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遠野遥の「浮遊」について


 遠野遥の「浮遊」を読んだ。今年の1月に刊行されたからかなり新しい作品だ。前回読んだ「教育」が面白かったから、期待していたがあまり面白くなかった。
 本作の主人公は女子中学生のふうかである。碧ちゃんという父親と同じくらいの年齢の男性と住んでいる。両親はどうしているのかというと、父親とは連絡を取っており、気が向いたら食事などを作りに家に帰っている。母親は父親と住んではおらず、恐らく離婚していると思われる。ふうかは母親と交流がある様子もなく、現在母親がどうしているのかは作中で言及されてはいない。
 ふうかは学校には通っているものの、親しい友人はいない。暇があれば浮遊と呼ばれるゲームで遊んでいる。浮遊は記憶を失くした幽霊の女の子が主人公のゲームで、悪霊と呼ばれる敵から逃げ続けるのである。悪霊は最初は一見親切だが、少しやり取りしているとすぐに本性を表して襲いかかってくる。これは作者の皮肉だと個人的に思った。ゲーム内では黒田という幽霊が味方になってくれ、主人公がピンチのときに助けてくれる。しかし、ゲームの終盤では悪霊化してしまう。
 この浮遊というゲームの内容は、ふうかの運命を示唆していると私は考えている。ゲームの主人公である幽霊の女の子はふうか自身で、黒田が碧くんに私は重なると感じた。碧くんはふうかに性的なことを要求するどころか家事などもさせずに、無償でふうかの生活の面倒を見ている。小説の終盤で碧くんと前の恋人との間でトラブルが起きて弁護士に相談するまで事が大きくなる。小説はそこで終わっているが、トラブルが泥沼化したストレスによって碧くんが悪霊化してしまうのは大いに考えられる。唯一の味方を失ったふうかはゲームの女の子のように孤独を感じながら世界をさまようのではないか。
 小説のタイトルである浮遊は作中で登場するゲームの題名が浮遊だからというわけではない。登場人物の価値観が世間一般的な常識からずれている=浮いているという意味の浮遊であり、また社会から孤立した状態のふうかを幽霊のような存在であるという意味の浮遊であるとも私は思う。

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