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帰り際

君の体を洗っていると
泡だらけの俺の手をギュッと掴んで
「一人にしないで。」と
この世の終わりの様な悲しい顔して
吐き出した心の塊 

45度のシャワーで流す
患部の痛みなんかより
遥かに辛そうな絞り出す声で
「好き。」
真っ白な湯気を切り裂いて
耳に届く 

手当てをして
パジャマを着せて
寝かし着けるベッドの上
降り注がれる
ありがとうの合間に挟まれる
小声の「帰らないで。」が
何本も突き刺さる 

ごめんね。
今度はいつ来てくれる。
またね、きっとだよ。
待ってるからね。
連絡するから、
返事をちょうだいね。
気を付けてね。 

愛してるんだから
忘れないでね。 

叫びの様な悲痛な願いを
背中に浴び掛ながら
閉めたドアの向こうには
どれだけの何が
俺を追っていたんだろう。


鍵を掛け封じ込めた玄関ドア
幾つもの鉛の付いた足枷を
一つ一つ外さなければ
歩き出せない重りを引き摺り
家路に着いた。

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