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「失われた20年」を科学する(4)

皆さん、こんにちは!けんたろと申します!
数学とファイナンスがとても得意で、良く講義などさせていただくのですが、
今回は、NEWSでも見かける機会が増えてきたMMT(現代貨幣理論)をテーマに、資料作成してみましたので、note投稿いたします!

パート(1)では国家財政戦略ミスってたんちゃう?っていう論拠について。
パート(2)ではお金や金融工学の発展について書いていきました。
パート(3)ではMMTの骨格になる、租税と貨幣の捉え方について説明させていただきました。

そして今回のパート(4)では、
「自国通貨を発行している国は財政破綻しないってどういうこと?」「MMTを採用するとインフレ起こすんでしょ?」という、MMT関連で議論になっているポイントに触れていきたいと思います。

また、世界基軸通貨の地位を持つドルについても少しまとめてます。お金に興味深々の方、是非読んでいただければ幸いです^^

パート(1)~(3)のおさらい

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余談も多かったパート(1)~(3)ですが、ぎゅっとまとめてサマライズすると、
貨幣とは納税義務の解消手段であり、国家が債務の尺度として価値を定めることから規定されます。

そして、政府が支出を増やすほど、民間貯蓄が増加するため、国の借金は悪いことではないことを説明してきました。

更に、租税に関する捉え方も再定義し説明してきました。従来は国家運営資金の財源として捉えられていた租税ですが、MMTでは租税は経済需要の調整機能であることを述べてきました。


さて、そんな特徴を有するMMTですが、様々な議論を巻き起こしております。大きな論述は以下のような点でしょうか。

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これら論点をそれぞれフォーカスして説明を足していきたいなと思います^^

日本は財政破綻にならないってホント?

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よく財政破綻危機のNewsで見るのはこちらの指標ではないでしょうか。
政府債務残高(お国の借金)のGDP比の推移がこちらのグラフです。諸外国と比べても、日本は特出した債務残高の残る状況で、2018年時点でGDPの2.24倍の債務残高が計上されてます。

そしてこのグラフとセットで語られるのが、2010年財政危機として大きく取り上げられたギリシャや、現在も財政破綻間際と噂されるイタリアよりも債務が多い、という内容でしょうか。

僕も学生時代にテレビのニュースをギリシャの財政破綻に関するレポートを見たときに衝撃を受けたのを覚えています。銀行に預けられた預金が凍結されるという風説が流れ、銀行から預金を引き出すため長蛇の列ができる光景が放送されていました。

そんなギリシャよりも債務の多い日本ですが、MMTでは財政破綻はないと断言されてます。
日本とギリシャで一体何が違うのか、対比してみていきたいと思います!

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両国の肝となる違いは「通貨発行システム」になります。

日本は主権通貨国といい、自国で主権を有する貨幣(円)を発行する国になります。
円は、不兌換な変動相場制による通貨であり、さらに日本の債務はパート(1)でも触れたが、ほぼ自国通貨建てとなっている。
このような国は日本以外だと、アメリカのドル、英国のポンドが代表である。
そして主権通貨国では、もし財政破綻が生じそうになった場合、政府は自国の通貨を発行すればよいので、破綻しないというのがMMTの主張なんですよね。

一方、ギリシャはどうか。ギリシャはユーロを自国通貨として活用しており、複数国での通貨を共有している国家になります。つまりユーロという大きな他国通貨に紐づけされた固定相場制通貨を使用しているともとらえることができるんです。

ユーロ圏の国々だけでなく、ほかの国でも非主権通貨国に位置づけられる国はたくさんあります。
例えば、旧ソビエト連邦から独立したカザフスタンは、”テンゲ”という自国通貨を有しているんですが、国債のほとんどをドル建てで発行しています。そうするとカザフスタン政府は国債の償還期限が来たときにドルを準備しておく必要があります。もし十分なドルが準備できない場合、自国通貨をいくら刷ったとしてもドルとの交換レートは悪化するだけなので、結局デフォルトしてしまう、ということですね。

ギリシャも同様にギリシャの財政が危機になったとしても、ユーロを刷ることで財政破綻は回避可能ですが、ドイツやフランスなどが許さないでしょう。

これが日本とギリシャの違い=通貨発行システムの違いになります。
MMTにおいて、日本は財政破綻をしないと位置づけられるのは、パート①で触れたように日本はほぼ円建ての国債で賄っておる主権通貨国だからなんです。

では次の疑問に移りましょう!

