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「半沢直樹:電脳雑技集団」の敵対的買収を科学する

皆さん、こんにちは!けんたろと申します!
数学とファイナンスがとても得意で、良く講義などさせていただくのですが、
今回は、現在絶賛放映中の半沢直樹から学べるファイナンスについて触れていきたいと思います。
ドラマでは触れられていない数々の論点を一つひとつ紐解いて説明していきます。下記関心ありましたら最後まで読んでいただけると嬉しいです^^

「なぜ”敵対的買収”という手法を選んだのか」
「なぜ”スパイラルを買収相手に選んだのか”」
「電脳は今回のスキームでいくら得をしたのか」
「今後の電脳が講じるべき手段はなにか?」


まだ放送を観ていない方は、半沢直樹2を是非見てから本noteもついでに観て頂ければ幸いです^^
いや、テレビ見なくていいんで、こっちだけ見ていいね押して、拡散して、何なら投げ銭もしてくださいwww
冗談です。スーツ版歌舞伎、本当に面白いので是非そちらを。


ということで、放送を観られたという前提で、本題へ入っていきます!

今回のスキーム一つひとつ緻密にロジックがあるんですが、まずは電脳は今回のスキームでいくら損したのか。その論点から見ていきます。
結論から言うと「電脳雑技集団」は今回の敵対的買収によるM&Aは失敗はしましたが、粉飾決算がばれた点を除きとてもお得な買い物ができていたので背景含め少しまとめてみます!

電脳雑技集団...あれ?得してる

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電脳が敵対的買収を仕掛ける前は元々の値段が690億円(シェア30%)だった株式を900億円で買ったので、210億円余分に支払って株式を買い付けたことになります。
専門用語で、これをプレミアムって表現したりします。
通常のTOB(敵対的買収)であれば、ここで失敗すると、株価は元の値段に戻ることが多いので、210億円+弁護士費用など諸々経費で損をすることが通常でしょう。ただ、今回はフォックス社との合弁の効果で、TOB期間中に株価が跳ね上がりました。

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結果、スパイラル社の株価は大きく飛躍し、電脳の持つスパイラル株式(シェア30%)の価値は1100億円にまで伸びました。
株価も更に伸びていきそうな活気ぶりでドラマは「電脳-スパイラルの敵対的買収編」を終えていきましたね。
ここで電脳が株式を市場価格で売れれば200億円の利益を得ることができ、粉飾決算分までして穴埋めした200億円を取り返すことができる、とても先見性に富んだ素晴らしいM&Aになったのではないかと思います。

こんな電脳にとってもメリットをもたらした本件でしたが
元々はどんな狙いがあり、電脳はスパイラルの買収を仕掛けたんでしょう。
財務諸表の細かな点はもちろん掲載などないので、得られる情報からふんだんに想像を足しながらnoteにまとめています!
原書『ロスジェネの逆襲』も本noteのために読み返しましたが、得られる財務面の記述は多くなく、推測もたくさん含まれる内容になってますが、
他社の財務分析なんて推測してナンボなんで、このM&Aの背景をお楽しみいただければと思います。
別の方もyoutubeなどでいろんな考察を挙げていたので、そちらも見て頂くとまた違う視点でも見れるかもです!(一応本noteと同様の内容はまだ見つかってないので、僕のnoteもおもしろですよ!!!!!!w)
ということで本題に戻りますw

1~4話のあらすじ

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このnoteを読んでいただいている時点でドラマは観られた方がほとんどだと思うので、
こちらはもはや絵すらも要らないかなとも思いましたが、念のためぺたぺたしておきます!
一言でドラマを表現すると以下通りでしょうか。

大手IT企業の「電脳雑技集団」による、ITベンチャー「スパイラル」の敵対的買収を巡り、銀行/証券など様々な企業が複雑に関わる近代版歌舞伎w

M&Aの事例が近年爆発的に増えているとは言え、なかなか選択肢として採られるケースも多くない「敵対的買収」がテーマなのも面白いですよね。
今から20年前ITベンチャーが有象無象立ち上がったときには、本当にこういう敵対的買収も多かったと聞いたことがあります。今回もそんな時代が実は舞台なんですよね。
ちなみに、実はなぜ電脳は「敵対的買収」という選択肢を取った(取らざるを得なかった)のか、大切な論点なので解説します。

