七つの前屈ep.未知標奇跡「プロット通りの三者面談~歩め、道。~」
6.
「ですから、本校にそのようなことに手を染める生徒は……」
「この年頃の子供は、手よりもまず足を穢す。その場に踏み込んだら最後、考えるよりも先に闇に蝕まれていくものだ」
「はあ……なにがいいたいんですか」
「捜査をさせろ。探せば必ず埃が出る」
「できません。教育委員会に怒られますよ」
──わわ、あの人刑事さんかな? 初めて本物見たよ!
未知標親子を教室に残したまま廊下で来訪者に対応する寝待伏教師と、その相手──まるで世界を見下しているかのような目をした男──のやり取りを聞きながら、奇跡は胸を高鳴らせていた。
「それがお前の正義か?」
「正義なんてしりませんよ。仕事です、仕事」
──やっぱりラッキーだなあ、奇跡ちゃんって。こんな漫画みたいな場面に出くわすなんて!
刑事が事件の捜査の為に、自分の通う学校に訪れる。
その状況の裏に潜むただならぬ事態の深刻性など一切考慮することもなく、奇跡はこの珍しい場面展開を、ただただ眺める。
「とにかく、帰ってください。この学校に、悪人はいませんよ」
「善悪の話をしにきたんじゃない、そこに明確な違いなどない……俺の基準は、ただひとつ」
──でもこの人、刑事さんにしては、なんだか危ない雰囲気だなあ。
「法律だけだ。平等しかない真理のなかで唯一基準に成り得るものがあるとすれば、人間が敷いた法だけだ」
──まあ、いっか。どうせ、奇跡ちゃんには関係ないし!
選択はすべて天に委ね、歩む道を女神さまに任せる女子高生は、大人のお仕事に興味を示さない。
『そういうものなんだろうなあ』くらいにしか、思わない。
彼女の人生──未知導奇跡の物語──それは、舞台と呼ぶにはあまりにも。
薄くて、軽かった。
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