マガジンのカバー画像

村崎懐炉短編小説集

39
短編小説をまとめました。僕は不思議な話や甘い恋の話が好きなんです。
運営しているクリエイター

2021年7月の記事一覧

短編小説「終焉」

短編小説「終焉」

貂川鉄郎はその時、極めて重大な事実に気が付いた。

いつの頃からか知れないが、貂川鉄郎は暫く模糊とした季節の中に、眠っていたような気がする。いや違う。決して眠っていたわけではない。だが夢遊病者のように不覚であった。
数々の心象が陰影となって目の前を流れた。そんなものを何十年、なのか何秒なのか知れないが胡乱に眺めていた気がする。

だが鉄道の、鉄輪が路鉄を擦る轟音によって、貂川鉄郎は長い微睡みから覚

もっとみる

短編小説「駄菓子蟲を飼う」

古田美津子は更衣室でブラウスを脱いだ。
脱いで、露になった柔肌をつい隠した。
隣に古田美津子より十歳年若の後輩社員が明日より始まる三連休に、ムチムチと浮かれていた。
古田美津子の扁平な体を、後輩、野木真理が嗤ったような気がした。
「先輩の胸は扁平ですね。」と野木真理が言ったような気がした。
「でも、腰回りは重厚感がありますね。」と野木真理が言ったような気がした。
「肌には年齢の深みを感じます、そう

もっとみる