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アクタボン演劇公演バー演目関連140字小説集

アクタボンワールド─Openエデン福岡─

12/23、クリスマス前夜にイベントバーで開かれた演劇公演イベント【神の不在証明】。

本番前からTwitterで公開していた、各演目の登場キャラクターそれぞれの物語を投稿文字数ぴったりの140字表現した演目関連小説を、この記事に纏めました。

ご観劇くださった方も、今回は見逃したという方も、是非それぞれのキャラクターに想いを馳せ、アクタボンワールドに踏み入ってみてください。

演目①『氷点下』

"人の命は、氷みたいなもの?"

「神様はきっと、わたしのことが嫌いなんだ」

死後もなお、教室に囚われ続ける女子高生の幽霊。そんな彼女の前に現れたのは、自らを『霊能探偵』と名乗る少年。見るからに頭の良くなさそうな、学校のテストでも零点を取ってしまうような彼にはしかし、「幽霊と対話ができる」という才能があった。彼はその力を使い、女子高生幽霊の【後悔】が、いつ、どこの、だれにあったのかを彼女と共に探ることに。果たして彼女は、未練を解消して成仏することができるのか──?

水射 氷柱(みずい つらら)
 四年前に自殺した女子高生の幽霊。出題好き。

『氷点下』

人の命なんて、氷みたいなもの。地球の形をしたグラスには、歴史とか戦争とか、授業とかいじめとか、恋愛とか喧嘩とか、流動的な物語が注がれていて。この世は神様が暇潰しに作った、カクテルみたいなもので。わたしたちはその液体の嵩を増して、冷たい音を奏でるだけの存在。溶けちゃえば、みえない。

舞台ACT:のだまりな

犬神 根古(いぬがみ ねこ)
 氷柱の担任だった数学教師。性根は熱い。

『相対評価』

学校は、生徒を測る場だ。学力、体力、人間力。それはテストの点数や、百メートル走の記録や、友達の多さで測られる。赤ペンで、ストップウォッチで、噂話で、人間力──人の間を生きる能力──に数字が点けられる。では、問おう。『命の尊さはどんな値で測られる?』白紙提出は零点なので居残りです。

舞台ACT:大神ヨシロウ




水射 凍理(みずい こおり)
 氷柱の兄で水色のカラーギャング棟梁。色々イタイ。

『氷菓子』

「血は水よりも濃い」という。その通りだと思う。水は無味無臭、呑めど舐めれどなんの刺激も受けやしない。それに比べて血は、舌にザラザラと鉄の味を這わせてくる。鉄──金を失う、悲しい味。冷やして固めた紅い氷も、咥内の熱がその過程すら解いてしまう。溶ければ消える、真っ赤な命。いと可笑し。

舞台ACT:吉嶺ケンヂ




大飯 屋台(おおめし やたい)
 心配性な中華料理屋店長。うるさい。

〈ドジ美ちゃん〉
  失敗ばかりのドジバイト。

『融解の優しさ』

「わぁっ、ごめんなさい!」またやっちゃった。バランスを崩してしまい、トレイに載せていた三つのグラスから中身が零れる。周囲からはヒソヒソと笑い声、後ろからは聞き慣れた店長の怒号。曖昧な笑みを浮かべて、氷を拾う。冷たい。「大丈夫ですか?」ふたつの指に触れた氷は、少し、溶け出していた。

舞台ACT:山本英頼

〈〉は劇中は名前だけ登場、140字小説では主人公視点。

演目②『役不足』

"演出家は、神様ですか?"

「俺がいなくても、世界は回るさ」

次回公演を間近に控えた演劇サークル。しかしその稽古には、登場するべき大事な役が一つ欠けていた。劇中で黒幕として立ち回るはずの部長が交通事故に遭い、まさしく幽霊部員となってしまっていたのだ。後輩達にも認識されないままサークルの部室に居座る彼の前に現れる、幽霊の事件専門の霊能探偵。推理が不得手な探偵が解き明かす、幽霊部長の遺した未練とは──!?

風上 遠影(かぜかみ とかげ)
 交通事故に遭った幽霊部長。実はお茶目。

『役不足』

役者の本分は、風になることだ。風、すなわち自然──世界観──の一部として、そこに在り、そこを流れ、そことして在り続けることだ。楽屋も、部室も、舞台の上でさえ、居場所じゃない。この身はただ『カミサマ』が描く物語の世界の中に。仕打ちを認めた想い出は遠く、衣を剥いだ影は深くこびり付く。

舞台ACT:大神ヨシロウ



姫仕打 八追(ひめしうち やおい)
 演劇サークル員。自信不足な二回生。

『臆病な投影』

壁を走る爬虫類と目が合う。手を伸ばして掴もうとしたら、彼は尻尾だけを地面に残して草木の蔭に消えていってしまった。本体を追おうとするかのように跳ね回るそれを、そっと拾い上げる。トカゲは、ズルイ生き物だ。僕や、カレと同じく。掌の上を舞台に踊る置き去りにされたこの尻尾は、かつての僕だ。