財政破綻にならないとは言え、通貨量を増やしたらインフレになるのでは?

MMTの批判で最も見受けられるのが、「MMT(に基づいた政治)はハイパーインフレをもたらす。」というものでしょうか。

僕も戦後のドイツのハイパーインフレなどの事例を踏まえて、
自国のマネタリーを増やすとインフレになるのでは?と思いながらMMTの読書を進めてました。もちろん著書の中でもその論点に対する説明やデータに基づく考察も多々されているんですが、論理を見るよりもいい事例があるんですよね。
マネタリー(=日本銀行が世の中に直接的に供給するお金=「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「日銀当座預金」)を増やしても、金利は上がらないことを証明した国があるんです。またまた日本の登場ですw
どうやら最近、金融学者に日本はとても注目の的にされているようです。すごいリッチなデータがそろっているようです(ダメな方でwww悲しい!!)

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左図のデータがそちら説明するデータになります。緑線が日本のマネタリーで、赤線が政策金利です。マネタリー増加にも関わらず金利は一向に上がらぬまま0%前後を推移しているのが見て取れます。(相変わらず、財政支出とGDPはぴったり合致してますねw)

すなわち、マネタリーを増やすと金利も高騰するというのは机上の空論で、
日本経済結果が示す通り、これらにはほぼほぼ相関がないことが実証されてしました。

では日銀が増やしたマネタリーは一体どこへ流れていったのでしょうか。
答えは右図で示した通り、株主への配当金になりそうです。

この20年で、経常利益も3倍まで成長してますが、それ以上に大きな成長を見せているのが配当金でしょうか。5.7倍にまで増えています。一方、未来の経済成長への仕込みである、設備投資は6割程度まで下落しており、産業立国日本の姿は一体どこへ向かおうとしているのか少し気になる傾向になっていますよね。
また、僕たち一般社員にとっての関心は給与ではないでしょうか。役員給与は微増にも関わらず従業員給与は微減というのもけしからんですねw
世界が経済成長する中、我々一般人の所得は維持(微減)は、相対的に貧しくなっているということです。
国民生活が貧しくなり、配当金を得られない低所得者との格差が広がることが気になる傾向が見て取れましたが話が派生しすぎるので次の章へ。w

なぜインフレが必要なのか

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次に少し一般論になりますが、そもそもなぜ経済成長を考える上で、インフレが必要なんでしょうか。MMT監訳の中野さんがご紹介する記事でとてもおもしろい内容があったのでここで紹介いたします。

インフレになるとはモノの価値が上がっていくことになります。物価指数(コアコアCPIがメジャー)が右肩上がりになることを意味することが一般的ですね。
このような情勢下では、民間での雇用が生まれ、所得水準も上がるため、多くの国民の生活が安定化する傾向になります。
ではなぜ、これが良いことなのか、
(中野さんの記事で紹介されていた本の著者)下村さんが示す経済=経世済民に関する考え方こそ、インフレの必要性への答えなのかなと思います。

国民経済とは、日本列島で生活している1億2千万人がどうやって食べ、どうやって生きていくかという問題である。
その1億2千万人が、どうやって雇用を確保し、所得水準を上げ、生活の安定を享受するか、これが国民経済である。

インフレがなぜ必要か。
それは最大数の国民の生活の安定化のため、が答えなんだろうなと思っています。

MMTが採り入れられない理由はなにか?

これまで色々な論点でMMTを紹介してきました。
最もキャッチーな特徴は、「主権通貨国は自国通貨は発行し放題」という点でしょうが、
MMTの前提はケインズの派生であることを踏まえると”国民の完全雇用”や”民間貯蓄形成”にあると僕は思っております。
雇用と貯蓄形成を実現しながら、最大数の国民の生活水準向上を目的として経済を行うことこそ、まさに政治なんだと思います。

つまり、実質的な完全雇用を実現するために政府は支出を増やす必要があり、そのためには(インフレ傾向を確認しながら)租税管理を行うべきだろうと思っております。

ではなぜ、このような最大数の国民の生活の安定化に向けた財政施策やそもそも我々の貨幣へのコペルニクス転換が起きないのか。
いくつか論点はあるんでしょうが大きく3点ほどご紹介いたします。

