もしもあなたが子どもをぶちたくなったら

ねえ
もしもあなたが子どもをぶちたくなったら
わたしが代わりにぶたれてあげるから
ちょっとこちらに来なさい
もしもあなたが子どもをたいそう 叱りたくなったら
わたしがたいそう 叱られてあげるから
こちらに来なさい
こどもが言うことを聞かなかったとしても
それが生き物の野性であるから
許しておあげなさい
階段から突き落としたり
首を締めないでください
馬鹿と罵って悲しい思いをさせないでください
あなただってむかしは、そう

もしもあなたがどうしても
子どもをぶちたくなったら
臍帯を噛みなさい
遠い昔に乾涸びた
肉が壊れる感触は同じだから

ほんの瞬きする間に子どもは大きくなりますし
ほんの瞬きする間にあなたはたいそうくたびれます
老いぼれたあなたの弛んだ首を
大きくなった子どもに
締めさせないでください
老いぼれたあなたを部屋に閉じ込めて
はやくしねよ と宣うような因業を
負わせないでください

あなたとわたしのしょうしんしょうめいの仕事は
空に浮かぶ雲の中に
笑っているふうなもようをさがして
こどもにおしえてあげることです

あなたとわたしのしょうしんしょうめいの仕事は
焼かれて雲になったときに
笑って ここにいるよと
おしえてあげることです

海の色と血の色の違いが分からず
泣いている子どもを
平手でぶつのはおやめなさい

村崎懐炉「もしもあなたが子どもをぶちたくなったら」

(後序)
暗い詩ですみません。
連日流れる虐待ニュースがきつい。
私も未分化な人間なものですから、子どもの駄々に辟易すること多々多々あります。
虐待は地獄の所業。しかし誰しも心の内にそのような地獄を潜ませております。

最近読んだ小咄をひとつ。
江戸時代の高僧に白隠禅師という方がいらっしゃる。
ある時、居丈高な武士が白隠禅師におっしゃいました。
「あなたは地獄極楽などと仰るが、一体そのようなものは何処にあるのか」
白隠禅師はこれに応えず「あなたは武士のくせに地獄極楽などと口にして、本当は死ぬのが怖いのでしょう。武士の本分も忘れた、へっぽこ侍め!へっぽこ侍は尻を捲くって帰って寝るが宜しかろう!尻!尻!」などと罵倒致します。
これに腹を立てた侍は「その侮辱、許せぬ!」と刀を抜きます。
その時、禅師は武士を指差し「ほれ地獄は其処にある!」と仰いました。
武士ははっとして両手をついて白隠禅師に謝りました。
白隠禅師はまた仰いました。
「そして極楽は此処にある」

人は心に地獄極楽を有するという話。
(うろ覚えなので細かなディテールは異なる気がします。)

心に地獄はありますが極楽もまたあります。
世人様の心の均衡が保たれますように。
自戒を込めて。

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