舞台ACT:山本英頼



織織部 認(おりしきべ みとめ)
 演劇サークル員。自尊心過足な二回生。

『黒幕の幻影』

必死で何かを演じるのは恥ずかしいことだ。創作や表現なんて、自分を自分として生きられない奴らの、逃げ場でしかない。滑り台を転がり落ちた先に突っ込む砂場みたいに、気が付けば足を踏み込んでしまっているのが、黒幕の奥で踊っている世界。憧れた光は、想像以上に細く拙くて──でも、綺麗なんだ。

舞台ACT:吉嶺ケンヂ

安楽詩 衣(あんらくし ころも)
 演劇サークル員。自意識充足な一回生。

『意識の反映』

あの人はなにを考えているんだろう。この人はどう思っているんだろう。わたしを決定付けるのは、いつも周りの思い込みでした。役職、役割。たった一票入れられた得票で、たった二つから注がれた視線で、神様が与えてくれた設定を勝手に改変して作られていたのが、わたしでした。その方が楽だったから。

舞台ACT:のだまりな

演目③『不細工』


"神様は、不器用らしいね"

「だからこの世は、こんなに不細工なんだ」

クリスマスイブの夜に、一人、約束の男の子を待ち続ける少女の姿。自主映画を制作中の二人組も、彼の姿は見ていないという。佇む背中に落ちるのは、粘着質で軟派な声。握り締めた手に感じる体液が語る、真実の欠片。待ち合わせ時間を過ぎてようやく出逢えた二人に、幸せな夜は訪れるのか──。


三途川 一途(さんずがわ かずと)
 真面目で誠実な大学生。アノ子にイチズ。

『髪の隙間から覗く世界』

目が合った瞬間、僕は死んだのかと思った。それくらい君の姿は神々しかった。楽しげに踊る心臓と光を吸い込みすぎて乾いた眼球が訴えてくる痛みに、ようやく僕はまだ生きているのだとわかった。そして同時に、粋な神様に感謝した。ただ流れていく日常の隙間に、こんな素敵なサプライズをくれるなんて。

舞台ACT:山本英頼



愛放朽 齧(めはなくち かじり) 
 軟派で面食いな大学生。自分のセカイを持つ。

『噛み切れない世界』

狼はみんな飢えている。「ねえ見て、この写真。私超盛れてない?」仔羊が擦り寄ってくる。雌の匂いが、鼻腔を通って身体の中に染み入る感覚。「実物の方が可愛いよ」口先で放つ言葉で頬は染まる。男の虚言は、どんな化粧よりも女を綺麗に形作る。覗き込んだ瞳の奥に映る世界の登場人物は、一人でいい。

舞台ACT:大神ヨシロウ



泥被 笠音(どろかぶり かさね)
 変幻自在の【無限面相】。泥を被って音を重ねる変装師。

『不細工』

柔らかな指がページを捲れば、手書きの文字列が踊り出す。インクが染み込んだ記憶を脳に書き移しながら、鏡の奥で想い出を眺める少女に、想いを馳せる。日記は人生だ。ただし、書き手の無意識な願望的虚偽で、たっぷりと脚色された人生。そして、それによると"わたし"はどうやら、恋をしているらしい。

舞台ACT:のだまりな



神隠 千尋(かみかくし ちひろ)
 自主制作映画を撮る大学生。ジ○リ好き。

『神に隠された世界』

雲に浮かぶ城を囲むように、純白の龍と真紅の飛行機が旋回する。箒に跨う少女は人語を扱う猫の口車に乗せられている。風を受け流しながら坂を駆け下り、海のような森へと続くトンネルをぼんやりと潜る。狸に化かされたのか、蟻の精に噛まれたのか、想い出がぽろぽろと零れる。僕の名前は、なんだっけ。

舞台ACT:吉嶺ケンヂ

以上、三演目・12キャラ。

Twitter上に流していたこれらは【神の不在証明】に登場したキャラクターの文脈を140字に収めた小説になります。

もちろん舞台上では、演じ手となるアクターが、それぞれの解釈と表現でキャラクターに更に深い色をつけて立ち回ってくれました。それが間近で観れるのが、演劇──それも小劇場演劇──の醍醐味。

それをバーという場所で、ドリンクとフードを囲みながら、しかも演目の合間に演者とコミュニケーションを取りながら体験できるのが、演劇公演バーの面白くて楽しいところですね。

次は1月30日、エデン福岡でアクタボン演劇公演バーをやります。是非、足を運んでみてください!

さあ、A.W、展開──!

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