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七つの前屈ep.伝導寺真実「瓢箪の中で回る駒~捲れ、舌。~」

5.

 硝子張響は、父親の顔を忘れたい。

 人生は流動だ。一度流れてしまった水は、決して元の形に戻らない。

 時間は過去には流れない。後戻りはできない。後悔なんて、していられない。

 進むしかない。忘れたい思い出も、忘れかけた弱さも飲み込んだまま、ただ前へ。

「さっき、あそこのベンチに座っていた彼──利手川来人くん。しかし彼ほど、恋や愛に狂わされる人間もいないよね」

利手川来人。ききてがわらいと。【色欲】に胸を打つ副族長。好きになっちゃってごめんなさい。

「彼もまた、ひとりの少女を愛して──恋してしまったばっかりに、大切なものを、失ってしまうことになる」

 人生は選択の連続だ。右に進むべきか、左に進むべきか。はたまた、上に昇るべきか。

 後ろには下れなくとも。

 世界は、幾通りにも枝葉が伸びて、広がっている。

「変えられないんだよ。僕が、言葉にしてしまった以上ね」

 ただその枝葉も、一本の太い幹に収束してしまう。

 どれだけ荘厳で、どれだけ巨大でも。

 結局、樹は樹でしかない。一本は一本だ。

「どれほどの強さをもってしても。なんでも壊せる暴力を、いくら振り翳したところで」

 域還市の勢力図が、信号のような色に塗れることも。

 ”彼”の姉が、『痛み』を感じるようなことも。

 あの四人が、同じ食卓を囲んで、笑いあうような未来も。

 そのどれもが、二度と来ないように──時間の流れに転がされて、罅割れてしまったように。

 いずれ起こる『七つの大罪』は、だれにも止められない。

「変わらないから、未来なんだから」

 次の舞台の主役は、彼。

 勇猛に破綻した喧嘩屋。

 進めば壊れてつまらないカラーギャング、硝子張響

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