自由」になって「外の世界」に飛び出したいと願っている。

しかし「リズと青い鳥」の「青い鳥」の望みは
「自由」になる事だったのでしょうか…?
「外の世界」に飛び出す事だったのでしょうか…?

本作品のクライマックスでみぞれは「無限の究極の宇宙のパワー」を
解放して全力で「リズと青い鳥」の楽章を希美と演奏し
希美は到底付いて行けず演奏を中断し落涙します。

高坂は「圧倒されました…!」とみぞれに感想を述べるが
高坂にとって「全力を出して演奏する事」は「当たり前」であっても
みぞれにとっては「そうではないのだ」。
みぞれは「無限の究極の宇宙のパワー」で
鳥籠をブチ壊しにしてしまった事に,
希美が創造してくれた「世界」をブチ壊しにしてしまった事に,
自分の犯した罪の大きさに恐れ戦くのだ。

希美「みぞれは今まで手加減してくれてたんだね…」
みぞれ「違う…!」
希美「私ったら勘違いしてみぞれと対等だと思い込んで…」
みぞれ「違う!…違う!!」
希美「新山先生が音大の推薦の話を持って来たのはみぞれだけだった」
希美「私なんて最初から新山先生の眼中に入ってなかったんだ」
みぞれ「私の話を聴いて!」

みぞれの真情が迸る!

脚本では,この箇所に

「『希美の望む言葉』は遂にみぞれからは得られなかった」

と書き込みがあったと音声解説(キャストコメンタリー)で語られている。

僕には「青い鳥」の気持ちが分かる様な気がする。
高校生の頃,朝のNHKの放送開始から停波まで
六畳一間の部屋で勉強するのが僕の青春で
「僕の望み」はこの鳥籠から出て「外の世界」に出る事だった。

「外の世界」に出て思ったのは「僕の本当の望み」は
「外の世界」に出る事じゃなく
未来永劫この鳥籠の中で勉強を続ける事だった。

今僕は子供の頃から勉強して来た六畳一間に戻って勉強を続けている。
僕は「勉強する事」が好きだと分かったからね。

みぞれは「無限の究極の宇宙のパワー」で鳥籠をブチ壊しても
「外の世界」に飛び立とうと,羽ばたこうとせず,鳥籠の中に留まる。
「自由になる事」は彼女にとっての最善の選択ではなかったのだ。

鳥籠を壊した青い鳥はリズの側で暮らすことを選択してこの物語は閉じる。
だって青い鳥はリズの事が好きなんだから。

「広い世界」の事なんか知らなくたっていい。
「自由」なんか無くたっていい。
ワタシはアナタに束縛されて生きたいの。


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