それはドラマの結論にもなった粉飾決算です。
友好的買収の提案をすると、被買収企業(本ケースではスパイラル社)からもディーデリジェンス(事前調査)を受けることになります。
そりゃ、新しい親会社になる会社がどんな会社か気になりますよね。電脳としては、そんなことされると、万が一粉飾決算がばれた時に大変なことになります。電脳はスパイラル株式を買うにあたって、「敵対的買収」を取らざるを得なかったんです。

M&Aはこういった特殊なケース以外、基本買収後も気持ちよく働いていただくために、友好的買収が最善の策なんです。
この敵対的買収を取らざるを得なかったという視点面白くないですか?w

こんな感じで、ドラマをファイナンスで紐解いていくと、なぜ登場人物は、こんな打ち手を講じたのかとか、ドラマでは冗長で語られないところも見えてきて、いい勉強になりそうですよね!
では次に電脳がなぜスパイラル社を買収するに至ったのか、財務分析から見ていきましょう

電脳雑技集団のスパイラル買収の背景:企業分析

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電脳雑技集団の財務諸表はどこにも出てきていないんですが、定性的な情報はドラマや小説から得ることができます。財務三表(P/L、B/S、C/F)それぞれ見ていきましょう!

P/L:損益計算書
小説『ロスジェネの逆襲』によると、電脳雑技集団の売上は数千億円規模のようです。平山社長が商社を辞めて立ち上げたIT企業のようですね。
ドラマでも触れていたように、M&Aを通じた粉飾決算が数年前からされており、ここ数年の業績は良くなかったことが見て取れます。
利益も今期マイナス50億円だったと描かれています。

B/S:貸借対照表
粉飾決算を行う企業の目的の多くは、「外部資金獲得(銀行借入が主)」なんです。
自社の財務状況は健全なので、お金貸して下さい!っていう感じでしょうね。大がかりな粉飾を要するほど、財務状況に窮していたんだと思います。
借入金が得られない場合、デフォルト(倒産)間近の危険な状況なんだとは思います。
ただし、銀行はそんな容易にお金を貸しません(粉飾決算があったとはいえ)。きっと抵当に抑えることができる資産がたくさんあったんだと思います。本社もきれいでしたしね。
事業でキャッシュを生むチカラは弱まっていても、非事業ではキャッシュを持っているというバブル期の企業の特徴そのものですね。

C/F:キャッシュフロー計算書
営業CF:事業活動はうまくいっていないことが見て取れます。恒久的に赤字が続いていますし、こちらはマイナスだったんだと想定できます。
投資CF:こちらは粉飾決算目的の、M&Aをしたりと果敢な投資をしていたと想像できます。投資はこれから伸びる事業を作るため必要なので、こちらがマイナスなのは一般的には問題ないのですが、粉飾決算が目的だとすると…
財務CF:銀行との関係性はいろんな意味で蜜月だったようで、何とか投資を得られていますね。ただ、粉飾決算したりとかなり厳しい状況であったのは間違いないでしょう。

以上、財務状況はとても厳しい状況で、
借入金のために利益が出ているような工夫(粉飾決算)が必要なくらい、キャッシュに苦しんでおり、デフォルト間際の経営状況なんだと想像できる悲惨な財務諸表でしたね!


そんな中で、「なぜ電脳はスパイラルをM&Aしようとしたのか」こちらの問いに答えていこうと思います。

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電脳としては、銀行からお金を借りれないと、もはや倒産という危ない状況なんですよね。そして、銀行からの融資を獲得するための重要な指標は「黒字化」だという事です。

余談:黒字(P/L)だけで投資の意思決定がおかしいとは思う方もいると思いますが、こちら今から20年前です。会社の上司を思い出してください。みんな黒字なら投資していいって思ってるでしょ。この頃はこれが当たり前だったんですw詳しくは下記noteにまとめてますのでそちらも是非!
https://note.com/murajuku/n/n69b60ac52190