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①政府がインフレを望んていない
コミュニティとはある分野の既得権益の集合体である。そして政府はそのコミュニティの集合体である」と僕の恩師から習ったことがあります。
さて、主張を戻します。インフレが起きると皆さんが持っている財はどうなると思いますか?
答えは今持っている富は相対的に小さくなる、が正解です。借金をしている人の借金も相対的に小さくなるとも言い換えることができます。
つまりインフレとは実質上、格差が縮まる可能性を持っており、富の再分配につながるんです。
これを既得権益者(≒政府)は嫌うためというのが一つの論点でしょうか。
今、富をしっかり持っている人からすると富を再分配されるということは損失を発生させることになるので、迎合されないのかもですね。

②予算の優先順位における説明責任を果たすため
まず、政府支出をネガティブに語られるのはなぜか、それは国内に効率的/効果的な未来につながるような有力な投資先がないというのが理由ではないでしょうか。
新たな政府支出によって生み出す雇用が国力につながっていない場合、その投資により、円は相対的に弱まりますしね。
そんな十分な投資先が国内にない中で、MMTの理論が普及したらどうなるでしょうか。
恐らく、国家予算の設計が従来よりも複雑になるでしょう。

従来だったら、限られた税収から費用支出がベースになるため、優先順位の議論のみで済んでいたでしょう。
一方MMTの論者が増えると、優先順位なんて置いておいて、投資をしてほしいという人と、その投資が国家反映に資するかという見極め(しかもこれは画一的な答えがない)を政府は考えねばならなくなるんですよね。

これは大なり小なり起きる問題で、皆さんの家の前に例えば、川が流れていたとして、そこに橋を架ければ、街へのアクセスがはるかに向上するとしましょう。
そして、皆さんは政府は支出し放題なんだと(MMTの都合のいい部分を抜き出し)理解したとしましょう。
そうすると、政府に橋を作ることを要請するではないでしょうか。
従来だと政府は、予算の優先順位というロジックを使って、財政面とのバランスで橋の予算化は困難と説明できたでしょう。
一方、租税が財源ではないのであれば、上記の優先順位に加え、その投資が国力に反映されるか、雇用をどれくらい生み出し、それによりどれだけの国内貯蓄が増えるのかを検討しなければいけなくなるでしょう。

政府が説明責任を果たせなくなることを嫌うのでは?というのが2つめの論点でした。

③「円」の実質的な信用価値の維持のため
MMTで論じられるのはあくまで閉鎖経済です。すなわち一国での財務に関する論点としては論理に辻褄が合わない部分は見受けられませんでした。
ただし、これだけ世界の経済的距離が近づいている近代では、一国の最適化問題では片づけられない部分が多々あります。
その中で、重要な論点は、国際金融市場での「円」の信用価値維持ではないでしょうか。
MMTで述べられるように国内の完全雇用や、成長のために政府支出を増やした場合、現在の経済均衡は崩れることになるでしょう。
その時に、急激に経済は次の均衡になるのではなく過渡を迎えます。その時に、圧倒的な経済(もしくは兵)のチカラをもつ国家の介入により
国内の富が海外へ流出する可能性があります。そうすると政府支出が国内の貯蓄にならず海外収支に吸収されてしまう恐れがあるんですよね。
これは円が実質的に信用価値の低下につながるんですよね。

そういう意味で、米国は世界の基軸通貨としての地位が、
またイギリスは金融市場の交差点であり、タックスヘイブンなど含め圧倒的金融流通を誇る地位があるため、この2国の今後の動きを注視することで
MMTをはじめとする金融工学にも次のPhaseが訪れるんだろうなと思います。

今後の政府施策と金融界隈の学者さんの分析が楽しみですね^^
次の論理が見えてきたら、続編も書いてみますので、ここまでお付き合いいただけた数少なーーーい方はこうご期待下さいww

おまけ

日本は、貿易収支の経常利益黒字に支えられる通貨としてのグローバル価値に基づき、国債を自国建てで形成できているお話をしましたが、
イギリスやアメリカはまた異なる状況下で成立しております。

例えばアメリカはどうでしょうか。

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実は米国は1980年代のニクソンショック10年後からずっと、経常収支や国家のプライマリバランスは赤字になってます。
それでも諸外国ではドルが流通しているんです。

この状況は米国からしたらドルを刷れば他国が勝手にモノとドルを変えてくれるということでしょうか。
アメリカとしてはこの状況を維持することは国家運営にとってとても重要になるでしょう。

そして近代のアメリカの政策や戦争史を見てみると、世界の基軸通貨としてのドルを維持するための色んな考察ができるんです。
このあたりはまた別のnoteで詳細を触れていきたいなと思います^^
(文字数が6000字超えそうだし、このnoteはここまででww)


けんたろ

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