雨と星と卵
午後11時半。一日で一番好きな時間のスタートだ。
外は土砂降り。
少し窓を開ける。
夜の雨が大好きだ。人の歩く音も車の走り去っていく音もすべてをかき消し、自分を一人にさせてくれる。
携帯の電源を落とし、ベッドサイドのテーブルに炭酸水入りのコップを置いた。
昼間買った四冊から一つを選び、布団に潜り込む。
最近読むのはエッセイばかり。
他人の人生や生活、出会い、思いが垣間見えるところが大好きで、個人のエピソードに突っ込みながらも筆者の見えている世界にお邪魔させてもらう気分になる。
今日読むのは一人のミュージシャンのエッセイ。
音楽活動だけでなくドラマや舞台、ラジオなど幅広く活躍していて、なんといっても先日、おめでたい発表で日本中からお祝いされた人だ。
ほんとにこの男は出会い運が強い人なのだろう。
共演者や偶然乗り込んだタクシーの運転手、作曲に行き詰まりふらっと立ち寄った古い団地の景色。
薄い感想だが、
自分もこんなに豊かな出会いに溢れた人生を送りたい。自分と出会った人に「この人なんか面白い」って思われたい。
そう感じた。
それでも自分自身を変えてまですることではない。彼だって素敵な人に出会うために何回もタクシーに乗り込んでるわけではないだろう。
ありのままの自分でいるときに偶然出会った人が「私」を受け入れてくれただけなんだと思う。
私だってそうだ。偶然同じ学校、部活、バイトで、気づいたら友達になっていて、いつの間にか彼らは今もそしてこれからも自分の人生に欠かせない人になっていた。
何万人に向けて歌う彼と六畳半の部屋にいるわたし。
それでもその部分だけは同じな気がした。
エッセイには「新垣結衣という人」とつけられた章がある。
彼の目からこの女性はそう見えていたのかとか考えながらも、自分の顔が自然と緩んでいるのに気づき、心はなぜか温かい気持ちになっていた。
「あとがき」を読み終え、部屋の時計に目を移す。午前二時。窓の隙間からは同じ雨の音。
おなかが鳴った。
毎度毎度、悩みが発生する。
今から袋めんを作るか否か。
でも今夜は違う悩みだった。
ラーメンを作る際、スープに卵を溶くか溶かないか。
意外に早くその悩みは解決し、7分後には塩味のスープが絡んだ麺とフワフワのそれを一緒にすすっていた。
また少し顔が緩んだことに気が付いた。
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