また、粉飾決算もしている電脳なので、M&Aし、子会社/孫会社など複雑な会社形態にすることで、自社の財務諸表を複雑で外部からわかりづらくしたいという背景もあったんだと推測できます。
①黒字化、②財務の複雑化を手っ取り早く解決するのが、M&Aなんですよね。どういうことかはこの後丁寧に触れていきますね。

そして、一般的に上場会社のM&Aには、上場株価よりも高い値段で行う必要があります。
ドラマでも株価23,000円だったのに、31,200円で買います!っていうスキームになってましたよね。でないと、株主からしたら売るメリットがないので、だいたい20-50%程度プレミアムを乗せるのが一般なんです。
でも、そうすると電脳の株主から「なぜ高く他社の株式買うねん!!」というツッコミが来ちゃうんですよね。
なので、電脳としてもM&Aによるシナジーでプレミアムの元が取れるくらい会社の価値伸ばせるというロジックが必要なんです。
そこで同じIT業界で伸び盛り、かつ高収益事業なスパイラルが今回ターゲットになったんだろうな、と思います。
電脳の財務さん、結構有能だなと思いました。こんな色々問題解決できる企業見つけてくるなんて、一流プレイヤーです。w

では先ほど横に置いておいた、なぜM&Aが黒字化問題を解決するのかを深堀していきます

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電脳はスパイラル株式の50.1%以上を事で、スパイラルを連結決算に組み込むことが出来ます。

上の表がわかりやすい(はず)なので、見て頂きたいんですが
スパイラルを50%買い連結財務にすると、赤字だった電脳の「利益」が黒字化されます。

電脳は、赤字だったんです。スパイラルを買うだけで黒字化する。魔法のようでないでしょうか
更にこのあと、きっとスパイラルとの取引は粉飾決算にも利用されていくことが予測されますね。関連会社内でキャッシュを回していくことでわかりづらくするのは昔の常套手段でした。

では次に疑問に思うことは、キャッシュにこんなに困っている電脳がなぜTOBをすることが出来たのか、また銀行から貸付を得られたのか

TOBの失敗までのプロセス

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「なぜ今回わざわざTOBという手段を取ったのか」、「計48%の株式を買えているので、あと少し買えば50%の株式を買うことができ買収成功するのでは?」と思う方いるのではないでしょうか。

まずはTOBから少し整理しておきましょう!
上場株式の1/3以上の株式を買うときにはTOBをしなきゃいけないというルールがあります。こちらは金融取引法なので厳守が必要です。
「期間/買取金額/得たい株式数」を公開して株式を市場から募集するスキームになります。この期間中、株主は①TOBに応じる、②TOBに応じず手元株として持ち続ける、③TOBに応じず上場市場で売買する、を選ぶことができます。また、期間内ならキャンセルすることができるんです。

今回ドラマで、電脳の出した公開買付は20%の株式を金額31,200円/株で公募していましたが、フォックス社との合併発表で市場からのスパイラルへの期待が高まり、電脳の公開買付価格を大きく超えて36,000円以上の株価になっていきました。そうするとTOBに応じるとしていた株主はキャンセルして、36,000円で上場市場で売ろうとしますよね。
なので、電脳はもしスパイラル社を買いたいならば、更に高値に再度金額を設定して買収をする必要があります

これが東京中央銀行で追加融資500億円をりん議にかけていた背景なんですよね。高値で株式を買うという事は、多くのお金が必要になりますからね。

そして、半沢直樹の粉飾決算見破りによって、この500億円の追加融資が廃案になり、この敵対的買収劇は終了することになりました。




では最後に今後電脳はどんな戦略を取るべきなのか...

電脳雑技集団への今後のご提案

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粉飾決算をした場合、上場禁止になったり、借りているお金も一括して返す”契約”になっています。ただ、多くのケースではそこまで厳しい対応にならないことがほとんどです。オリンパスや東芝の粉飾決算が最近だと記憶に新しいかと思いますが、どちらも上場維持してますし、金融機関からの貸しはがしにあってはいません。
理由は簡単で、株主にとっても、銀行にとっても倒産されると困るからです。上場禁止=株式価値が1円にまで下がります。そうすると粉飾決算をした会社ではなく、株主が困るんですよね。銀行も主銀行の場合も同様です。

では、これから電脳はどんな打ち手を講じていくべきか、見ていきましょう。前提として、事業再建とは長期視点で解決が必要ですが、電脳の事業内容など情報もないので、今回は短期対応だけですがw

まずは、スパイラル株式の売却でしょうね。
貸し剥がしにあいづらいだけで、銀行がいつ貸付資本の返還を求めてくるかわかりません。このようなリスクが高まっている状況で真っ先にすべきは、”事業に直接関係のない資産を現金化”することです。(オフバラ化)
スパイラル株式を持っていても、シナジー効果を作ることは困難でしょう。そのようにキャッシュ化していくべきかについては追って説明します。

次に、信頼回復です。粉飾決算の場合、やはり経営体質の問題は人的issueとして捉えられます。経営層を変えない限り、外部の目は許さないので、社長/副社長からの撤退と謝罪会見は必須でしょう...
でも20年前の日本。経営から退いても最強のポジションがあるんです。「差相談役」というポジションなんですw
平山夫妻には「相談役」に就くことをお薦めしましょう。
数年前、コーポレートガバナンスの強化一環で相談役についてネガティブな見られ方が国内にも醸成され、相談役設置企業はほぼなくなってきてますが、20年前はしっかり有効です。w
クリーンなイメージをもつマリオネット社長を据え置き、経営を担わせておき、ホトボリが覚めたらまた経営に戻ってきたらいいんです。
田中角栄などこの手法は政治などの世界でも取られた戦略ですw
少しブラックな打ち手ですね。でも戦略提案は受け入れられてナンボ。平山夫妻なら受け入れて頂けるでしょうw

スパイラル株式の売却について、話を戻しますね。
実はスパイラル社としても、この30%の株式を電脳が持ち続けていることはとても嫌なんですよね。またいつリスク再燃するかわからないですし...
恐らくスパイラル社は、株式の買戻しに応じるでしょう。

でもスパイラル社も足元を見るでしょう。
「御社、粉飾決算で、キャッシュすぐに必要なんでしょ?900億円で買ったんだし、今上場株が1100億円たけど、1000億円でどう?」と持ち掛けてくる可能性もあります。
スパイラル社としても、上場市場で大量に自社株が出回ると値崩れを起こすので避けたいでしょうし、喧々諤々な調整がこのあと予想されますし、それだけで1話ドラマ取れそうな匂いもしますw
ここへの対応案は、スパイラル以外にも売却を持っていくことでしょう。そうするとスパイラル社としては、30%がやはり1社にもたれることになりリスクのままなので、逆に高値で買ってくれる可能性があります。もしかしたら1200-1500億円で売れる可能性もあるのかなと思いますw
電脳の短期的再建プランはスパイラル株式を如何に売るか、でしょうね。
他にもデリバティブなど色々プランはありそうで、今度時間があればこのあたりもまとめたいと思います。

脱線しますが、デリバティブの名手はソフトバンクさんで、ソフトバンクグループ決算分析もしておりますので、是非そちらも見ていただければと思います!!https://note.com/murajuku/n/n3c1d079f8265


最後に

スパイラルが高値の株式売却プランに応じてくれたら、買うときに200億円プレミアムを払ったものが、逆に200億円超の儲けとなって戻ってきそうですね。
もしうまく進めば、最後下記暴言浴びせて憂さ晴らしする南野陽子さんを見てみたいですwww

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(スパイラル株式)買い損ねたから、売り返す!!!倍返しだ!!!!!!!!
(やられたら、やりかえす、倍返しだ!)


番外編:粉飾決算の詳細

粉飾決算のスキームも解説しようと色々調べていたら、めちゃくちゃ丁寧に解説していたyoutube見つけてしまって、僕が解説するよりわかりやすかったので、こちらはyoutubeに委ねます。


ということで、半沢直樹から学ぶファイナンスも個人的にはたくさんあったイメージでした!!
何かお気づきの点や不明な点などありましたらコメントで教えてください!

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けんたろ

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